| 連載 | 目指せ!シスアドの達人(1) |
第1話
新任シスアドの理想と現実と自己満足……
| ベテラン社員との摩擦 |
翌日、坂口は松下とツールのことをじっくり話してみようと出社したが、松下はまだ熱が下がらないようで、その日も休暇を取っていた。あいさつ回りを終えて帰社すると、珍しく浜崎課長がパソコンを開いていた。隣で谷田が何やら説明をしながら、浜崎課長がマウスをぎごちなく操作している。
| 浜崎 | 「おお、坂口くん、お帰り。いいもの作ったじゃないか」 |
| 坂口 | 「え? 何ですか?」 |
| 谷田 | 「坂口さんのツールを見つけちゃったんです、私」 |
谷田がほほ笑む。
| 坂口 | 「昨日張り付けたばっかりなのに、どうして分かったの?」 |
| 谷田 | 「掲載通知というメールが今朝届いてたんで」 |
| 浜崎 | 「坂口くん、いま、試しに1枚作って印刷してみたところだ。簡単だな」 |
| 坂口 | 「そ、そうですか、ありがとうございます」 |
| 浜崎 | 「これからは、これを使うようにしよう。2課、3課の連中にも教えてやってくれ」 |
| 坂口 | 「でも、松下さんと打ち合わせしないと……」 |
| 浜崎 | 「松下には俺からいっておくよ。明日には出てくるだろう」 |
坂口は、自分のツールの評判が良いことがうれしい半面、松下がどんな反応をするのか心配になった。
印刷した申請書を眺めながら、浜崎課長が思い付いたようにいった。
| 浜崎 | 「坂口くん、これを持って総務部へ行ってこい」 |
| 坂口 | 「は、はい」 |
| 浜崎 | 「これ、まだ総務には見せてないだろう。これで経費処理が滞りなくできるかどうか、確認しておいた方がいい。ついでに名前と顔を売ってこい」 |
浜崎の指示に従い、坂口は総務部へ赴いた。坂口が一通り成り行きを説明すると、総務部の担当者は感心していった。
| 担当者 | 「こういうのを作れる人が、いままでいなかったんですよね。それに、営業部には松下さんがいるから、余計踏み込みにくい領域なんですよ。うん、大丈夫。枠の位置も大体同じだし、経費処理上、問題ないと思います。でも、松下さんがよく折れましたね」 |
| 坂口 | 「いや、実は松下さん、今日は休暇で、まだこれ見せてないんです」 |
| 担当者 | 「そうなんですか、……ちゃんと説明した方がいいですよ。事前に私がOKしたっていわないでくださいね」 |
営業1課に戻り、坂口は浜崎課長に結果報告した。このツールをいきなり全員に使ってもらうのではなく、まずは数名に試行的に使ってもらって、その後営業部全体に展開したいと進言した。浜崎課長はうなずいていった。
| 浜崎 | 「分かった。まずは1課で試行してみることにしよう。じゃあ、椎名、それから、江口、しばらく坂口のツールで経費精算してみてくれ」 |
| 椎名 | 「了解しました。課長の仰せのとおりにいたします」 |
椎名が目立つほどの声でいった。課長代理の江口章輔は、黙ってうなずいた。江口は、義理人情の営業スタイルで営業1課を背負って立つ稼ぎ頭。「俺にはパソコンなんていらねぇ!」と触ろうともしないタイプだ。
| 江口 | 「ところで、坂口、そのツールはどこにあるんだ?」 |
| 坂口 | 「ええっと、ちょっと待ってください、掲示板を開いてみてください」 |
| 江口 | 「その前にパソコンを立ち上げないといけないなあ……」 |
次の日の朝、始業ぎりぎりに出社した坂口がオフィスに入ると、松下が浜崎課長に詰め寄っていた。
| 松下 | 「でも、私のやり方をなぜ変える必要があるんですか?」 |
| 浜崎 | 「いつまでも紙と鉛筆で経費精算してちゃあ、いかんだろう。それに、きみの仕事もきっと楽になるぞ。きみには販促の企画の話もどんどん進めてほしいからな。できるところから効率化していかないとなぁ」 |
| 松下 | 「こんなもの作っても効率化にならないです。みんないちいちパソコンを立ち上げなければいけないんですよ。普段、ほとんどパソコンを使わない人たちには、かえって面倒だと思います」 |
| 浜崎 | 「まあ、そこは慣れだろう。そうカリカリしないで、試しにやってみようじゃないか」 |
| 松下 | 「私はこの申請書は認めません。この申請書を使うなら、直接総務へ提出してもらいます」 |
振り向きざまに、坂口が立っているのに気付いた松下は、坂口をきっとにらみ付け、そのままオフィスを出て行ってしまった。
| 坂口 | 「課長、やはり、まずかったんじゃないでしょうか……」 |
| 浜崎 | 「ああ、まあいつものことだ。気にするな。そのうち折れる」 |
| 坂口 | 「そうでしょうか……」 |
| そして溝は深まっていく…… |
坂口は、またしても松下とじっくり話をするタイミングを逸してしまい、しかも、極めて気まずい状況に陥ってしまったことを悔やんだ。
そして、10日が過ぎた。あれから、坂口は松下と一言も口を利いていない。椎名と坂口は、ツールを使って経費精算申請書を作成しているが、江口には1度一緒にツールを使ってみせたが、その後はパソコンを立ち上げようとしないため、まだ1度もツールを使っていない。初めて椎名がツールで作成した申請書を松下に手渡そうとしたとき、松下はきっぱりといった。
| 松下 | 「この申請書は使えません。書き直すのが面倒でしたら、階段を上がって総務部へ直接出しにいってください」 |
坂口は、仕方なく椎名と自分の申請書を、2フロアー上階の総務部へ毎日届けに行く羽目になっていた。そんな状況が続き、坂口はだんだん松下に腹が立ってきた。自分に説明の機会を与えもせずに、一方的に嫌だといっているだけで、現状を改善する気がないのだろうか。そんな思いが募っていたとき、たまたま坂口が乗り込んだエレベーターに松下が居合わせた。
