「ピカソ、113億円で落札」をUMLで表現するオブジェクト指向の世界(4)(2/2 ページ)

» 2003年06月23日 12時00分 公開
[河合昭男((有)オブジェクトデザイン研究所),@IT]
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[例題2]中国高速路線応札

 次は中国高速路線応札の記事で、路線図が添付されています(日本経済新聞2004年5月13日朝刊1面トップ記事、記事からの引用を『』で示します)。

メインタイトル(縦書1行、Font大)『中国の鉄道高速化応札へ』

サブタイトル1(縦書1行、Font中)『在来線に新幹線車両』

サブタイトル2(横書1行、Font小)『川重など6社』

サブタイトル3(縦書1行、Font小)『1000億円規模の商談に』



 まずこれらのタイトルと路線図から頭の中で文章を構築しましょう。

 「川重など6社は、新幹線車両を用いた中国の鉄道高速化プロジェクトに1000億円規模で応札の計画」となります。これを次のように単純な4つの文に分割します。

  • (1)川重など6社が鉄道高速化プロジェクトに応札する
  • (2)プロジェクトには新幹線車両が含まれる
  • (3)中国がそのプロジェクトを計画している
  • (4)応札予定金額は1000億円規模である

 (1)(3)はSVOパターンでUMLでは二項関連です。(2)は集約関連で表現します。(4)の金額はプロジェクトというオブジェクトの属性と考えるよりは、応札者とプロジェクトの間の応札するという関連の属性として考えるのが自然です。UMLでは関連クラス「応札」を作ってその属性として「価格」を追加します。関連クラスと関連の間は点線で結びます。図3にオブジェクト図を示します。

 このモデルを例題1のオークションモデル(図1)と比べると基本的に同じパターンであることが分かります。

ALT 図3 「中国の鉄道高速化応札へ」タイトル

 次に記事内容へ入ってゆきます。

 『川崎重工業、三菱商事など日本企業6社は、中国の鉄道車両大手、南車四方機車車両(山東省青島市)と組み、中国在来線の車両高速化プロジェクトに応札する。時速200kmの特急路線を5路線、総距離2000km超にわたり整備する計画で、近く入札が始まる見通し……』。

 これを整理してみます。

(1) 企業連合

 日本企業6社の企業連合と中国の企業とで国際企業連合を作り、そこがプロジェクトに入札するということです。日本企業6社の名前はこの後にあります。組織構造は集約で表すことができます。図3の「川重など6社」を「日本企業連合」という組織として集約で表します。さらにその上部組織として「国際企業連合」という組織を作り、その下にこの「日本企業連合」と中国企業を集約で表します(図4参照)。

ALT 図4 「中国の鉄道高速化応札へ」記事内容

(2) プロジェクト

 プロジェクトに含まれる5つの路線は添付の図にあります。これらを「計画路線」の構成要素として集約で表します。

 これらと記事の細部を2〜3追加すると記事内容のオブジェクト図は図4のように表すことができます。

 冒頭に、物の値段は誰が決めるのかというお話をしました。それは売り手が一方的に決めるものではなく買い手でもありません。物の値段は市場の法則に従って決まります。オークションの例は売る物が1つしかなく、複数の買い手が入札により値段を決めます。逆に応札の例は1つのプロジェクト(買い手)に対して、複数の売り手が応札により適切な価格を決めます。

 これら2つのモデルに共通するパターンを次のような1つのクラス図にまとめることができます(図5)。ここでは「入札パターン」と名付けます。入札者対入札対象の多重度が多対1になっているのが特徴です。例1では1枚の絵画のオークションに複数の買い手が入札します。例2では1つの建設プロジェクトに複数の業者(売り手)が入札します。入札対象となるものの所有者は個人の場合も組織の場合もあります。人と組織をまとめたクラスは一般的に「パーティ」と呼ばれています。

ALT 図5 入札パターン

 以上、2回にわたり、新聞記事をUMLで読むという試みについて解説してきました。いかがでしたでしょうか。新聞記事は具体例なのでオブジェクト図になります。いくつかのオブジェクト図を眺めると共通なパターンを発見することができます。これはクラス図であらわすことができます。これがアナリシスパターンあるいはビジネスパターンです。「流れ去るものと普遍なもの」、オブジェクト図は「流れ去るもの」であり、「普遍なもの」がパターンです。これを機会にぜひご自分で記事を選び、UML化してみて「流れ去るものと普遍なもの」を発見してください。

プロフィール

河合昭男(かわいあきお)

 大阪大学理学部数学科卒業、日本ユニシス株式会社にてメインフレームのOS保守、性能評価の後、PCのGUI系基本ソフト開発、クライアント/サーバシステム開発を通してオブジェクト指向分析・設計に携わる。

 オブジェクト指向の本質を追究すべく1998年に独立後、有限会社オブジェクトデザイン研究所設立、理論と実践を目指し現在に至る。

 ビジネスモデリング、パターン言語の学習と普及を行うコミュニティ活動に参画。著書『まるごと図解 最新オブジェクト指向がわかる』(技術評論社)、『まるごと図解 最新UMLがわかる』(技術評論社)。『UML Press』(技術評論社)、『ソリューションIT』(リックテレコム)ほかの専門誌に多数執筆。ホームページ「オブジェクト指向と哲学」。



「オブジェクト指向の世界」バックナンバー

【参考文献】
▼小室直樹、「資本主義原論」、東洋経済、1997
▼河合昭男・中桐紀幸、「明解UML−オブジェクト指向&モデリング入門」、秀和システム、2004年3月20日


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