これまで、SCMシステムを導入するとこのようなことができる──といった内容で話を進めてきました。
今回は主に、
を中心に進めていこうと思います。
本来の手順であれば、これまでの連載で解説してきた「SCMツールを導入した後」の部分は、今回のようなステップを踏んでから行うことになります。今回は時間をさかのぼって、SCMツールを導入するまでに、どのようなステップを踏んでいくかについて見ていきます。
特にトップが導入を決定し、その方針を関連する幹部社員に話し、導入を進めるステータスについて進めていきます。
以下が導入の意思決定から実際のリリースまでの手順概要です。今回は2の部分を中心に話を進めていきます。
1. トップが導入を決める |
2. 関連担当社員に導入のためのアクションを取る |
3. 要件定義を進める |
4. インプリメント(開発)をする |
5. テストをする |
6. ユーザー教育をする |
7. リリースする |
最初は、主に経営者層が関連します。
直接・間接に見聞きした例を思い返していくと、最終的にはトップダウンの指示が出ているようです。もちろんボトムアップで進めていくこともありますが、SCMの導入は、全社的な戦略そのものになりますから、おのずとトップの意思決定が必要です。
しかし、いきなりトップから号令が掛かっても下はついてきません。
一般的に、人はあまり変化を望みません。よく分からないアルファベット“3文字”のシステムが導入されて、自分の仕事のやり方が変わってしまうことを不安に思うのは当然でしょう。
しかしながら、いまは常に“変わる”ことをしなければ、会社はその存続も危うくなるという時代です。わが国自体が「構造改革」をうたっているのですから。少し前に「チーズはどこへ消えた?」という本がベストセラーになりました。読まれた方も多いと思いますので、内容には触れませんが、変化をしていかなければ成功にはたどり着かないよ──と話は進んでいきます。「チェンジ・マネジメント」とか「チェンジ・リーダー」といったタイトルの本もよく見かけるようになりました。
そこで経営者は自社の改革について、いつも心を砕いています。もちろん、大抵のトップマネジメント層の方々は、自社の状況をしっかり把握しており、トップ同士の付き合いや経営者セミナーなどにより、非常に多くの情報を持っています。そこで会社全体や業界の中の動きなどを見ながら、新たな構想を練っていくことになります。そして「現在の問題は、このように解決する」と決断するわけです。
しかしながら、指示を出せばすぐに次の戦略に進めるとは限りません。上述のように“抵抗勢力”があり、なかなか前進できないという場合が少なくないのです。
そうした場合に、外部の第三者に委託して、社内を説得し経営改革実現に向けて走りだすことになるわけです(もしかすると、この部分がコンサルタントに最も期待されている部分なのかもしれません)。
「業務改革を行う」というトップの意思決定がなされたら、次のステップに進みます。
この業務改革を進めるうえで、各部署にいる現場のキーマンが重要な役割を担います。トップの意思を正確に認識・把握し、それを部下に分かりやすく、具体的な指示にして、与えていかなければなりません。
彼らも現場のプロであり、高いプライドを持っています。外部コンサルタントがちょっと説明したからといって、簡単に考えを変えてくれるとは限りません。しかしながら、こうした方々は現状の業務における不備・不満点は見えています(おぼろげにかもしれません)。そうした点を具体的に取り出し対応策に結び付けるために、さまざまな手法を用いていくことになります。
そこで今回は、現場キーマン社員とともに“合宿”を行った場合を例に、プロジェクトの進め方を説明していきましょう。なお以下の事例は、SCMを導入する企業の専任メンバー(コアメンバー)と第三者であるコンサルティング会社が共同してプロジェクトを進めていく場合を想定しています。
合宿参加対象者や合宿の目的を検討していきます。
コアメンバーからは、例えば、以下のような合宿の方針が出てきます。それに基づいて検討して下記のような合宿の目的を決めていきます。
<コアメンバーの方針>
その結果、この例では以下のアジェンダとしました。
<アジェンダ>
▼プロジェクト概要の共有化・共通意識の確立
▼プロジェクトゴールのイメージ確立
アジェンダは導入企業のコアメンバーの方と、方針や内容を検討し固めていきます。
合宿の目的が決まるとどのような話題(プログラム)で進めていくか、どのような資料が必要になるかを検討していきます。
その結果、例えば以下のようなプログラムが出来上がったとします(参加者の業務に支障がないように、土曜・日曜の2日間で行う構成としました)。
また、この合宿で大切な内容は、青字で記したところです。
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[1] 合宿の目的は自社のリーダーから
最初に合宿の目的などを、導入企業のプロジェクトリーダーに話してもらいます。ここは、絶対にその会社のリーダーからの説明が必要です。第三者からだと、プロジェクトに参加しているメンバーは“押し付け”であると感じてしまいます。仮にプロジェクトが事実上、コンサルタントに丸投げのものであっても、ここはリーダーに登場してもらわなければなりません。
[2] トップメッセージ
参加メンバーに「これが全社のプロジェクトであること」を印象付けるために、たとえ儀式的であっても、経営層の方からメッセージをいただきたいところです。直接その場にお越しいただければ一番ですが、TV会議システムやビデオメッセージなどを利用することも考えられます。もし、合宿当日に時間が取れなければ、別の機会でも構いません。合宿からあまり時間がたたないうちに、参加メンバーが全員集まる場で10分程度でもスピーチしていただきたいものです。
この項目が合宿の本題です(今回の事例プログラムでは1日目の後半からになります)。参加メンバーに自分の問題として考えてもらう場面です。
私たちコンサルタントは、経営者やプロジェクトリーダーからSCMを導入する目的や方針を聞いています。なぜ、SCMを導入しなければならなくなったのかも検討しています。それらを踏まえて、参加メンバーに議論してもらいます。
