なぜ、EIPが注目されるのか? 情報の個別最適化で生産性を高め経営効率の向上へ企業情報ポータルのススメ(1)

» 2002年02月13日 12時00分 公開
[日高 俊明,@IT]

ホワイトカラーの仕事の70%以上は、資料探しに費やされるといわれる。オフィスのコンピュータ化は、「OA」と呼ばれた時代から、その解消を目指してきたはずだった。しかし、デジタル情報の爆発的な増加、複数システムの混在による情報共有のなさ、デジタルデバイドなどで、逆に問題が複雑化、深刻化する方向にある。これらを改善するITソリューションとしていま注目されているのがEIP(Enterprise Information Portal:企業情報ポータル)だ。EIPを導入することによって、ホワイトカラーの生産性は高まり、経営の意思決定の迅速化や効率化を実現できるとして、いま多くの企業で取り組みが始まっている

企業を取り巻く情報の変化

 人類が過去30万年かかって蓄積した情報量(約12エクサバイト:EB)に匹敵するデジタル情報がいまでは数年で生産される――という米カリフォルニア大学バークレー校調査報告(2000年10月)は有名だが、そのようにいまや情報は爆発的に増加している。

 企業情報システムが対象とする情報は、これまでは取引先企業や企業内あるいは部門内の情報が中心だったが、インターネットの普及でいまやワールドワイドに拡大した。また、企業情報システムで生産される情報はこれまで、あまり経営と直結していなかったが、スピーディーな経営の意思決定が求められるいま、経営と直結することが不可欠になっている。

 情報の質も問われている。かつてはメインフレームによって企業全体に関する情報をバッチ処理していた。それが1人1台のPC時代になり、一見、情報の速度は速くなったかに見えるが、実際は全体最適化を目指した情報が個々の社員でも入手できるようになったに過ぎない面が少なくない。個々の社員や経営者が、いま必要とする情報をリアルタイムで入手できる態勢にはなっていないのが実状だ。

バラバラなシステムが生んだ陥穽

 システム化は進んでいるのに、なぜ必要な情報が必要なときに入手できないかといえば、それは企業情報システムが有機的に連携していないからである。企業はこれまで、各部門の業務の効率化を目指して個別にシステム化に取り組んできた。それが最終的に経営の意思決定の迅速化や経営革新にあったにしても、システム構築は統合的にはなされていないのがほとんどである。

 その結果、企業にはマルチベンダー、マルチタスクという名の下にさまざまなハードウェアやソフトウェアが混在し、情報の蓄積形態や所在がバラバラになってしまっている。したがって、必要な情報や重要な情報がすぐに入手できない。企業内のどこかにはあるにもかかわらずである。

 それだけではない。個別にシステム構築を進めるので、そのたびに新たなIDやパスワードが必要になり、1人の社員が2つも3つもIDやパスワードを持つという事態も起きている。「メールサーバへのログインIDがこれで、ファイルサーバのログインIDがそれで〜」と説明したところで、コンピュータを使うこと自体が仕事ではない一般の社員にとってはわずらわしいばかりではなく、理解不能に違いない。その結果、それらを忘れたりすると業務自体に支障をきたすことにもなる。当然、業務効率は落ち、効率化のためのシステム導入、あるいは戦略性を求めたはずのシステム構築が、逆に非効率を生み出す結果にさえなる。

 システム導入、IT投資は、全社統合であればあるほどコストと時間がかかる。しかも企業規模が大きくなればなるほど、全社システムのすべてを切り替える──というのは不可能事に近くなる。また、統一的なアーキテクチャーで全社システムを設計し、数年がかりでシステム更新をした結果、完成した時点ではすでにビジネス環境に適合していないというのも現実だ。したがって、全社の動きを待っていられない部門は、「いま必要なシステム」を個別に導入していかざるを得ないという事情もあるのだが、いずれにしても、現在の企業情報システムの多くは、そうやって必要な情報が必要なときに入手できないという不具合を生じているのである。EIPは、こうした課題を一挙に解決する手法として注目されている。

過 去 現 在
情報量 定量的拡大 爆発的拡大
情報の範囲 取引先企業、企業内、部門内 ワールドワイド
情報伝達 経営と直結しない 経営と直結する
情報の質 全体最適化 個別最適化
情報の速さ 全体としての迅速性 個別対応のリアルタイム性
表1 EIPが注目される背景。情報自体の変化とニーズの変化

個別最適化を実現するEIP

 これまでの企業情報システムが企業の部門最適、およびその延長線上にある理想形としての全体最適を目指したものだとすれば、EIPは個別最適を目指すことによって企業のコアコンピタンスを活かし、経営の意思決定を迅速化し経営革新に繋げるものといえよう。

 EIPの“P”つまりポータルは「入口」あるいは「玄関」といった意味で、さまざまな情報システムの入口を指す。もともと、“ポータル”は「Yahoo!」などの検索とディレクトリサービスを提供するWebサイトのことを指していた(いまでもそうだが)。「インターネットへの玄関」というわけだ。こうした万人向けの総合ポータルに続いて、業種や趣味で的を絞った“バーティカル・ポータル”というのも登場した。

 時をほぼ同じくして、企業システムにインターネットのテクノロジーを利用する「イントラネット」がブームとなった。イントラネットは比較的低コストでシステム導入できたので、幅広く企業に採用されたが、社内閲覧用のWebページが増えてくると、社内のどこに何のページがあるのか分かりづらくなるといった問題が起こってくる。こうなると社内にも「Yahoo!」のようなインデックスページが欲しいということなる。これが最初期の“企業内ポータル”であっただろう。

