ビジネスインフラとしてのモバイルの展望モバイルを活用するビジネスソリューション(1)

» 2002年03月19日 12時00分 公開
[生井 俊,@IT]

iモードなどのインターネットに接続できる携帯電話への加入者数が5000万を突破した。インフラの整備はほぼ完了し、ワイヤレス端末の普及がめざましい。20代〜40代のほとんどが1人1台携帯電話を持つなど、モバイルを利用したビジネスシーンが広がってきた。また、FOMAといった第3世代携帯電話や無線LANの普及により、モバイルにもブロードバンドの風が吹き始めた。プラットフォームが整い、急成長が見込まれるビジネスインフラとしてのモバイルについて考察してみる

携帯電話は依然加入者が伸び続ける

 携帯電話やPHSの加入台数は依然増加傾向で、2002年2月末の速報値で7367万8200台となっている。なかでも、NTTドコモのiモードやJ-PHONEのJ-Sky、auのEZwebなど携帯電話によるインターネット接続サービスは初めて5000万加入を突破した。

 PHSの加入者数は携帯料金が引き下げが続いていたが、長らく加入者数が下落傾向にあった。しかし、ここに来て安定した品質、インターネットへの高速接続などの面から下げ止まった。具体的には、DDI POCKETが導入したAir H"の「つなぎ放題コース」などによるところが大きい。月額4930円(年契割引適用時)さえ払えば、32kbpsのデータ通信が使い放題になるというもの。この3月26日からは、オプション料金を3500円払うことで128kbps通信が使い放題になる「オプション128」をスタートさせる。

 このように、インターネットと携帯・PHSが融合することでモバイル市場が拡大してきている。そして、こうした市場が広がれば広がるほど、マーケティング的にも大きなターゲットになる。例を挙げれば、iモードが登場してすぐにバンダイが「いつでもキャラっぱ!」という待ち受け画面配信サービスを開始したが、スタートしてわずか3カ月で20万加入を集めた。同社の有料課金コンテンツは増え続け、現在は数百万加入がある。1コンテンツあたりの利用料が月額100円としても、月に数億円をiモードビジネスで売り上げているのである。また、同様のアイデアをJ-SkyやEZwebなどへ水平展開することも容易だ。公式サイトに登録しなくても、iモード向けにサイトを構築し、検索エンジンに登録さえすれば「勝手サイト」としてやっていける基盤はできあがっている。

 当初はコンテンツビジネスに注目が集まったiモ−ドだが、その後は加入者の拡大により、マーケティングターゲットとなり、また通信料や端末の価格の低下、Java対応端末の登場ややシステムの進化により、ビジネスツールとしての存在感も増しているのである。

高速化・常時接続が当たり前の時代へ

 携帯電話は当初のアナログ(1G)として登場している。その後、PDC方式などのデジタル(2G)へ完全に移行した。また、cdmaOne(CDMA方式)が主力機種となったauは、アナログからデジタルの変換を果たしてPDCの新規加入を打ち切った。また、4000万加入を集めているNTTドコモは、iモードで利用している周波数帯の800MHz帯が混雑し、電話がつながりにくくなったり、品質が安定しないため、シティフォンで使用している1.5G帯も利用できるデュアルモード対応機種を投入している。そこで、混信に強く高速なデータ通信が可能な2GHz帯を使う第3世代携帯(3G)に注目が集まっている。先陣を切ったのがNTTドコモのFOMA(W-CDMA方式)で、加入者は目標に対して下方修正することになりそうだが、2002年3月末までに15万を見込んでいる。J-PHONEやauでも今春以降に第3世代携帯電話の投入を予定しており、いまは2Gから3Gへの過渡期にある。

 3Gと言われるIMT-2000は、静止時に最大で2Mbpsでの通信が可能で、移動時でも384Kbpsの伝送スピードを誇る。2Gが9.6Kbps(一部機種は14.4Kや28.8Kbps)であることを考えると、一気に40倍〜200倍強のスピードになる。こういった携帯端末が常にネットに接続され高速化することで、リアルタイムにそして多くの情報をビジネスマンに届けることができる。また、2GHz帯は全世界でもローミング利用できるため、いつでもどこでもネットにつながる時代になる。そして、なによりも導入および運用コストが安いため、会社としても営業ツールとして持たせることが可能だ。

 現在、FOMAは高嶺の花だが、J-PHONE(W-CDMA)やau(CDMA2000 1x)の3Gサービス開始によって販売店への売り上げリベート強化が予想され、一気に第3世代の携帯電話が2万円台で購入できるようになると予想している。また、建物内にFOMAの基地局が設置されるのは2003年からになる模様で、2003年は3G元年になる可能性が高い。音楽配信やテレビ電話などのストリーミングビジネスに注目したい。

