導入時には抵抗勢力ばかり?ITILの現状を聞くトレンド解説(11)(1/2 ページ)

企業のIT予算の約70%を占める運用管理コストの削減につながると期待の広がった「ITIL」が日本に紹介されて2年近くになる。現在ではどのような状況になっているのだろうか

» 2005年02月23日 12時00分 公開
[アットマーク・アイティ編集局,@IT]

 企業のIT予算の約70%を占める運用管理コストの削減につながると期待の広がった「ITIL」が日本に紹介されて2年近くになる。現在ではどのような状況になっているのだろうか(→2ページ目記事要約へ)

 企業のIT予算の70%以上を占めるといわれる運用管理コストの削減につながるとして、期待が広がったITIL(Information Technology Infrastructure Library)が日本に本格的に紹介されて、2年近くになる。ITILはシステム運用管理、ITサービス管理に関するベストプラクティスを集めた手引集で、1980年代に英国で生まれた。ITサービスのプラン、開発、提供、維持の各プロセスに関するガイドラインが定められていて、IT部門はその各ガイドラインに合わせてサービスレベル合意書(SLA)を締結。日々のプロセスを改善し、全体最適を目指すというのがその内容だ。

ITサービスマネジメントフォーラムジャパン副理事長 西野弘氏

 ベンダのセミナーやメディアなどでITILに関する話題を聞くことは確かに多くなったが、実際のユーザー企業の間で導入は進んでいるのだろうか。日本におけるITILの支援団体「ITサービスマネジメントフォーラムジャパン」(itSMF Japan)の副理事長 西野弘氏(プロシード 代表取締役)は、「2005年はユーザーとベンダのITILに関する理解度が同じレベルになる。本格的な事例も出てくるだろう」と語っている。 西野氏は2003年5月に設立されたitSMF Japanのこれまでの活動について「はっきりいって想像以上の成功だった」と評価している。実際、設立当初に幹事会社8社で始まったitSMF Japanは、2005年1月現在で団体会員192社、個人会員127人となり、参加総人数は1300人を超えた。「事例研究分科会」「サービスデスク分科会」「アセスメント分科会」「SLA分科会」の4つの分科会を設けて活動している。これまで販売したITIL関連の書籍は、「ITサービスマネジメント」「ITサービスマネジメント用語集」が約1万5000冊、「サービスサポート」が約1900冊、「サービスデリバリ」が約1800冊に及ぶ。

ベンダのリードが続くITILの現状

 しかし、ユーザー企業への浸透という観点からitSMF Japanの活動を見るといま一つだ。団体会員の192社のうち、ITILに関する製品、サービスを提供するベンダ以外の、ユーザー企業は「相変わらず30%くらい」(西野氏)。設立当初と同じでベンダがリードする形が続いている。itSMF Japanに参加するユーザー企業も、多くは情報システム子会社などITサービスを本社に提案する企業といい、純粋なユーザー企業の参加は少ないのが現状のようだ。

 西野氏はユーザー企業にITILが本格的に浸透しない理由をベンダ側、ユーザー企業側の2点から考えている。ユーザー企業側の問題点は、ITILの本質を理解せずに、新しいツールを提案する感覚でユーザー企業にITILの導入を勧めたことだ。よくいわれるようにITIL自体には難しいことは書かれていない。ITサービスの提供について、当たり前のことが書かれているだけだ。しかし、ITILの本質はITサービスに関する「人」「プロセス」「技術」を継続的に回していき、SLAに基づき、継続的に運用管理を改善すること。このサイクルを考えずに画一的なITサービスをユーザー企業に押し付けるベンダが多いというのが西野氏の指摘だ。

 ITILの基本は、「ビジネスはITであり、ITはビジネスそのものである」という考えだ。ITILを導入しようとすれば、人の問題である組織を変更したり、ビジネスのプロセスを最適化することも当然求められる。しかし、その本質的な部分に入り込まずに技術だけを導入しようとするベンダが多いという。「ITILはマネジメントを変えるため、ビジネスを変えるためにあるのであって、別に保守運用の質を上げるためにあるのではない。技術によってどれだけのアウトプット、アウトカムが出たかについて議論してこなかった。指標もなく一律20%とかしかいえなくなっている。今年はベンダの質の違いが明確になるだろう」(西野氏)。

勉強不足のユーザー企業

 では、ユーザー企業側のITILに対する態度はどうなのか。西野氏はITILをベンダの新たなマーケティング用語としか考えないユーザー企業を「勉強不足だ」と指摘。「発注側と受注側ではITILは異なる。もっと発注側、受注側が議論をしないといけないが、行われていない。itSMFとしても議論を推進したい」と述べた。

 西野氏は「itSMFができた初年度はベンダが勉強した年だった。昨年はベンダがユーザーにITILを推薦し、JUASなどの加入があった。今年はitSMFの拡大よりはユーザーをもっと巻き込みたい」と語った。

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