変化に強い情報システム基盤構築の最適解 見えてきたSOA導入“成功の鍵”@IT情報マネジメント/ITアーキテクトフォーラム共同セミナー:セミナーレポート

@IT情報マネジメント/ITアーキテクトフォーラム主催「変化に強い情報システム基盤構築の最適解〜見えてきたSOA導入“成功の鍵”〜」が7月2日に開催された。SOA(Service Oriented Architecture)は企業システムをどのように変えるのか、その具体的は方法とメリットは……。気になるSOAに関して5つのセッションが行われた。

» 2004年07月30日 12時00分 公開
[岡崎勝己,@IT]
@IT情報マネジメント/ITアーキテクトフォーラム共同セミナー
変化に強い情報システム基盤構築の最適解〜見えてきたSOA導入“成功の鍵”〜」

ジェネラルセッション

>>>@IT[FYI]セミナーリポート
SOAのためのROI実現法〈Realizing ROI for SOA〉
  〈講師〉
IONA Technologies Technical Director Peter Cousins氏
セッション1
SOAはバズワードか?〜その不安と期待〜
  〈講師〉
清水建設株式会社 情報システム部 課長 安井昌男氏
セッション2
SOAでビジネスリエンジニアリングはどう変わるか
  〈講師〉
日本アイ・ビー・エム株式会社 ソフトウェア テクノロジー・エバンジェリスト 米持幸寿氏

セッション3

>>>@IT[FYI]セミナーリポート
SOAを実現する──Making Software Work Together
  〈講師〉
日本アイオナテクノロジーズ株式会社 テクニカル・セールス・マネージャ 江川潔氏
パネルディスカッション:パネルディスカッション&インタビュー
各社の考えるSOAと、その製品・技術とは
  〈パネリスト〉
日本アイオナテクノロジーズ株式会社
テクニカル・セールス・マネージャ 江川潔氏
  ソニック ソフトウェア株式会社 セールスエンジニアリング部
シニア セールスコンサルタント 武末徹也氏
  株式会社日立製作所 ソフトウェア事業部
Java/XMLソリューションセンタ 大場みち子氏
  〈モデレータ〉
株式会社アットマーク・アイティ 取締役 編集局長 新野淳一


環境変化への対応策がSOAの相互接続性≫

清水建設 情報システム部 課長 安井昌男氏 清水建設 情報システム部 課長 安井昌男氏

 米アイオナテクノロジーズ テクニカルディレクターのピーター・カズン氏によるジェネラルセッションに続いて、ユーザーサイドの立場からSOAに対する疑問と導入手法について講演したのが、清水建設 情報システム部システム開発課長の安井昌男氏だ。安井氏はいま、盛んに取り上げられるSOAについて次のような見解を示した。

 「SOAはシステム統合を図る極めて有効な手段という点で、確かに気に掛かる存在ではあります。しかし、“サービス”“疎結合”“粗粒度”といったSOAの用語そのものが理解しにくいことから、SOAとは何なのかを把握し切れていません。さらに、SOAで設計されたシステムをまだ目にした経験がないというのが実情です。ユーザー企業はSOAによる開発を果たして実現できるかどうか見極める必要があります」

 安井氏は顧客へ提供する価値の向上を目指し、業務プロセスをできる限り自動化できる環境を整えることこそシステム統合の目的と説明する。企業システムは人事管理、財務管理といった企業経営における基幹情報を管理する「記録・集計系システム」と、営業系や製造系など業務プロセスの核となる情報を扱う「プロセス系システム」の2つに大別できるが、顧客へ提供する価値の向上を図れるのは後者の統合にほかならない。

 安井氏がSOAに期待を寄せる理由は、プロセス系システムに求められる要件にある。プロセス系システムには経営方針の変更などを受け、システムのモジュールに手を加えるといった対応がしばしば求められる。だが、従来型のシステム統合は個々のモジュールを独自のインターフェイスで結び付け、いわばバトンを渡すように業務プロセスを引き継ぐもの。その結果、モジュールを変更するために新たなインターフェイスの開発などが求められるとともに、業務プロセスの変更に柔軟に対応することが困難となる。これに対し、SOAであればサービスのインターフェイスはすでに標準化済み。サービス間での処理の引き継ぎもBPELを変更するだけで新たに規定できる。SOAによりプロセス系システムは環境変化に対応できる十分な能力を備えられるわけだ。

