「どこが担当するのが最良か?」の判断基準の基本を“競争力”、つまり(A)〜(H)の中で、「世の中の誰よりも優れた(競争力のある)結果を出せる立場にある組織はどこか?」と考えてみるのが出発点になる。
「社内の人をアサインしてきたため能力が中途半端なレベルにとどまり、最適な社外の専門家をアサインした競争相手の企業に後れを取った」「要員不足で安易に外部に頼っていたため、社内に必要な能力を育てられなかった」といった事態が、この先に起こらないように「人が、いまいる/いない」で判断してはならない。能力は“日常業務を通じて、意識的に育てていく”と考えるのが、ここでの基本的な考え方である。
機能の(7)と(10)は、経営方針や業務改革のポイントを具体的に情報システムに反映させるうえでの要となる機能である。経営方針や暗黙知としてある組織の価値観、業界や業務プロセス、関係する人の特性などを熟知しているか否かが、結果の“質”を大いに左右する。他人(社外)任せにはできないところだ。同時に、やるからには競争相手には絶対負けないだけの能力を育てていかなければならない。
判断基準として次に重要なのは、“人材開発投資が回収できるか否か”という視点である。これは企業側の立場だけではなく、その機能(業務)を担当する個人にとっても重要な問題だ。せっかく、多大な努力や苦労をして身に付けた知識や能力を使う機会がわずかしかなかったり、習熟レベルの到達に必要な経験を積める環境がなければ、当人にとっても大変不本意なことになる。
ユーザー企業が、変化の激しい専門的技術機能を社内に抱えるリスクは、一般的にはベンダに比べて格段に高い。苦労して身に付けた新技術も、使える対象は自社のシステムだけである。習熟するための十分の経験を積む機会もないうちに、世間では陳腐化した技術になっているかもしれない。企業にとっては回収できない人材育成投資ということになる。この問題のリスクは人(社員)の加齢とともに急増する。
逆に基礎を学び、短期間に集中して熟達できる環境があり、その能力を活用できる機会と期間が十分にあるならば、あるいは長期にわたる経験や知識の蓄積が陳腐化しない分野であるならば、担当する人にとっては、満足が励みにつながるし、企業にとっても、基礎の修得や熟達までの間の人への投資は、その後の当人の仕事の実績から十分に回収できることになる。加齢のリスクも高くはならない。
公江 義隆(こうえ よしたか)
ITコーディネータ、情報処理技術者(特種)、情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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