
社内から必要とされる
ITスタッフを育成するには
――システム部門Q&A 第3回
木暮 仁
2003/12/17
情報システム部門のアウトソーシングや戦略部門化が進む中、社内から求められる情報システム部門の役割もスタッフの能力も以前とは異なっている。どういう人材が求められており、スタッフをいかに育成すべきかを提示(→記事要約へ)
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一昔前とはかなり事情が変化してきました。情報システム部門自体がこのままで継続することが保証できなくなったのです。経営戦略と情報技術活用の面では戦略部門になることが期待され、これまでのシステム開発やコンピュータの運用といった業務はアウトソースする動向になってきました。戦略部門化に当たっては、大幅な人事異動により、他部門への転出が多くなります。また近年では、情報システム部員の転籍を含むアウトソーシングも多くなりました。さらには、不吉なことですが、情報システム部員もリストラの対象になってきました。
このような状況では、短期的な育成計画だけでなく、長期的なキャリアパスとしての計画が必要になりますし、企業側の都合だけでなく、部員個人の将来を考える必要が出てきました。短期の育成計画が個人の長期的な計画と合致しなければ、部員の士気を向上させることができませんし、そのような状況では優秀な人材を確保することもできません。
| ベンダ企業への転出 |
将来も情報関連の業務を続けたいと思う人は、ユーザー企業で知識・経験を得て、ベンダ企業に転職する計画をするでしょう。また、自分が望まなくてもアウトソーシングに伴い社外へ移籍されることもあります。いずれにせよ、これまでのユーザー企業内の情報システム部員とは異なる観点での評価を受けることになります。それに合致しなければ、昇進どころかリストラの対象にもなりかねません。
(1)SWOT分析
ユーザー企業での情報システム部員について、ベンダ企業での情報技術者やユーザー企業での他部門の部員と比較したSWOT分析をしてみましょう。個人および組織により大きく異なりますが、一般的には次のような事項があります。
●S(Strength:強み)
- ベンダ企業では担当業務が偏りがちです。それに対してユーザー企業の情報システム部門では、システム化対象業務も営業システムや会計システムなど多様な業務を経験できますし、企画から運用までの幅広いプロセスを経験する機会もあります。
- ベンダ企業との情報化プロジェクトでは、ユーザー企業側は比較的初心者でも上流工程を担当したり、プロジェクトをマネジメントする立場になる機会に恵まれます。
- 利用者の立場をよく理解できます。利用者との交流も多いし、自分が利用者であった経験もあります。
●W(Weakness:弱み)
- どうしてもユーザー企業での知識経験は、自社の環境に限定されたものになりがちです。「自社の常識は他社での非常識」ですので、一般的に通用する標準に合致した知識、しっかりとした原理原則に立った能力の習得・経験が求められます。
- 関係者がお客さまではなく、気心の知れた仲間でした。互いになれ合いの気持ちもあります。利害がほとんど一致しています。社外との緊張した関係を体験していません。
- 自分の生産性に関するコスト意識も不十分です。プロの情報技術者としての自覚に欠けている面があります。
●O(Opportunity:機会)/T(Threat:脅威)
- ベンダ企業は、ユーザー企業の業務知識を必要としています。その面では一見有利にも見えますが、ベンダ企業が求める知識は、その業界における中心的な業務の知識です。情報処理としての知識よりも実務としての知識が重視されます。そうなると、情報システム部門よりも利用部門の方が有利だともいえます。
- ベンダ企業では、「ITスキル標準」が注目されています。おそらく将来はそれによる情報技術者のランク付けが普及するでしょう。しかし、一般的にベンダ企業に比べてユーザー企業では多様なプロジェクトに参加する機会が少ないので、知識・経験が偏ったものになりがちです。また、ITスキル標準はユーザー企業での内部評価とは見方が異なりますので、ユーザー企業の情報システム部門は、その標準での高クラスに到達する環境には適していません。
(2)対処の方策は
ユーザー企業の情報システム部員としては、情報技術そのものでベンダ技術者と張り合うよりも、情報化戦略や要求分析などの上流工程での能力、業務知識や利用者の考え方など情報活用での広い常識などを強化する方が得策です。企業側、情報システム部門側から見ても、この分野の能力向上が必要でしょう。
個人としては、会計システム一筋というのではなく、なるべく広範囲の業務に関与するように努力することが必要です。また、情報システム部門に長く居座るのではなく、情報システム部門と利用部門を往復することも必要です。情報システム部門の管理者として、部内・部外でローテーションするのは、短期的には戦力ダウンになることもありましょうが、長期的には部門にとっても有利なのです。
| 社内他部門への転出 |
ユーザー企業での情報システム部員は、(狭い意味での)情報技術者としてベンダ企業の情報技術者と張り合うのは得策ではありません。社内での他部門へ転出する方が安全ですし、社外に転出するのでも、利用部門の経験はプラスになります。また、情報システム部門管理者としては、社外転出よりも社内での活用を優先するのが自然でしょう。
(1)積極的なローテーションをしよう
EUCの推進や情報システム部門のアウトソーシングにより、社内の多くの部門で情報化リーダーが必要になりますが、各部門内で適切な人材を調達し、育成するのは困難です。そこで情報システム部門から人材を提供することが期待されます。またそれに応えることが、健全な情報化推進に大きな効果をもたらします。
他部門へローテーションするときに考慮すべき事項を列挙します。