 とはいえ、SOAは相互接続性を確保するための手段にすぎず、既存のシステムにSOAを適用しただけでは何ら価値を生み出さない。では今後、SOAはシステム開発にどう適用されるようになるのか。安井氏の予測はSOAの粗結合性により開発と運用の効率化が見込めることを踏まえ、新規アプリケーションの開発など、部分的な導入から適用が進むのではというものだ。

 安井氏は、最後に次のように語ってセッションを結んだ。

 「ROIを抜きにしたシステム設計はもはや考えられません。そして、SOAの投資効果を正確に測るために必要となるのが、新たな価値を生み出すメカニズムを明確にするための、自社のビジネスプロセスのモデル化です。今後、システム開発に当たり、ビジネスモデリングの重要性が一層増すに違いありません」

システムをラップすることでレガシーシステムをサービス化

 安井氏が指摘するように、SOA適用の最大のメリットは、“柔軟なシステム”を実現できる点にある。いわば電子ブロックのようにモジュール(サービス)を柔軟に組み替えることでビジネスプロセスの変化に対応でき、例えば百貨店の“お歳暮システム”のように、従来ならばあまりに短期間過ぎてシステム化の対象にならなかったものであっても、IT化可能となるのだ。ただし、すでに企業は特定ベンダのプラットフォームから成る、いわばモノシリック(一枚岩)なシステムを抱えている。それらを捨て去ることは、ROIを考えても現実味が薄い。それらを活用しつつ、SOAを適用するにはどのような方法があるのだろうか?

日本アイ・ビー・エム ソフトウェア テクノロジー・エバンジェリスト 米持幸寿氏 日本アイ・ビー・エム ソフトウェア テクノロジー・エバンジェリスト 米持幸寿氏

 日本アイ・ビー・エム ソフトウェア テクノロジー・エバンジェリストの米持幸寿氏はこのような企業の現状を踏まえ、企業がシステムにSOAを適用する手法について、ボトムアップ型とトップダウン型という2つのアプローチを説明した。前者は開発者が、後者はマネジメント層がそれぞれ主導して実施するものだ。

 ボトムアップ型の手法は、サービス同士の接続・切断が柔軟かつ容易に行える点に着目したもの。開発者は開発過程の工数をそれだけ削減できるわけだ。

 「サービスは独立して稼働するソフトウェアモジュールで、公開され標準的な方式で呼び出せなければなりません。また、インターフェイスは記述可能で、どこにどのようなサービスがあるのかが分かる仕組みとなっています。既存のシステムもいわばラップすることでサービス化を図れ、開発や運用を容易に行えるようになるのです」(米持氏)。

 アイ・ビー・エムではSOAのデザインパターンをいくつか分類しているが、その中でレガシーシステムを生かす手法が、1. 統一したロジカルビュー、2.レガシーコードのアダプタだ。1.はファサード・パターンを用いレガシーシステム全体をラップし、2.は個々のレガシーシステムにサービスのアダプタを設けるものとなっている。

 一方、トップダウン型のアプローチとは、企業経営の観点から業務プロセスを柔軟に変更するためにSOAを適用するというものだ。

 米持氏はIBM WebSphereファミリのプロセスエンジン、モデリングツール、モニタリングツールなどを紹介しながら、利用しやすいようサービス化された既存システムの相互接続がビジネスプロセス・モデリング、シミュレートと結び付いたソリューションを紹介した。

 「すべてのソフトウェアをサービスとして統合できるのがSOA。システムをビジネスモデル主導で構築でき、システムをよりビジネス寄りにとらえることが可能になります」(米持氏)。

 また、米持氏は企業システムは近い将来、エンタープライズ・サービスバス(ESB)を中心とするものになると予測した。ESBとは標準に基づくメッセージング・バスで、Webサービスなどの標準仕様に基づいて設計されたコンポーネントを互いに結び付けるもの。ESBにより各アプリケーションが容易に連携できるようになるわけだ。

 そのためには各ソフトウェア(サービス)が標準に準拠している必要があり、あらためて標準をベースにしたビジネスモデリングの重要性を訴えた。

SOA実現に向け、さまざまなソリューションが登場

左より日本アイオナテクノロジーズ 江川潔氏、ソニック ソフトウェア 武末徹也氏、日立製作所 大場みち子氏

 日本アイオナテクノロジーズ 江川潔氏によるシステム設計側から見たSOAとアイオナ・ソリューションを紹介するセッションを挟んで、パネルディスカッション&インタビューが行われた。日本アイオナテクノロジーズ、ソニック

