CRMアプリケーション、次世代の潮流CRMアプリケーション展望(1)

日本で「CRM」という言葉と概念がブームとなったのが、2000年ごろだっただろうか。2001年を経て今年2002年はいよいよ導入・運用のフェーズに入りつつある。それに対して、CRMベンダーのソリューションは次世代のものへと移行しようとしている。ここでは次世代CRMがどのような方向性を持っているのか、見ていこう

» 2002年01月23日 12時00分 公開
[小林 秀雄,@IT]

再燃するCRMへの期待

 SFA、コールセンター、データ・ウエアハウスなど、CRMに対する注目が高まったのは1990年代半ばのこと。SFAは営業担当者の業務を効率化し、コールセンターは顧客と企業のきずなを密接にする。データ・ウエアハウスは、個々の顧客が潜在的に持つニーズを顕在化させ、One to Oneマーケティングを実現させる。

 そのCRMに対する期待が再度高まっている。IT不況なる言葉がマスコミに踊っているが、企業はIT投資をやめたわけではない。むろん、やみくもな投資が行われているわけではない。デフレが進行する中、その投資対象はさらなる効率化/合理化効果を生み出すことにフォーカスされている。その1つが、CRMシステムの再構築・統合である。

 新規顧客を開拓するのか。それとも、既存顧客に対して有用な提案をして売り上げを拡大させるのか。企業にとって、成長するための手段は常に2つある。企業はこの2つ(の少なくともどちらか)を実行していかなければならない。

 とりわけ、重要なテーマは既存顧客を離さないことだ。なぜなら、「同じ利益を得るのに、新規顧客の場合は既存顧客に比べて5倍のコストが掛かる」というのが定説だからだ。そのための道具としてCRMシステムが再認識されているわけである。しかも、CRMシステムを実現するソリューションそのものが進化し、単なる部門の効率化にとどまらず、全社を顧客中心と組み替える経営ソリューションへと進化していることが、企業の(とりわけ経営層の)CRMに対する関心を高めている。

「統合」をキーワードに進化するCRM

 2001年を境にCRMソリューションは新たなフェーズに入った。そのキーワードは「統合」である。

 CRMソリューションは、個々の業務をITで支援することからスタートした(個別業務の効率化からIT利用が始まるのはCRMに限らないが)。SFAやコールセンター、データ・ウエアハウスなどは営業、顧客の問い合わせ対応、マーケティングという個々の業務の効率化ないし最適化を目的としている。言い換えれば、1990年代のCRMソリューションはポイント・ソリューションだったのである。

 そして、現在のCRMソリューションは統合へと進んでいる。それが第2世代CRMとか第3世代CRMなどと呼ばれるソリューションのトレンドである。第2世代CRMは、フロント・システムを統合するもの。それに対して第3世代CRMは、フロント・システムとバック・システムとを統合するものとされる。

 第2世代CRM、すなわちフロント・システムの統合の端的なケースは、顧客と接する営業担当者のSFAとコールセンター・システム、あるいはWebシステムを統合することといえる。フロントに存在するいくつもの顧客接点システムをバラバラにしておくのではなく、各システムの背後にある顧客データベースの共通化を図るのである。それによって、フロントと顧客の関係を最適化する。それが、第2世代CRMの目的である。

 例えば、電子メールで注文してきた顧客が、配達先の変更をコールセンターに電話で依頼するといったケースで、顧客データベースが共通化されていればスムーズで矛盾のない対応ができるが、電子メールと電話対応の顧客データベースが別々に運用されていれば、対応はとんちんかんなものになりかねない。フロント・システムの統合化を図れば、こうした顧客不満足を防止する仕掛けを作ることができる。

図1 チャネルや部署ごとに顧客対応がちぐはぐにならないようにするためには、部門を越えた顧客データベースが必要となる。CRMが会社全体で取り組むべき経営戦略であると言われる所以である

 では、第3世代CRMとは何か。前述したように、フロント・システムとバック・システムとを統合するのが第3世代CRMの姿であり、フロントと顧客の関係の最適化のみならず、企業と顧客の関係の最適化を目指している。情報システムの面でいえば、CRMシステムとERPシステムとの統合を指し、業務面でいえば営業やマーケティングのみならず、開発や保守などの部門も含めて全社の機能/部門を顧客中心に組み替えるプラットフォームとなるのが第3世代CRMである。

