株式会社エイデン eコマース専用サイトから、クリック&モルタル型への転換を目指す

家電量販店のWebサイトといえば、ネット通販と思われがち。しかし、エイデンはあえてコマース専用サイトを修正し、店舗や会員情報ページを充実させてリニューアルした。店舗カードの顧客にもWeb活用を促し、既存顧客をしっかりととらえて離さない作戦だ

» 2002年12月21日 12時00分 公開
[松本すみ子,@IT]

課題──実店舗とサイトの連携が欠如

 エイデンは、中部地区最大の家電量販店だ。広島を地盤とするデオデオと事業統合し、2002年3月に設立した共同持ち株会社「エディオン」は年商で業界3位、さらに大阪の上新電機、東北のデンコードーなどとも提携を進めており、全国でも屈指の大手家電量販チェーンである。

 エイデンのeコマースサイトには、グループ内のパソコン販売店コンプマートのブランドを利用した「ハイパーコンプマート」があった。4年前にオープンし、情報機器のみを販売するオンライン専門のサイトである。一方、エイデンの実店舗の方は、家電も情報商品も両方扱っている典型的な量販店。問題なのは、グループのWebサイトが「ハイパーコンプマート」だけであり、実店舗との連携が一切なかったことだ。

 エイデンは以前から、顧客固定化を目的にして、店舗を利用した顧客に“The倶楽部カード”を発行している。購入履歴からポイント蓄積まで、顧客情報はすべてデータベースへ蓄積していた。しかし、システムが連携していないため、店舗では使えるThe倶楽部カードのポイントを「ハイパーコンプマート」で使うことができなかった。当然、顧客からは、同じ会社でなぜ同じサービスが利用できないのかという不満の声が聞かれるようになっていた。

株式会社エイデン 営業企画部eコマース課・小田明義課長代理 株式会社エイデン 営業企画部eコマース課・小田明義課長代理

 Webサイト「ハイパーコンプマート」の位置付けも通販の延長線上の存在で、実店舗を営業的にバックアップするためのものではなかった。例えば、店舗でキャンペーンを展開していても、それを紹介するといった機能は期待されていなかったのだ。サイトをオープンした当時は、Webサイトを開設すれば売れる、もうかるという風潮の強いころ。当時、名古屋では家電量販店でサイトを設けているところは少なく、通販サイトとしての実績はそれなりに上がっていた。

 しかし、「ハイパーコンプマート」の会員情報を調べてみると、顧客の7〜8割は店舗と同じ地域の居住者。店舗連動していない状況に、不満が出るのも当然だったという。そこで、社内からもリニューアルの必要性が語られるようになり、2001年春ごろからリニューアルに着手することになった。「今度作るサイトは、店舗とサイトを連携させて、エイデンというブランドを高めるようなクリック&モルタル型にしたい」(営業企画部eコマース課・小田明義課長代理)と考えの下、スタートした。

リニューアルの提案はボトムアップで

 今回のサイト構築は、担当部門からの提案で始まっている。いまのコマースだけを追求しても、エイデンのようにどこでも買える商品を扱っている場合、価格で比較されてしまう。では、価格でNo.1になれるかというと、それも難しい。サービスの一環としてコマースサイトを提供することは大事だが、それだけではなく店舗連動を考えて顧客にとっても有用な情報をどんどん提供していく総合的なサイトを構築する方が良いのではないかという提案であった。

 社内ではWebサイトをオープンさせること=インターネット通販というイメージが強かった。小田氏は、新聞、雑誌、チラシ、DMなどメディアがいろいろあるように、インターネットは紙にはないような情報を提供できるメディアだと考えている。価格比較をして買ったら終わりというような機能重視のサイトではなく、そこを乗り越えた楽しく参加できるサイト──つまり、The倶楽部カード会員のポータルのようなサイトをイメージしていた。

 実作業として取り組みが始まったのは2001年10月。ちょうど全社基幹システムの再構築に入った時期で、システムインテグレータとしては日本総研、そしてCRMに関係する業務の一部に大日本印刷が入っていた。そこでWebサイトリニューアルにも、この2社に要件定義の段階から参加してもらうことにした。大日本印刷は主に印刷物であるダイレクトメール(DM)に関連する業務を委託するパートナーだったが、“だれに”“どれだけ”送付するかという面で、データマイニングなどのシステムやノウハウを持っていた。このノウハウを有効活用するためにも、Web会員だけでなく、実店舗の会員も含めて顧客統合マスタを構築することが、今回のシステム開発のポイントであった。

パッケージの採用で短期間開発を乗り切る

 そこでエイデン側から、新たに採用したい内容、追加したい項目をマトリックスにしてパートナー両社に提案、検討を重ねた。「カットオーバーを4月初めにしたいという考えがありました。そうすると、もう3〜4カ月しかない。それならパッケージを探してくるのが一番早いのではないか」(小田課長代理)ということになったという。

 日本総研から勧められたパッケージは、ベイテックシステムズの「Bay Commerce」+「BayMarketing」と、ブルーマテーィニ ソフトウェアの「Blue Martini」の2つだった。