単なる人数合わせだとか在籍期間で異動させるのではなく、情報化推進計画に沿った計画的なローテーションをしましょう。そのとき、無条件で転出させるのではなく、一定期間はその部門での情報化担当にさせること、しかも実力のある上位者のスタッフとして「ヒーロー」扱いにするように条件を付けることが重要です。
転出者をスタッフとし、多くの局面で実力者の言動に接することにより、その部門の真の課題を理解できます。情報システム部門が転出者の要求に応えて、優先的に情報資源の環境整備を行い、実力者の信頼が高いことを示して利用部門内の協力も得やすくすれば、その部内の情報化要求を実現しやすくなります。その業績評価が高ければ、支援者や追従者が出現して、その部門のEUCが活発化します。それが部門成績にも反映し、さらに転出者の評価が高まるといった好スパイラルになります。その成果は、彼もしくは彼女が情報システム部門にいるときよりも大きいでしょう。
このようにヒーローにすることが重要であり、決して「便利屋」にさせてはなりません。また、ヒーローになれるような人材を提供することが重要です。
(2)求められる人材とは
情報技術の知識がますます重要になることはいうまでもありません。それに加えて、次のような能力が求められるようになりました。
ほとんどの企業では、すでに乾いたぞうきんを絞るような合理化努力が重ねられてきました。残っている問題は、「Aを解決しようとすればBに副作用が生じる。Bを防ぐにはCの対処が必要だが、Cを重視するとAと逆な事態になる」というような、複雑な問題です。これに対処するには、全体をシステムとしてとらえ、個々のサブシステム間の関係、上位のシステムとの関係を正確に認識する「システム思考」が求められます。
しかも、1部門で解決できる問題から多部門にわたる問題へ、社内で対処できる問題から企業間で取り組む問題へと変化してきており、関係者が多様になってきました。そうなると、関係者の利害の対立もあります。海外との関係になれば文化の違いも生じます。互いの価値観の違いを認めつつ、共通の課題を解決する能力が求められます。
また、このような問題は、検討中や実施過程で思わぬアクシデントが発生します。それを回避したり迅速に解決する能力が必要になります。すなわち、広い意味でのプロジェクト・マネジメント能力が求められます。
このような能力を持つ人材は、各部門で必要としている人材です。このような人材ならば上記のヒーローになれましょう。
| 人材育成部門としての情報システム部門 |
情報システム部門が戦略部門になるということは、現在の企画部門に情報関連の分野での戦略企画も担当させることと同等であると考えてよいでしょう。すなわち、このような情報システム部門に必要な人材は、ゼネラルスタッフとして適切な人材だといえます。先に「求められる人材」として、(1)システム思考ができ、(2)異なる価値観の関係者を満足させ、(3)プロジェクト・マネジメントができる人材を挙げましたが、これは、ゼネラルスタッフ部門では特に重要な資質だといえます。
経営活動の大部分が情報化されてきました。それらのデータは情報システム部門に集まってきます。そのデータの仕様は情報システムで定義されたものですし、情報システム部門はデータの加工技術の習得には最適な部門です。ですから、経営活動を多様な観点から分析して検討する能力を育成するには、情報システム部門は最適な部門です。
さらに、システム思考だとかプロジェクト・マネジメントなどは、情報システム部門では日常的な業務の遂行にも重要な能力です。すなわち、業務の遂行と人材育成とが一致しやすい部門なのです。逆にいえば、このような能力を日常業務の一環として育成するのに適した部門は、情報システム部門以外にあるでしょうか?
以上、多様な観点から「情報システム部員の育成」を検討しましたが、狭い意味での情報技術ではなく、それを活用するための広い意味での情報関連技術を習得させることが、本人にとっても、企業や部門にとっても重要だというのが私の結論です。
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■要約
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「ユーザー企業の情報システム部門スタッフ」とは「幅広い仕事や利用者の視点に立った仕事ができる」という強みがある半面、「自社の限定された環境の中でしか仕事ができない」「実務経験に欠ける」「ITベンダに比べ、技術力が弱い」という弱みがある。「利用者視点に立ったプランニングができる」という利点を生かし、要求分析などの上流工程や情報活用についての知識を広げる方が得策といえる。
人材育成の面から考えると、社外他部門への転出を積極的に行った方がよい。単なる便利屋ではなく、その部門のIT化を推進するために情報システム部門のリソースを活用し、プロジェクトを指揮する立場になれば、転出した部門、情報システム部門双方に大きな効果をもたらす。
こうしたことから考えると、求められる情報システム部員とは、(1)システム思考ができ、(2)異なる価値観の関係者を満足させ、(3)プロジェクト・マネジメントができる人材であるといえる。逆にいえば、こうした能力を身に付けていれば、情報システム部門以外のゼネラルスタッフとしても活躍できるということだ。
また情報システム部門も、積極的に他部門からの人材を受け入れること。システム的な思考やプロジェクト・マネジメント能力を培う際に、情報システム部門ほど最適な場はない。「技術力向上」など狭い意味での人材育成でなく、長期的・全体的な視点から人材育成を考えることが重要である。
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システム部門Q&A バックナンバー
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