エレベーターを降りたとき、ついに坂口は松下に話し掛けた。
| 坂口 | 「松下さん、俺、悪気があってやったわけじゃないんです。謝ります。すいませんでした!!」 |
松下は頭を下げる坂口をしばらく無言で見ていたが、坂口に背中を向けて話し始めた。
| 松下 | 「謝ってもらう筋合いはないわよ。効率化なんでしょ」 |
| 坂口 | 「…………」 |
| 松下 | 「自分のやったこと、分かってるの? 勝手に私の仕事に踏み込んで」 |
| 坂口 | 「そんなつもりじゃ……俺は、いつも書類の山の中で仕事をしている松下さんが少しでも楽になればと思ってやっただけです」 |
| 松下 | 「腹の立つ子ねえ、私がいつ大変だっていったのよ。頼んでもいないことをやるんだから」 |
下手に出ていた坂口も、思わず怒りが込み上げていった。
| 坂口 | 「松下さんも、勝手にすればっていったじゃないですか!」 |
| 松下 | 「ばっかみたい!まるでお子ちゃまね。どうせ目立ちたいと思ってやったんでしょ。よかったわね〜、課長に褒められて」 |
| 坂口 | 「くっ!」 |
| 松下 | 「なによ!ぶつの?」 |
| 坂口 | 「…………」 |
| 松下 | 「あなたは何も分かっちゃいないわ。純平は渋々やってるけど、江口さんなんてやる気ないわよ。どうするの? これから」 |
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ちょうどそのとき、自販機コーナーで缶コーヒーを口にしながら、椎名が2人のやりとりを聞いていた。坂口がふてくされた顔で通り過ぎるのを待って、椎名はおもむろに携帯電話を取り出し、窓の外を見上げながら耳に当てた。
| 椎名 | 「……ああ、豊若さん、椎名です。ごぶさたしてます。……ええ、元気でやってます。今度の週末に一杯いかがですか……、ちょっと会わせたいやつがいるんですよ……」 |
◆次回予告◆
坂口が“松下のため”と思って作った経費精算ツールが原因で、関係が悪化する松下と坂口。このままでは、ツールが使われなくなるのは自明です。さらに、新任早々同僚との溝を深めてしまいました。果たして、坂口はどのような方法で解決を図るのでしょうか。次回は、坂口が運命の人と出会い、シスアドとして覚醒していく姿をお届けします。
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東京本社・営業1課 メンバー構成
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| 課長 | 浜崎 雅則(はまざき まさのり) |
43歳
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| 課長代理 | 江口 章輔(えぐち しょうすけ) |
38歳
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| 主任 | 椎名 純平(しいな じゅんぺい) |
33歳
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| 主任 | 坂口 啓二(さかぐち けいじ) |
30歳
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| チーフアシスタント | 松下 真樹(まつした まき) |
35歳
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| アシスタント | 谷田 亜紀子(たにだ あきこ) |
26歳
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| アシスタント | 水元 優香(みずもと ゆうか) |
24歳
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| 営業部 部長 | 田所 譲司(たどころ じょうじ) |
50歳
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| 上級シスアド | 豊若 越司(とよわか えつし) |
38歳
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| 4/4 |
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| ■要約 この連載は、IT化のまったく進んでいない部署に転勤してきた坂口を中心に、徐々にIT化が進んでいく様子を描いたフィクション。坂口は、仙台支店から中堅ビールメーカーサンドラフトビールの販売支援会社「サンドラフトサポート株式会社」の東京本社営業第1課に転勤してきた入社8年目の営業マンだ。 親会社のサンドラフトビールは、ヒット商品である「太陽のDRY・生」を武器に、果敢に大手ビールメーカーに戦いを挑んでいる成長著しい企業だ。そこで坂口は、来年度から導入を開始する「新営業支援システム開発プロジェクト」の推進委員を任命される。坂口は昨年の秋に初級シスアドを取得した。そんな坂口はPCの利用率すら低い東京本社の現状にショックを受け、経費精算の定型フォーム作成を試みる。しかし、従来より経費精算業務を請け負っていた松下の抵抗や、社員のPC利用率の低さといった導入への壁が坂口に立ちはだかる。 現状打破を目指し、松下との話し合いに臨んだ坂口だが、口論で感情的になってしまい、さらに関係を悪化させてしまった。果たして坂口の作ったツールは使われるようになるのか。第2回につづく。 |
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