 Blue MartiniはCRM機能が高度で、詳細な分析を行うことができ、その結果をグラフ化できるなど優れたソフトであったが、マーケティング知識が相当ないと使いこなせないという印象があり、費用面でも若干高め。日本語バージョンができたばかりの海外製ソフトでもあり、さらに、日米ではCRMの観点が違うのではないかという心配があった。その点、ベイテックシステムズ製品は日本企業のサイト構築の実績があり、コスト面にも優れ、操作も比較的簡単なため、こちらを採用することにした。

エイデン・コンプマートの総合情報サイト「E-STYLE」のシステム構成図 エイデン・コンプマートの総合情報サイト「E-STYLE」のシステム構成図

 その後の作業は時間との勝負だった。3月の時点で当初予定の4月スタートには間に合わないと予定変更を余儀なくされたが、それでも5月28日にはカットオーバーにこぎ着けた。

 新サイトは、旧サイトに比べて売上増はもちろんのこと、ページビュー増が目標だ。リニューアル前は月間40〜50万ページビュー、一番良いときで70〜80万だったが、リニューアル後の目標は100万ページビューとした。

統合マスタの整備で、リコメンデーションが可能に

リニューアルされたエイデンサイトのトップページ リニューアルされたエイデンサイトのトップページ

 リニューアルされたエイデン・コンプマートの総合情報サイト「E-STYLE」は、リコメンデーション・システムを備えている。

 普通にサイトにアクセスしただけのログインしていない状態では、商品群ごとの売れ筋No.1が5種類表示されるが、登録メンバーがログインすると、商品表示がその購買履歴に基づいてお薦め商品に変わるようになっている。

 これは基幹システムから顧客データを、いったんリコメンドエンジンに入れ、顧客属性によりインデックスを付ける方法で行っている。そのランクやフラグは、商品表示以外にさまざまなことに応用している。

 The倶楽部カードの会員は、サイトへの登録も容易に行える。会員番号と電話番号を入力すれば、次のページで基本情報が表示され、これを確認・認証することで、簡単にメンバーズクラブへの登録が行える。The倶楽部カードのホルダーが、サイトのメンバーズクラブに登録すれば、オンラインショッピングにもカードポイント付与され、また安心保証延長サービスを購入商品に付け足すことができる。これらはすべての顧客情報を一元管理する統合マスタを整備したために可能になったものだ。

 現在は基幹システムの問題でリアルタイム処理は行えないが、この統合マスタの整備により、いずれマスタ情報のシリアルをキーにして、さまざまなサービスを拡充していけるはずだ。

 すでに、実店舗+Webオンラインショッピングの購入履歴は表示できるようになっており、プリンタのインクリボン・カートリッジなどのように同じ商品を続けて買う場合に、Webからの注文が簡単にできる。これを基に開発したのが、12月からスタートした買取価格検索だ。これは顧客が購入して持っている製品の買い取り価格を表示して、次の購買につなぐ仕掛けである。顧客は自分の持っている製品の品番などが分からなくても、買い取りや下取りの交渉を行うことができる。このほか、買った品物を宅配ではなくて店舗を指定して取りに行くことも可能になっている。

メールマーケティングも積極活用

 当初目標の100万ページビューは達成することができた。リニューアル後のサイト評価は、いまのところ、意見が分かれている。コマースという点ではトップページに商品がたくさん並んでいるわけではないので、オンラインショッピングを期待していた顧客には不満かもしれない。しかし、ネットと実店舗の両方を利用する人が増えているため、便利さを評価する人も決して少なくない。

 現在、サイトの登録メンバー数は5万7000人。しかし、The倶楽部カードの会員は200万人いる。4人に1人は入会するという計算で50万人獲得が目標だ。

 メールアドレスに関しては、店舗でもThe倶楽部カード入会時に記入してもらっているため、サイトのメンバーズクラブ会員でなくてもメール配信が可能になっている。もちろん、前述の統合マスタにより、配信内容によっては、実店舗+Webサイト会員の全員にメール配信することもできる。

 この統合マスタには利用店舗コードが振ってあり、店舗ごとのメールマーケティングも可能になった。店舗コードは固定ではなく、購入履歴により自動的に割り振られるシステムになっている。

 今回の最大のポイントは、「今後の可能性を踏まえて、統合マスタを整備したことだ」と小田氏は語る。このインフラを活用して、何をしていくかはまだまだこれからの状態だという。アイデアはいろいろ出てくるが、店舗とWebの連動の最適な形がどのようなものであるのか試行錯誤しているところのようだ。


 家電の総需要は、今後大きく伸びることは期待できない。いかに既存顧客の満足度を高め、顧客単価を高めるか、高いシェアを維持できるかが経営戦略上の課題となる。小田氏は「たくさんのエイデンファン、コンプマートファンのお客様に、喜んでご利用いただけるサイトになるように努力を続けていきたい」という。そのことを通じて、顧客満足度を高めていくという考え方だ。

Corporate Profile

株式会社エイデン

本社所在地 :愛知県名古屋市千種区覚王山通8-70-1

創業:1948年7月23日

資本金:126億9431万円(2002年6月27日現在)

代表者:岡嶋昇一(代表取締役社長)

事業内容:家庭電化製品・OA情報通信機器の販売、修理、ならびに関連商品の販売

店舗数(2002年10月1日現在):102(エイデン)、182(エイデングループ)

URL:http://www.eiden.co.jp/


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