 この第3世代CRMソリューションが出そろったのが2001年である。

第3世代CRMのコアとなるPLMと分析

 第3世代CRMのコアとなるのは、プロダクト・ライフサイクル・マネジメント(PLM)と分析である。

 PLMとは、顧客の問い合わせから始まり商談プロセス、製品の納入、入金、保守履歴など、顧客に納められた製品のライフサイクル情報を統合的に管理することを指す。商談管理はSFAで、納入情報管理は物流システムで、保守履歴は保守管理システムでというように部門ごとにバラバラに管理されているのが普通である。この状態では、顧客と企業の関係がOne to Oneにならない。顧客はOneであっても、企業の側がいくつもの機能(部門)で分断された情報に基づいて顧客に接するからである。顧客から見た企業は、One to someなのである。

図2 顧客は常にOneだが、企業サイドは顧客のフェーズごとに部署やシステムが分かれてしまっている

 そこで、PLMに注目してOne to Oneの関係を構築する。これが第3世代のCRMの思想である。

 PLMをべースとして顧客ライフサイクルに関するデータベースが構築されることにより、企業は全社的なCRMを推進することが可能となる。

 「全社的な」という意味は、営業やマーケティング部門はもちろん、これまでCRMとは直接関係がないと見られた部門、例えば開発部門や品質管理部門なども含めて顧客中心の動きをすることが可能となるということを指している。その道具となるのがビジネス・インテリジェンス(BI)ツールである。第3世代CRMとは、別の視点から見ればアナリティカルCRMである。

 その効果は、開発部門でいえば顧客に納入した製品の不具合を分析して、設計を見直して保守を容易にしたり、部品の購買先に対して品質見直しを要求するといったことにつながる。製品の競争力を高め、顧客満足度を向上させることが素早くしかも的確に行えるようになるわけである。

 さらに重要なことは、統合された顧客データベースを基に、仮説を立て、実行し、検証するといったプロセスを素早く回転させることができるようになることである。どんな製品を開発すべきかという議論のみならず、顧客ニーズを発見して、どのタイミングでどのような製品を投入すべきかまで視野に入れて仮説を立てる。それは戦略立案にほかならない。いわば、第3世代CRMは、極めて戦略的なテーマなのである。

スイートか? ベスト・オブ・ブリードか?

 第3世代CRMソリューションは、統合ソリューションである。統合ソリューションとは、これまでのポイント・ソリューションと異なり、フロント・システム間およびフロント・システムとバック・システム間が1つのデータベースを基盤として統合されているということだ。この第3世代CRMソリューションの担い手として注目されているのがERPベンダーである。

 バック・システムとしてERPシステムを提供してきたERPベンダーが、顧客チャネル、ワークフロー、BIなどフロント系のCRMシステムを開発し、さらには調達機能を持つ自社ERPと統合利用できるスイート製品を投入している。オラクル、ピープルソフト、SAPなどがその代表だ。

 スイート製品に対して、ベスト・オブ・ブリードというトレンドもある。一例として挙げれば、SFAを機軸にCRMソリューションを展開するシーベル製品とSCM大手のi2テクノロジーズの製品を組み合わせる──というようなことである。各ジャンルで最高の機能を持つ複数のソリューションを組み合わせ、統合的に利用するのがベスト・オブ・ブリードである。

 機能という面にフォーカスすれば、ベスト・オブ・ブリードに軍配が上がる。例えば、あるERPベンダーは自社のBIツールが最高の機能を達成していないことを認めている。機能を追い求めればベスト・オブ・ブリードが選択肢ということになるだろう。だが、導入の容易さ、ひいては開発期間や開発コストを勘案するとスイート製品が有効とスイート製品勢力は主張する。自社開発で一連のCRMソリューションを用意しているのだから、個々のソリューションを連携させるためのインターフェイスの開発が不要というのがその論拠である。

 とはいえ、ベスト・オブ・ブリードであっても各モジュールの連動性・統合性はより高まっていくだろう。一方で、スイート製品も個々の機能を向上させていくのは間違いない。また、CRM製品は進化しているものの、実際の導入は多くの企業がポイント・ソリューションの段階にあり、データベースの統合を進めつつチャネルの統合へと移行しようとしている。投資額の面からもステップを踏みつつ第3世代CRMへと進化させていくことになるだろう。

Profile

小林 秀雄(こばやし ひでお)

東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌『月刊コンピュートピア』編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、『今日からできるナレッジマネジメント』『図解よくわかるエクストラネット』(ともに日刊工業新聞社)、『日本版eマーケットプレイス活用法』『IT経営の時代とSEイノベーション』(コンピュータ・エージ社)、『図解よくわかるEIP入門』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)など


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