続・いいかげんにして! 日本企業─理不尽な態度オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(5)(2/2 ページ)

» 2005年01月12日 12時00分 公開
[幸地司(アイコーチ有限会社),@IT]
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担当者の技術力不足〜コミュニケーション能力不足〜

ALT 上海のレストランでの注文風景

 日本企業がブリッジSEを選ぶ際は、日本語ができるか否か(中国語ができるか否か)に重点が置かれていて、その人間の能力にまで評価が及ばないことがあります。技術力がなくても、多少語学ができるだけでブリッジSEに任命される。このような安易な基準で選定されたブリッジSEが、オフショア開発の成功を左右する最大の要因となるのはいうまでもありません。

 一方、技術力は高いのですが、管理能力やコミュニケーション能力に問題のある担当者がブリッジ役(コーディネータ)に就くケースも珍しくありません。この場合は悲惨です。管理体制が整わないばかりか、優秀な中国人技術者は無能な日本側のブリッジ役(コーディネータ)に愛想が尽きて離職することにもなりかねません。

 次に、担当者の技術力不足に関する意見を紹介します。

「詳細設計を理解していないので会話がなりたたない」

 このケースでは、2つのケースが考えられます。1つ目は、技術的に未熟な若手社員が中国ベンダとの窓口(ブリッジ役)を務めるケース。本来であれば、上司または先輩社員が若手社員のブリッジ業務を補佐する体制を取るべきですが、さまざまな理由から後輩にオフショア開発の重責を強います。「オフショア開発を支援する部署がない」「トップに言動不一致が見られる」「敗者復活が難しい」「中国企業に偏見を持つ」などが該当する職場でありがちな状況です。

 2つ目は、担当者のコミュニケーション能力不足。担当者は詳細設計を十分に理解する技術力を持っているのですが、外国人技術者と会話する異文化コミュニケーション能力に欠ける状況です。

 担当者のコミュニケーション能力が不足しているケースは、さらに2つのタイプに大別できます。1つは会話に感情が伴わないタイプ、もう1つは文章が下手で正しい意図が伝えられないタイプ。このようなコミュニケーションのギャップを解決するため、筆者の会社ではオフショア開発のコーディネート業務に特化した研修プログラムを提供しています。中国人と日本人の価値観の違いに着目し、ケーススタディを通して、コミュニケーション手段などを実践的に学ぶスタイルは、「従来の企業研修プログラムとは一味異なる」と評価されています。

「技術的に困っても、有益なアドバイスが得られない」

 このケースは、自社の技術力のなさを棚に上げて中国企業を批判するプロジェクトでよく見られます。また、「丸投げ体質」が染み付いた日本企業でも見られます。過去には、こんな事例がありました。

 中国から「性能を保証するために、テストデータのバリエーションをどこまで増やすべきか」という内容の相談がありました。ところが、このときの日本側担当者は、「プロならば自力でテストすべき。それは私の責任ではない。私は中国企業の子守役ではない」と言い切って説明を断ろうとしました。

 このようなケースは勘違いも甚だしいといえます。プロジェクトを成功に導くための努力を惜しんではいけません。

「日本の単純ミスにもかかわらず、独り善がりな指摘がなされる」

 日本人の価値観が邪魔をして、相手に迷惑をかける典型的なパターンです。「仕様書を見れば分かる」を根拠に独り善がりな指摘がなされますが、実際にはどこを参照しても正しい答えは載っていません。

 日本側のミスで作業の手戻りが発生しても、「詳細設計書の23ページと画面設計書の85ページをよく読めば分かる(実際にはあいまいな内容なので誤解しても仕方ない)」などと主張して、責任を認めません。この手の人間に限って、相手側のミスを口汚く罵ります。

「不可能な性能要求を強要される」

 中国オフショア開発では、計画時に適切な数値目標を提示しなくてはいけません。そのことを意識するあまり、十分な根拠のないまま、無茶な目標が掲げられることもしばしば起きます。

例:

仕様書をまとめる時間がなかったので、十分な検証をしないまま「全機能、2秒以内のレスポンスとする」という性能要求を出した。ところが、設計を進めるうちに不可能な性能要求であることが判明した。

 先述の場面でこそ、技術者の真の能力が問われます。繰り返しになりますが、技術者のモチベーションが高ければ、オフショア開発で発生するほとんどのトラブルは解決されます。努力は目標に向かっている限りストレスではありません。大義名分を持たない者がオフショア開発を任されるほど、報われないことはありません。オフショア開発の意義やビジョンを理解しないと、能力の半分も発揮できないと心得えてください。

理不尽な条件の押し付け〜損をしたくない〜

 最後に、理不尽な条件の押し付けに関する意見を紹介します。

「明らかな仕様変更なのに、仕様の詳細化だと主張する」

 このような意見は、国内開発でもよくある話です。中国オフショア開発では予算が極端に少ないため、日本企業側も無理を承知で主張するケースがあります。

「営業と設計者のいっていることがまるっきり異なる」

 品質/納期に責任を持つ設計者と、金額に責任を持つ営業の立場が異なるため、話がまるで通じないことがあります。

 日本側の設計者が何げなく発言した「了解した」や「すいません」が、中国人リーダーを経由して中国側営業(通常は総経理・幹部クラス)に伝わると、即座に金銭問題に発展するといった事例が過去に何度もありました。

「計画や目標にないことを、その場の思いつきで口にする」

 経験豊富なベテランになるほど、その場の思い付きでモノをいう傾向にあります。本人にとっては“適切な”状況判断かもしれませんが、残念ながら外国人技術者には理解されません。後からどうしても計画や目標を修正したいときは、時間が掛かるかもしれませんが、中国企業の幹部や総経理を通じて根気強く説明する方が安全です。

 以上のような「言動不一致」や「理不尽な条件の押し付け」は、特にオフショア開発を始めたばかりの会社に共通して現れます。日本企業の甘えの構造に起因するため、発注者が意識を変えない限り、オフショア開発を受託する側の不満は一向に解消されません。オフショア開発では、ちょっとした不満が品質劣化や納期遅延に直結します。こうした悪循環から抜け出すためには、日本企業の1人1人が「日本型開発アプローチ」のあいまいさを自覚し、コミュニケーションのあり方を根本から見直すことから始めるしかありません。

 オフショア開発で利益を得る鍵は、「スケールメリットの追求」と「長期的展望に立った投資」にほかなりません。これまでの対処療法的なトラブルシューティングをあらためて、「損をしないオフショア開発」から「Win?Winのオフショア開発」へと発想の転換を図りましょう。

profile

幸地 司(こうち つかさ)

アイコーチ有限会社 代表取締役

沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。

http://www.ai-coach.com/


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