連載 オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(11)

本当は付き合い残業したくない
〜中国に無言の圧力

幸地 司
アイコーチ有限会社
2005/7/30

- 給料アップよりも「夢想」を追い求める中国の技術者たち

 中国企業の「人材流動」については、各社ともかなり頭を悩ませています。私自身も、プロジェクトの開始直前に、突然中国人リーダーに転職されて、冷や汗をかいた経験があります。ここでは、製造業で活躍する方との会話を紹介しましょう。

大連の有名な観光地「老虎灘」
――成長企業では、リーダークラスの流動は少ないと聞いています

製造業社員(以下、社員):人材の定着に関しては、製造業も同様の問題を抱えています。むしろ製造業の方が深刻かもしれません。しかし、日本の「人材流動」と比較すると、明らかな差があります。

 うちの会社から転職した中国人リーダーと話をする機会がありました。彼らの転職の動機を聞くと、給料のアップよりも自分のキャリアアップをまじめに考えているようなのです。

「前の会社では“夢想”がなかった」

「日本流の品質管理を勉強したくて日系企業に転職した」

※筆者注

夢想とは、「中国語で将来の夢、理想」などを意味する

 昔はせっかく育てた人材が流出して残念に思っていました。流出先の企業の中には「日本人の優秀なトレーナーが指導していた現場で働いていた工員は無条件に採用している」などと打ち明けてくれる会社もあり、笑うに笑えない心境でした。

――日系企業の人材育成プログラム自体は評価されているのですね

社員:ええ。しかし最近になって、日系企業に人材が定着しないのは、マネジメントに問題があるのだと気が付きました。最近では、リーダークラスの流出防止対策として「目標管理」システムを導入するように勧めています。

――いわゆる、成果主義の徹底でしょうか?

社員:どちらかといえば、会社と従業員のビジョンの共有、モチベーションのアップに重点を置いて運用すればよいと思うのです。各部署のマネージャは自部署の部下に対して、年に1度面談をし、部下が3年5年後にどうなっていたいのかを聞き出します。

――日本でも形式的に導入している企業は多いと聞きます

社員:中国人リーダーが自分で設定した目標に対して会社はどういうポスト、成長機会を提供できるのか、部下のキャリア形成を一緒になって考えてやるのです。これによってリーダークラスの成長意欲と目標を持たせることができると思うのです。

 1つの例を挙げましょう。私が尊敬している方の工場では、作業員として雇った女性工員の中から選抜して「文員」に抜てきしています。

※筆者注

「文員」とはPCも使える事務員のこと

 例えば、受付のお嬢さんも元女性工員ですが、PowerPointを使いこなして損益の推移をグラフにするなど朝飯前です。このくらい教えておけば、彼女が田舎に帰っても食堂の経営くらいはできるだろう、というのが経営者の思いです。

――そんな発想があるのですか!

社員:もちろん、何千人もいる女性工員の1人1人に対してこのようなケアは不可能だと思います。女性工員側にも事情があり、都会で2〜3年働いたら田舎に帰って家族と暮らしたいと考えている人が大部分です。

――全員を「平等」に育成するわけではない、ということですか?

社員:しかし、選抜された従業員に対しては、退職後のことも含めてキャリア形成を考えてやることが重要なのです。これを親身になってまじめに取り組めば、強い企業文化になり得ると思うのです。このような体質が文化として定着すれば、一定レベルの人材流出は組織の活性化のためにむしろ歓迎すべきことになると思います。


 「夢想」とは、自分の将来に対する夢や理想などを意味する中国語です。中国企業の技術者や日本語通訳者、会計担当者は、皆それなりの「プライド」を持って仕事に当たっています。

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 それだけに、あなたの会社に「夢想」がなかったら、彼らが見切りを付ける判断も早いと心得ましょう。

 製造業では、女性工員の流動は半分あきらめムードです。そのため、徹底的な作業標準化とマニュアルの充実が図られています。ただし、リーダークラスの成長と定着は、非常に重要な問題だと認識しています。一部の経営者は、リーダークラスを徹底的に鍛え上げる企業文化と制度が必要だという信念を持っています。

 製造業は人材流動が激しいのですが、この業界で成功している日系企業はソフトウェア業界よりも圧倒的に多いのです。2005年7月に、筆者は中国大連を訪問して、現地化に成功した日系企業の工場を見学しました。このときに、ソフト業界と製造業の違いが浮き彫りになりました。

    「製造業における成功の要因」
  • 日本式「工程管理」と「品質管理」の徹底
  • 中国式を全面的に取り入れた「適材適所」と「アメとムチ」の人事制度

 これらの製造業者を回った際、中国人従業員に日本的な企業運営の良さを浸透させるために、未経験者の採用に力を注いでいたのが印象的でした。

3/3 第12回

index
オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(11)
 本当は付き合い残業したくない〜中国に無言の圧力
  Page 1
中国では、残業する社員は生産性が低いと評価される
中国企業に残業の概念ができたのは、ごく最近のこと
  Page 2
中国に進出したものの、現地化に苦しむ日系ベンダ
現地採用はすべて本社決裁、では間に合わない
「技術研修」一辺倒から、「人材育成」へ
Page 3
給料アップよりも「夢想」を追い求める中国の技術者たち

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■要約
日本のソフトウェア業界には、「技術者の残業なしには、仕事が成立しない」という伝統的な価値観があり、「付き合い残業」や「けん制残業」が日常的に行われているのが実情だろう。今回は、このような日本独自の慣習に対する中国人の反応や、「中国人の間では、残業する社員は生産性が低いと評価される」といった話などを紹介する。

中国は共産主義国家という社会基盤上、そもそも残業という概念ができたのがつい最近のことだ。長年にわたり、サービス残業が定着した日本とは大きく異なる。この社会通念の違いから、残業に対して両国間の意識が異なるのは当然のことであり、残業を暗黙のうちに強いる日本企業の姿勢は、中国の若者の不評を買う一因となっている。

日本企業はこのような体制を見直し、長い目で見た人材育成制度や従業員に“夢”を持たせることができる企業風土などを整備していかなければ、中国の優秀なスタッフを定着することは難しいだろう。

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profile
幸地 司(こうち つかさ)
アイコーチ有限会社 代表取締役
沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。
http://www.ai-coach.com/


「オフショア開発時代の「開発コーディネータ」


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