 企業システムの構築にもWeb技術を利用するのが一般的になってくると、これらをもWebブラウザ上で一元的に表示するというソリューション──EIPが登場する。ベンダーサイドではサイベースが1999年に「“My Yahoo!”のようなパーソナル化されたポータルを企業システムに取り入る必要がある」として、EIPを提唱している。

 このパーソナライズがEIPの大きなポイントの1つだ。企業活動で必要とされる情報は経営者、管理職、現場担当者など役職や仕事内容によって異なる。EIPはそうした違いに柔軟かつ効果的に対応し、ユーザーごとに表示を変えることによって、ユーザーは自分の仕事に必要な情報を適切なタイミングに過不足なく得られるようになる。

 EIPのもう1つの利点は、さまざまなシステムへの入口を1つの画面に集中して表示し、このポータルに一元化されたIDやパスワードを入力することによって、個々のシステムのリソースを活用できることだ。これをシングルサインオンと呼ぶ。いってみれば、これまでは各部屋ごとに異なった鍵が必要だったのに対して、EIPは1つの万能鍵でどの部屋にも入ることができるわけである。したがって、複数のIDやパスワードを管理する煩雑さもなくなる。

 そういう意味ではEIPは、これまで企業情報システムに隔靴掻痒の不満を抱いていた利用者を満足させるITとも言える。そしてEIPは、既導入のハードウェア資産やソフトウェア資産を活かすことができる。少ない投資で、大きな効果を得られるITソリューションでもあるのだ。

EIPの機能と効果

 EIPを構築するためのソフトウェアは現在、30種類以上が提供されている。そしてこれらの構築ソフトは、主たる機能によっていくつかのタイプに分けられる。ここでは表示・検索型、統合型、業務型、コラボレーション型の4つに分けて、その概要を見よう。

表示・検索型

 まず表示・検索型だが、このタイプの主な機能としては商用サイトのコンテンツ表示、各種の文書管理、ナレッジマネジメントなどがある。この中で特に注目したいのはナレッジマネジメントで、この機能によって、これまで企業の中に眠っていて利用しようにも利用できなかったさまざまな知識の活用が可能になる。表示・検索型の効果は、パーソナライズされた総合的な情報の入手、管理、活用が可能なことである。

統合型

 次に統合型だが、このタイプの主たる機能は業務アプリケーションの連携やワークフローである。これは、従来の企業情報システムが部門ごと、あるいは業務ごとにバラバラになっていて欲しい情報が得られなかったことを解消してくれる役割を果たす。効果としては、業務にフォーカスした統合的な情報活用が可能なことだ。

業務型

 業務型のEIPは、特定業務にフォーカスした情報活用や、一元的な情報検索を主な機能に持つ。したがって、例えば、営業支援といった個別業務の革新に効果がある。

コラボレーション型

 コラボレーション型は、社員間あるいは企業間で情報共有やコラボレーションすることを主たる機能として持つEIPである。企業は、組織が大きくなればなるほど、縦系列のコラボレーションはできていても、横系列のコラボレーションができていないケースが多い。その結果、社内に重要な顧客情報があるにもかかわらず、それを知らないためにビジネスチャンスを逃すといったことも少なくなかった。それを改善するのが、コラボレーション型のEIPだ。これを導入することによって、企業内外との緊密な連携が可能になる。

機 能 効 果
表示・検索 ・商用サイトのコンテンツ表示
・文書管理
・ナレッジマネジメント
情報の総合的な入手、管理、活用
統合型 ・業務アプリケーションの連携
・ワークフロー
業務にフォーカスした統合的な情報活用
業務型 ・特定業務にフォーカス
・一元的情報検索
営業支援など個別業務の革新
コラボレーション型 ・社員間コラボレーション
・企業間コラボレーション
企業内外との緊密な連携
表2 EIPの分類と効果

 こうして見てくると、EIPは非常に有効なITであることが分かる。この1年、日本の企業でもEIPの導入が盛んになってきているが、それはEIPの重要性が認識されてきたからであろう。EIPによって、デジタルデバイドを解消できるという指摘もある。これまでは、いわゆるコンピュータリテラシーを持つ者と持たざる者で情報格差が出ていたが、それが解消されるというわけだ。

 EIPは、パーソナライズすることによって、必要な情報を、必要と思われる利用者に確実に届けることができる(プッシュ型情報伝達)。したがって、その情報をいかに活用するかは個人次第だ。そういう意味では、PCのリテラシーではなく、利用者の真の力量が問われることにもなる。

Profile

日高 俊明(ひだか としあき)

1952年1月生まれ、長崎県出身。OA、コンピュータ関連の雑誌、新聞記者を経て1987年からフリー。コンピュータ、科学技術関連、経営関連雑誌などに多数寄稿。著書:『ソフトウォーズ!』『続ソフトウォーズ!』(以上、コンピュータ・ニュース社)、『オラクルマスター・オフィシャルガイド』(IDGジャパン)、『VR革命』(オーム社)編著:『AIビジネスの布石』(コンピュータ・ニュース社)、『開放特許で儲ける法』(日本実業出版社)

メールアドレスはhidaka27@mb.infoweb.ne.jp


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