移動体通信はおよそ10年ごとに世代が変わり、通信速度は等比級数的にアップしている

ポスト携帯電話を狙う無線LANとPDA

 このところ無線LANの動きが活発になってきている。地域全体を無線LANでカバーしてインターネット接続を提供するプロバイダや、喫茶店やホテルなどに無線LANアンテナを設置し同様のサービスを提供するホットスポット型のプロバイダなどが、実証実験から相次いで商用化に踏み切る。

 無線LANスポットが急激に増えた背景には、無線LANカードの出荷枚数が2001年度で100万枚を超えたことがあるだろう。併せて、有線LANよりもイニシャルコストが安いことなどから、社内のLANも無線LANで構築するオフィスが増えてきている。その追い風を受け、ビジネスマンが持ち歩くノートPCやPDA端末に従来のH"やP-in Comp@ctだけでなく、無線LANカードやブルートゥースなどインターネットへワイヤレスで接続できる機器が搭載されていることが多くなった。また、ハードメーカーも無線LANやブルートゥースを内蔵したノートPCを数多く投入している。

 PDA市場もソニーがCLIEを投入してから一段と活性化し、シャープのZaurusやコンパックのiPAQなども順調に売り上げを伸ばしている。PDAの利点は、小型・軽量で手書き入力できるほか、携帯より画面が大きいためメールチェックが容易な点が注目されている。また、Webの閲覧にも向いているため、従来ノートPCを持ち歩いていたセールスマンなどが、顧客に対して保険料シミュレーションを見せたり、また在庫確認に利用したりという使い方で利用したりしている。

 またIPアドレス付きカーナビが登場することで、GPS情報だけでなく、インターネット経由で渋滞情報などを取り入れ、画面上に表示できるようにもなるだろう。現状でも実際にiモードやGPSを使い、タクシーの配車を行っている会社もあり、こうしたIPアドレス付きのナビゲーションシステムは、現在約半分のトラックが空気を運んでいると言われる物流業界の効率化、配達・配送、巡回サポートなどのビジネスの効率化に役立ちそうだ。

 無線LANに関しては、今後アンテナが密になってくると予想され、電車が駅についた瞬間にメールチェック、メール送信などを行うといったことが考えられる。無線LANは、現在主流のIEEE802.11bという規格で11Mbpsの転送スピードを誇るため、無線LANアンテナの整備次第では、IPアドレス付き電話が、FOMAなどの3Gをひっくり返す可能性が出てくる。月額2000円程度の低価格で電話もネットもという時代がまもなくやって来そうだ。

まだ実験的なものも多いが、街中にも無線アンテナは着実に増えている

携帯端末を使ったソリューションの可能性

 前述のとおり、iモードやGPSを使ったタクシーの配車、PDAを使った在庫確認や棚卸しといった、ビジネスソリューションが登場してきている。マーケティングツールとして携帯電話へのメールを活用したり、携帯上で金融商品の取引ができるなどあらゆる可能性を秘めている。携帯の画面にバーコードを表示し、入場チケットや割引券として利用する実験も数多く行われている。J-PHONEでは、携帯と無線LANの相互乗り入れ実験を産学協同で行うなどし、携帯と無線LANを隔てていた壁は、いつのまにかシームレスになり、巨大なプラットフォームになりそうだ。

 今後注目したい携帯電話のビジネスシーンでの活用方法としては、災害対策(地吹雪観測、火山観測画像伝送、落石検知)や自動販売機のPOS管理、医療・福祉(訪問看護、緊急通知)、割引クーポン、アンケート調査、決済、自動車などの盗難防止だ。携帯電話や無線LANといったインフラが整備されることで、あらゆることが携帯端末上でできるようになった。財布や鍵を忘れても、携帯電話1本あれば身分証明から、施錠、支払い、現在位置の確認、在庫確認などの企業の業務をがこなせるようになる日は近い。こうしたビジネスインフラを積極的に、業務改善にどれだけ結び付けられるかが、来るべきユビキタス時代におけるビジネスの格差に繋がってくるだろう。

Profile

生井 俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。国内初の交換留学制度を利用し、同志社大学留学。早稲田大学第一文学部卒業後、株 式会社リコー入社。ソリューション営業として仙台支店(現・リコー東北株式会社)に配属となるが、1年で脱落。現在ライターとして活動中。近著に『万有縁力』(プレジデント社、共著)。今春に同友館より『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(共著)を発刊予定


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