「できるPM」と「それなりPM」との差とは?有能プロジェクトマネージャ育成術(3)(1/2 ページ)

E社では、有能なプロジェクトマネージャ(PM)からPMノウハウを移植するプロジェクト(以下、プロジェクトHK)を開始した。有能PMへのインタビューに続いて、一般PMへのインタビューが開始された。

» 2004年10月15日 12時00分 公開
[大上建(株式会社プライド),ITmedia]

 プロジェクトHKでは、できるPMからのPMノウハウの抽出に続いて、一般のPMからもPMノウハウを抽出するためにインタビューを行った(第2回「できるプロジェクトマネージャのノウハウとは?」)。狙いは「できるPM」と「一般PM」との差を特定することである。そこには単純にPMノウハウの差だけではなく、多くの違いがあった。内容は「達成への執念」「触発された先輩やPMノウハウを生み出した環境」などさまざまである。

一般PMへのインタビュー:M氏の場合

 まずは一般PMにランクされる第1 SI事業部M氏に、インタビューを行った。M氏とのやりとりは次のような様子であった。

コンサルタント 「Mさんが常日ごろ、気に掛けているとか、こだわりを持って実施されているようなことがあればお聞かせ願えませんでしょうか」

M氏 「私はコミュニケーションを重視しています。もちろんほかにも重要なことはあります。例えばスコープを管理すること、スケジュールを管理すること、コストを管理すること、品質を管理することなどです」

コンサルタント 「いろいろとバランスを保ってプロジェクト管理をされているようですね。まずは最初に挙げられたコミュニケーションに絞ってお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」

M氏 「ええ、いいですよ」

コンサルタント 「では、何かコミュニケーションで具体的に気に掛けて、実践されているようなことを教えてください」

M氏 「はい、コミュニケーションにおいては、まずプロジェクトチーム内外でどのようなコミュニケーションを持つべきか決めます。そのうえでその進め方を標準化し、プロジェクト内に周知します。後はこれが実施され、維持されていることを観察し、必要な是正を行うのです」

コンサルタント 「もう少し具体的にお聞かせ願いたいのですが」

M氏 「はあ、分かりました。もう少し具体的に、ですね。コミュニケーション上で最も重要な情報は変更に関するものです。変更の連絡方法は内容の分類によって変わります。仕様変更に関する連絡はプロジェクト・メンバー全員が見ることのできるグループウェアの掲示板に挙げられることになっています」

コンサルタント 「その変更の連絡について、生々しい事例をお聞かせ願えませんか」

M氏 「生々しい事例ですか、何かあったかなあ……。そういえば先週、商品マスタのテーブルレイアウトが変更になりました。ファイル設計担当者が『変更を実施してよいか』と尋ねるので、顧客に確認し構わなければ変更し、それをルールに基づいて連絡するように指示しました」

コンサルタント 「それでコミュニケーションはうまく取れるのですか」

M氏 「顧客に確認も取っていますし、ルールどおりの連絡をしていますので、うまくいっているはずです」

コンサルタント 「商品マスタの変更は、具体的にはどのようなものだったのでしょうか」

M氏 「商品グループが顧客ランクで価格が変わるとかいっていましたが、それ以上は知りません」

コンサルタント 「何か重要で複雑そうな変更ですが、それでミスは起きないのですか」

M氏 「基本的には問題ありません」

コンサルタント 「うまくいくように、DBの変更連絡では何か特別なルールを設定しているとか、変更連絡のフォーマットが正確に記述できるような工夫をされているのですか」

M氏 「DBだからといって特別なことは何もありません。変更内容はさまざまですから、担当者がフリーフォーマットで書くようになっています」

コンサルタント 「そうですか、分かりました」

 この後、M氏からは角度を変えて具体的事例を聞こうとしたが、あまりそうした話を聞くことはできなかった。結局、M氏には特筆するレベルのPMノウハウはなかった。質問に対してはきれいな答えが返ってくるが、それを実践している事例を持っていないのである。

 どうやらM氏は、「コミュニケーションが重要」という割には、それに関してそれほど執念を持って取り組みをしていないようである。しかし教科書的なプロジェクト・マネジメントの知識は十分あるようで、認定資格も持っているそうである。

一般PMへのインタビュー:N氏の場合

 続いて、第2 SI事業部N氏にインタビューを行った。

 N氏の持っているものはPMノウハウではなく、ユーザーに対する誠実な対応を続ける姿勢であった。

 N氏は常にユーザーの困っていることが何であるかを考え続け、それを解決する提案を行わなければならないと考えている。その目的とするところをしつこくインタビューしたが、ユーザーに対してはそうすべきだと思う、という答えだけであった。

 またN氏は自分の部下に対しても、常に困ったことがないか気を配っている。定例のミーティングで、常にどんな問題を抱えているかを確認し、自身で解決できないことはユーザーへの依頼や上司への依頼をしてでも解決する、といった指導をしているという。

 N氏はPMとして高いパフォーマンスを示しているわけではないが、事業部長や各ライン部長は彼の誠実さを高く評価していた。誠実さが信頼を生み、それが好結果を導いていることは想定できるが、N氏の中ではそれを狙った意図や、確実な結果を導くロジックは存在せず、信念に近いレベルで誠実であろうとするものであった。

 インタビューの中でこの「誠実であるべき」という信念は、N氏が、先に有能PMとして「協力会社責任者との1対1の対話」というPMノウハウを持っていた第2 SI事業部のG氏の部下であった時期に影響を受けて強く思うようになった、ということが分かった。

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