1. 議論するための約束事
議論を円滑になおかつ白熱させるためには“ルール”が必要です(ここでは、ブレーンストーミング・ミーティングの考えを踏襲しています)。
▼合宿検討の3ステップ
▼合宿検討を行ううえでの基本ルール
2. 議論する項目
3. 用意する資料
以下の項目についてドキュメントを用意します。作成者側の主観を入れずに、業務フローとそれに対する特記事項を中心にドキュメントとしてまとめます。
自社のことでもあり参加者はよく知っていることばかりなので、特別にドキュメントを作成する必要はない──といった考えもありますが、議論していくうえで、他部門のことや全社を念頭に置いて想像をめぐらせやすいように、いくつかの資料を用意しておきます。
i. 現状業務フローの確認
事前に各現場からヒアリングを行い、現状の業務フローを作成します。
内容として
などを用意します。
ii. 販売計画
営業部門がどのようにして販売計画を作成するかをまとめます。
iii. 入庫計画(在庫補充計画)
物流部門が全国の倉庫や営業所に製品(商品)を配送する計画を立てているかをまとめます。
iv. 生産計画
生産計画の立て方についてまとめます。
v. 現状実績数値データの確認
例えば、以下の項目についてまとめます。形式は折れ線グラフになります。
売上、在庫、生産などの実績データ
vi. 財務データ
手順は、問題の抽出?課題の整理の流れで進めていきます。
1. 問題/課題の抽出手順
問題・課題の抽出については、以下の手順で行います。
現状業務を参画者間で共有するため、前項の「3. 用意する資料」を用います。
参加者には、自部門のことばかりではなく、他部門のことも含めて問題点を自由に発言してもらいます。
その結果をカード(ポストイットの大型のもの)に記載し、大きな模造紙に貼っていきます。
ここでの注意点は、たくさんの意見を出してもらうことです。このステップで問題が俎上に載せられなければ、合宿は成功しません。
2. 問題点の整理
問題・課題を抽出後、それらを整理します。ここでは、親和図法を用います。
親和図法とは、カード相互の親和性によって、カードをグルーピングしながら問題の所在や関係性を整理する手法です。次のような特徴があります。
問題点を整理していきます。
3. 原因−結果分析
4. 課題の整理・実施項目の検討
単純に「原因系」→「実施項目」などと置き換えただけでよいものか? と思われる方もいると思いますが、思いのほかうまくいくものです(多少の文章の修正はありますが)。
もし、うまくまとまらない項目があるときは、それぞれの因果関係がずれているのかもしれません。そういった視点で見直してみましょう。
5. 重点課題の選定実施概要計画
問題点を解決すべく課題を整理する
「問題点」「現象」「原因系」を「期待成果」「課題」「実施項目」へ反転させると、このような表(図5)が出来上がります。
複数の項目が出てきますので、「ウエイト」付けを行います。
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図5 課題の整理・実施項目の策定の例 |
SCM導入のコアメンバー(専任メンバー)とともに、合宿の課題について検討を行います。具体的には、“実施項目”を具体的にスケジュールとして線引きをし、担当者を設定していきます。
合宿の結果と今後の予定について、企業のトップやSCM導入担当役員などに報告を行い、承認をもらいます。この例では、トップマネジメントになります。
合宿の成果物としての課題の整理表は、現場のキーマン社員の意見を聞いて作成されたものです。これがコアメンバーの基本方針と合致すれば、SCMの仕組みを導入する第一歩を踏み出したといえるでしょう。合宿の後処理では、主にコアメンバーの作業のみとなるフェイズがあります。
しかし、要件定義のフェイズに入ると、合宿に参加したメンバーにヒアリングを行い現場の要望を取り上げながら、経営目標に合ったSCMの仕組みに導いていく必要があります。併せてSCMツール導入後の業務フローもまとめていかなくてはなりません。例えば、“製販会議”の回数は合宿では2回では足りないという意見があったが実際はどうなのか。毎週行うということでよいのかといったようなことを決めていかなければなりません。
この後の作業は、大きく2つに分けられると思います。1つは、要件が固まった結果をSCMシステムとしてインプリメントしていく作業。2つ目は、実業務面(組織面や評価基準など)における見直しです。
ここまでくれば、社内には抵抗勢力はなくなり、コアメンバー(コンサルタントも一緒かもしれませんが)が、十分前向きにプロジェクトを推進できる環境ができたといえます。
ここまで読んで、「合宿でコアメンバー側が意図する議論や結果が出てこない場合もあるのではないか」という疑問を持たれた方もいるかもしれません。私はそのような懸念は必要ないと考えています。もし意図する結果が出てこないのであれば、それは事前の準備不足なのではないでしょうか?
合宿前の資料作成の段階で、その方針が間違っていた、もしくは資料が量的・質的に足りなかったといったことが考えられます。私が行った合宿では、廃棄推移のグラフ(グラフ2)なども用意しました。このグラフから参画者は、「廃棄が多い→生産量が多い→販売計画が悪い→製販会議が機能していない」などと頭をめぐらせてもらえたようです。
このように事前準備を十分に行えれば、懸念は払しょくできると考えています。このような立場にいらっしゃる皆さんは、事前準備を十分に行ってください。
南野 洋一(みなみの よういち)
ITコンサルタント。前職で1993年から社内システムをノーツやオラクル、SAPを用いて構築を行う。当時はバブル経済が崩壊した時期で人員削減が行われる中、BPRを主眼においた仕組み構築に取り組んだ。
その後、システムコンサル系の企業に移り、製造業中心にSCM導入に従事。社内改革業務に取り組んでいる。ときには人材不足気味な中堅企業の情報システム部門の雇われマネージャを務めている
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