ソフトウェア、日立製作所各社が提供するソリューションの特徴や普及に向けた戦略が語られた。

 最初に日立製作所 ソフトウェア事業部 Java/XMLソリューションセンタの大場みち子氏が、J2EEに対応したアプリケーションサーバ「Cosminexus」を用いたSOAの適用手法について説明した。

 日立製作所では、今後の企業は生き残りに社内外を巻き込んだビジネスプロセスの短期立ち上げが必須ととらえて、SOAに着目。そのうえで大場氏は、企業がSOAを効果的に適用するにはサービスの粒度を意識したビジネスモデリングが重要と説く。そのためには業務分析時点でサービスやコンポーネントを意識した業務モデリングが求められるが、日立製作所はコンサルティングで企業を支援する体制をすでに整備できており、顧客の要望に迅速に対応できるという。

 次にソニックソフトウェア株式会社 シニアセールスコンサルタントの武末徹也氏が、同社のアプリケーション統合基盤「SonicESB」を解説した。SonicESBはJMSのメッセージング技術をベースにしたエンタープライズ・サービスバス(ESB)を最初に実装した製品。標準技術による「バス」として機能し、BPMのフル機能やBAMのデータ基盤としての機能は、サービスとして必要に応じて追加実装できる点が特徴だ。最低限の構成から必要に応じてシステム規模を拡大できるSonicESBの特性はTCOの削減が期待できる。さらに武末氏は、SonicESBは独自のフォールトトレラント機能を備えている点に触れ、ビジネスを止めないための可用性の高さをあらためて強調した。

 CORBA製品でトップシェアを誇るアイオナテクノロジーズが提供するSOAソリューションがArtixだ。日本アイオナテクノロジーズ テクニカル・セールス・マネージャの江川潔氏は、ミドルウェア連携を図るためにWebサービスに着目した製品であるArtixの特性を説明するとともに、対応プラットフォームの拡充など今後のロードマップについて述べた。さらに、アイオナとして今後、モバイル用通信インターフェイスを備えるなど、システム連携のチャネルの多様化に注力すると語った。

成功のポイントは、「ビジネスモデリング」「コンサルタント」

 3人による議論でまずテーマとなったのが、企業内のデータ統合に関するものだ。企業内には部署ごとにこれまでさまざまなデータが蓄積されてきた。SOAによりシステムを統合する場合、これらをいかに一元化するのが大きなテーマとなる。これに対し、各社からは「新たにシステムを構築するのであれば一元化を図ればよいが、メッセージ変換ツールなどの利用が現実的ではないでしょうか」(大場氏)、「データの統合は一大事業。工数などの問題から初めからあきらめてしまうケースもあります」(江川氏)、「システムのアーキテクチャなどの要因により、ケース・バイ・ケースで判断すべきです」(武末氏)といった声が寄せられ、データベースの一元化の難しさと、その解決策としてXMLの特性を生かしたメッセージ変換技術の活用が挙げられた。

 また、ESBを使ったソリューションに関しても、そのメリットと課題も話題となった。データ変換の工数を大幅に削減できるという点はおおむね評価され、バス本来の機能はほぼそろってきたとされたものの「サービスの定義や管理を行える機能を備えたほうがよい」(江川氏)との指摘もあり、今後はサービスの記述やコーディングの充実、運用の効率化に向けた取り組みが求められるとの見通しが語られた。

 議論の最後にはSOAの導入を成功に導くための鍵について各社の見解が語られた。江川氏はSOAを効果的に機能させるためにはサービスの登録や維持におけるガバナンスが重要と指摘。武末氏はSOAを実現する上でWebサービスは非常に有効な手段の1つとしたうえで、システムのサービス化やビジネスモデリングなど、いかにビジネスをシステムに落とし込むのかがSOAの成功を左右するとの見解を示した。一方、大場氏はトップダウン、ボトムアップの双方からSOAを推進すべきと述べ、そのつなぎ役となるコンサルタントが重要な役割を果たすと語り議論を締めくくった。

著者紹介

岡崎勝己(おかざき かつみ)

通信業界向け情報誌の編集記者、IT情報誌などの編集を経てフリーに。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に取材活動に従事。他方、情報システムうんぬんは抜きに、面白ければ何でもやる一面も。


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