全国の技術者求人情報を欠かさずチェックしていると、情報スタッフに対する期待がおおよそ把握できます。結論を先に述べると、日本人情報スタッフの仕事が急激に減ることはしばらくあり得ません。
幸い私たち日本人技術者は、外国籍技術者と比べて、顧客の希望や要求を察する感度が非常に優れています。また、日本固有の「あうんの呼吸」文化は、外国産パッケージ製品や海外オフショア開発にとって、高い参入障壁となってきました。最近はその弊害がよく指摘されますが、これらは長年私たちがはぐくんできた歴史・文化に基づく結果なので、特に恥じることはありません。
ただし、これからの情報スタッフには、外国籍技術者といかにうまく付き合うかという異文化コミュニケーション能力が求められるようになるでしょう。その先導を切るのが、情報マネージャ/SEマネージャ自身であることはいうまでもありません。
中国オフショア開発の機運が高まるにつれて、企業トップや情報マネージャは、従来の開発手法や慣習を見直さなければ、生き残れないという危機感を強く持つようになりました。
システムの利用者、情報システム部門、ならびに中国のベンダを含むビジネスパートナーが互いにメリットを享受できるWin-Win体制の構築を急がなければなりません。さもなければ、経営者や株主のIT投資への不信感はますます強くなっていく一方です。私たちがうまく対応できなければ、IT産業は結果的にゼネコン業界の後塵を拝することになりかねません。
バブル崩壊以降、経済の停滞による厳しい現実が日本企業の目の前に突き付けられています。これから真剣に中国オフショア開発に取り組んでいくためには、下記の2カ条に従うことが必須条件です。
中国オフショア開発をスタートさせる際、初めにやるべきことは、「何を」達成すべきかという事業目的を明確にすることです。ここでは、トップダウンによる強力な推進機能と、情報マネージャのコミットメントが問われます。
次に重要なのが「どのように」やるかの標準ガイドラインを設定して、関係者全員が合意すること。ここでは、中国オフショア開発スタッフが中心となって、次のような事業基盤を構築します。
このような新しい情報スタッフの育成に関しては、情報システム部門だけではなく、ビジネスパートナーや専門のコンサルタントを交えて、利用者のための強いシステム構築コミュニティを形成していくことが望ましいと考えています。
企業の中国オフショア開発への関心は、単なる興味レベルからこれを前提に企業戦略を策定するレベルにまで発展しています。これからの情報マネージャは、海外担当部署と歩調を合わせながら、本社機能の重要な一部として戦略的に行動することが求められます。そこでは、従来のように大手システムインテグレータに開発案件を丸投げするといった機能はすでに成り立たなくなってきています。
情報マネージャの多くは、中国オフショア開発の将来性を評価する一方で、実際にはどう始めるか、どうスタッフを育成するのか、具体的なアイデアに乏しいのではないでしょうか。これから中国オフショア開発を推進する情報マネージャは、部下やビジネスパートナーの持つ中国オフショア開発への不安や不満を十分に理解することがとても大切になってきます。
中国オフショア開発の導入は、企業にとって大きな変化を伴います。
世の中の流れから、いまが変革を実行するまたとないタイミングではないでしょうか。そのためには、変革のプロセスをできる限りシンプルにしていく必要があります。変革の中では得する者もいれば既得権益を失う者もいますが、最も多いのは損得どころか変革の意味さえ分からない者でしょう。
そのため高い理念を持つ「教義」はもちろん重要ですが、「南無阿弥陀仏」のように実行プロセスを分かりやすくすることも大変重要になってきます。この連載記事が、その役割の一端を担うことになるでしょう。
幸地 司(こうち つかさ)
アイコーチ有限会社 代表取締役
沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。
http://www.ai-coach.com/
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