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@IT総合トップ > @IT セミナー&カンファレンス > セミナーレポート:企業情報マネージャのためのオープンソース導入セミナー |
オープンソース導入のツボは、
ビジネス分野への進出が進むオープンソースソフトウェアについて、ユーザー企業の情報システムを管理するマネージャはどう対応するのが最適なのか。オープンソースビジネス界にこの人あり、といわれるテンアートニ 代表取締役社長 喜多伸夫氏と、アークシステムのテクニカルディレクタ ソリューション開発部 部長 清水徹氏、サンブリッジ テクノロジーズ 取締役 技術本部長 山城勝氏がそれぞれ講演した。
喜多氏はLinuxなどOSSと、WindowsなどプロプライエタリなOSを比較し「ライセンスコストではLinuxなどOSSで削減可能」と指摘した。これはOSSが原則無料で入手でき、Red HatなどLinuxディストリビュータの製品を購入しても年間コストが数万円から20万円程度で済むことを考えると当然だ。Windowsなどプロプライエタリな製品はさまざまなライセンス体系、ユーザーごとのライセンスがあり、総額はOSSと比較して高額になるのが一般的。喜多氏はOSSを中心に構築したシステムとWindowsファミリ中心のシステムのTCOを独自に計算した(@IT News参照)。
ただ、TCOを見た場合、単純なライセンスコストの比較ではなくシステムの運用コストに注目することが重要というのが喜多氏の考えだ。 プロプライエタリ製品の運用コストが、サポートを行うベンダやシステム・インテグレータ(SIer)任せでユーザー企業側がコントロールすることが難しいのに対して、OSSはユーザー企業の技術力が問われる。OSSで構築したシステムのサポートをSIerなどに丸投げするとTCO削減は難しい。しかし、ユーザー企業の社内でエンジニアを養成するなど体制を整えることで、サポートを内製化しTCO削減につなげられる。 これは、ユーザー企業が技術力を持つことは利用するアプリケーションの選択やバージョンアップ時期などの選択肢が増えることを意味する。OSSを有効に活用することで、企業の競争力を高められるというのが喜多氏のメッセージといえる。
一方、OSSをビジネス分野に適用するうえでの課題もある。そもそもOSSがビジネス・アプリケーションのすべての分野で利用できるわけではない。Webサーバや電子メールサーバではOSSの利用が圧倒的だが、そのほかの分野ではプロプライエタリと対抗するだけの存在感は示していない。 また、OSSは“コミュニティ”によって開発されるが、その参加者のほとんどは自身の興味や楽しみに基づいたボランタリな活動である。開発環境も個人的なものが多く、大規模システムに適応するかどうかの検証がコミュニティで行われると期待することはできない。つまり、多くのOSSはビジネス利用を前提に開発されているわけではなく、OSSを導入する際にはソフト間や他システムとの稼働検証、特に大規模システムでの評価が欠かせないと喜多氏は強調した。 そして、これらの作業をユーザー企業自らが行うか、SIerに任せるかのよって「初期コストがかなり変わる」と喜多氏は説明。この面でもユーザー企業がリーダーシップを取るOSS利用の重要性を指摘した。
清水氏はOSS導入を考える企業について、「企業文化や採用アーキテクチャと、OSS採用が合っているか」を検証することが大前提になると指摘。さらに内製が多く技術指向が強い企業、J2EEなどOSSとの親和性が高いシステムをすでに採用している企業が、OSSの導入が容易と説明した。一方で、特定のベンダ製品に統一してシステムを構築していたり、オフコン、メインフレームからOSSに移行する場合は、その企業に技術的な基盤がないケースが多く、OSS導入が難しいと説明した。
では、OSSを導入する場合、どのような分野から手をつけるのが適しているのか。清水氏は「ミッションクリティカルではないシステムから始めるのがよい」と述べた。ミッションクリティカルではないとは、例えば1分以内でのフェイルオーバーを要求されないアプリケーションや、大容量データ、大量トランザクションでの高速なレスポンスが要求されないアプリケーションだ。さらに業務上のサービスレベルが高くない社内の情報系支援システムや過度な要求をされないミドルウェアなどの分野。喜多氏の説明にあったようにOSSはもともと、大規模システムでの利用を考えて開発されているわけではない。そのためミッションクリティカルではないシステムでの採用から始めて、システムの可用性を検証する作業が重要になるのだ。 清水氏は「システムのスペック的には70点の性能、機能を満たせばよく、100点の商用製品を使うとオーバースペックになるようなシステムへまずは適用するのがよい」と説明した。
清水氏は、アークシステムが担当したOSSシステム構築の事例を紹介した。 1万2000人のユーザーがいる情報サービス企業は、全国300拠点に展開する1万台以上のPCやプリンタなどのIT資産を管理するシステムを、OSS中心で構築した。機器の導入や変更などの申請をオンラインで受け付け、ActiveDirectoryに登録するシステムで、人事データと連携し、どの社員がどのPCをどこで利用しているかを集中的に管理する。バッチ処理なども行う社内システムで、ミッションクリティカルな可用性は要求されない。 それまでのシステムはDominoで構築していたが、新システムではきめ細かいワークフロー制御や多様なインターフェイスが必要となるためDominoでの構築を断念。ただ、社内業務用システムのためコストをかけることができず、OSSを選択した。システムは稼働が営業日の8時から22時まで、トランザクション数も1日に300件程度と高いサービスレベルを求められないこともOSS中心のシステム構築を後押しした。
新システムはWindows 2000 ServerをプラットフォームにしてWebサーバにApache、アプリケーションサーバにTomcat、画面制御のフレームワークとしてStruts、O/RマッピングにTorqueを採用した。データベースにはOracle、運用管理にJP1など商用製品も利用し、OSSと組み合わせた。 OSS製品は、そのまま使わずにそれぞれカスタマイズを行った。Strutsは2度押し、画面割り込み禁止の仕組みやプログレスバーなどの部品を追加した。TorqueはOUTER JOINなどをカスタマイズ。Tomcatはバージョン管理が重要として、開発中の1年でv4.1.17からv4.1.24までセキュリティパッチを当ててバージョンを上げたという。OSSを採用したシステム構築をベンダやSIerに依頼する場合、このようなカスタマイズができる技術力を備えているかを見極めることが重要と清水氏は説明した。
山城氏の経験ではLinux上でOracleデータベースを稼働させた際に、Oracleが突然落ちるトラブルが発生。検証するとLinuxのカーネルにバグがあることが分かり、別のカーネルを使うことでトラブルを回避したという。山城氏は「特殊な用途、使い方は避けたほうがいい」と説明。大規模システムでの利用も「慎重になったほうがよい」と述べた。
また、中小規模のシステムをOSSで構築しても、ビジネスの成長で大規模なシステムを新たに構築するケースがある。大規模システムへの移行でOSSから商用製品にマイグレーションするケースもあり、山城氏は「PostgreSQLでシステムを構築しても、大規模システムに移行した際にはOracleにマイグレーションできるよう別のレイヤを設ける必要がある」と述べ、商用製品への移行パスをあらかじめ考える必要があると説明した。
(編集局 垣内郁栄)
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