
| 第3回 | “新しいCIO”による新しいITガバナンス |
鈴木 貴博
経営戦略コンサルタント
2003/3/15
2002年、多くのSI会社が大企業からのIT投資凍結に悲鳴を上げた。一方、発注を抑えた大企業の方でも長引く不況の中で、コスト節減のための優先順位をマネジメントできない状況に追い込まれている。攻めのための投資ができない状況で、大企業の競争力は徐々に落ち込み始めている。IT面でのこの八方ふさがりを打破するためには、従来のITガバナンスからの脱皮が必須条件である。ではその新しいITガバナンスとは、いったいどのようなものであろうか。
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| 原典回帰 |
原点回帰ならぬ“原典回帰”とは造語である。困ったときには虎の巻に立ち戻って考えてみようという方法論で、実は私は経営コンサルティングの場面でこれまでなかったような困難な局面を迎えるたびによくこの方法に立ち戻る。
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この数カ月、従来の経営手法が通用しない実例を多く目の当たりにして、いままでになく多くの経営学の書物を読破した。その中でP・F・ドラッカーの古典的名著『マネジメント』の1章にふと目が留まった。内容を要約すればこのようなものだ。1970年代を通じて経営管理手法の一大ブームが起き、誤った経営手法の使い方がまかり通り始めている。その中の1つに分権組織がある。本来、分権組織はある限られた条件の産業、例えば製造業のような組織でしか成立できない。ところが(分権という言葉がポジティブワードとしてとらえられたためだろうか)、実際は分権組織が向かない多くの組織体が分権組織を盲目的に取り入れてしまっている。
これを、ITガバナンスに対する洞察に当てはめてみると非常に興味深い考え方であることが分かる。ドラッカーが分権組織が製造業に向くといっているこころは、異なるマーケット、異なる顧客、異なる製品だが、経営管理手法は同一の方法が適用できるという限定的な経営環境が製造業には成立しているためである。この条件下でのみ分権組織は機能する。この逆に全米のチェーンストアのような業態で地域的な差異が多少あってもそれほど大きくない場合は集権組織の方が向いている可能性がある。金融機関のようにマーケットや商品間の収益性が短期間に変化する業態ではなおさら集権組織によるマネジメントが事業の機動的な方針変換を取り入れやすい。
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分権ガバナンスが成立する環境条件は、「同一の管理手法が適用できる」ことである。この条件が1970年代後半から壊れてきた。ミニコンというメインフレームの代替ソリューションが現れ、やがてそれはPCをクライアントとするクライアント/サーバシステムに置き換わっていった。IBMとともに次期システムの構想を考えていくことだけが唯一のソリューションではなく、オープン系ベンダ各社をにらみながら、拡張性、安定性、可用性、コストといったさまざまな要素のトレードオフを考えてITを管理することが必要とされる環境にIT組織の置かれる環境が変貌を遂げていった。
その結果が分権組織の機能停止である。ここについては本連載の第2回で述べたとおりであるが、もはやIT組織に分権組織経営が通用していないのは明白である。唯一の解決の道は集権組織への回帰、すなわちCEO(最高経営責任者)本人がITガバナンスに取り組むことにほかならない。
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| “新しいCIO”と情報システム部門の役割 |
現在の行き詰まりは前回述べた「CIO幻想」という前提の延長線上にあるとすれば、新しいITガバナンスは「CIO=CEO」という新しい前提のうえで設計されるべきである。この「新しいCIO」は残念ながら集権的にITをガバナンスできるほどITにかかわるリテラシーが高くはない。しかしながら、CEOというポジションにいる人物は、ほかのポジションには見られない極めて特殊で有用な能力を身につけている。それは「自分の専門でないことについて、第三者に良い質問をすることで短時間に情報を収集し、短期間に正しい判断を下すことができる」という特殊能力である。
結論が明確なものについて判断するのが中間管理職であるのに対して、判断が難しい論点に対して意思決定するのがCEOである以上、彼らの意思決定には常に専門外のことが多く含まれている。そのために専門家に正しい質問を繰り返すことでCEOはより正しい判断を下す訓練を積み重ねている。状況の打開策の大きなヒントはここにある。CEOの質問に答える専門家のポジションをコンサルタントやSI会社が占めることができれば、新しいITガバナンスは機能するはずである。
この考え方を裏付ける事実として、経営トップへの営業のパイプを持つIT企業が、総じてIT不況の中で良い業績を残していることが挙げられる。アクセンチュアやべリングポイントなどのコンサルティングファームは昨年度のような環境下でも総じて良い結果を生んでいるし、トップダウン営業で知られるフューチャーシステムコンサルティングも利益率は堅調だ。
この方向で新しいITガバナンスの方向性を提案してみたい。発想の転換が必要なことがいくつかある。まずはCEOの側。自らがCIOになるという発想が出発点なのは間違いないが、情報システム部門をどう位置付けるかが次の課題になる。1つの解決の方向性は社内の情報システム部門を片腕に、外部のITコンサルタントをもう1つの片腕にして競わせるように仕向けていくことだろう。まさに社内と社外の混合コンペだ。IT戦略の策定プロセスに健全な緊張感が生まれ、より企業戦略にかなったIT提案が増加してくるようになれば成功である。
ここで気を付けるべきことは、外部のITコンサルタントの選定の仕方だ。ここにこれまで情報システム部門の右腕だったSI会社を単純に起用するのでは、これまでと大きな変化が望めない。1つの便法は従来の2番手だったSI会社をCEOが直接のブレーンとして使えるように持っていくというのが最も仕組みとして機能しそうである。
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| SIerにも転換が必要 |
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新しいITガバナンスに備えて、SI会社は営業手法をいますぐ変えていくことが必要なのだが、これだけだと、かなり早い段階で破綻してしまう可能性がある。そのことを理解するためのエピソードを紹介しよう。
あるサービス業のCOO(最高執行責任者)が、ITコンサルタントと大げんかをしたという話である。要は新しいITガバナンスを目指して独立系のITコンサルタント会社を入れたのだが、ちょっと油断するとすぐにいままでよりもより高価なシステムを提案し、導入しようとするというのだ。聞いてみればITコンサルタントといっても収益源はやはりSIということで、最終的にはシステム構築に落とさないと彼の仕事としては成立しないという内部事情が存在している。
この構造で一足先に破綻しているのが建築業界だ。バブルのころに発注のガバナンスを上げるために設計事務所をコンサルに起用し、施工を担当するゼネコンをマネジメントしていこうという分離発注が盛んに進められた。ところが、現在では発注コストを下げるためには設計・施工をゼネコンに丸投げした方が分離発注よりもまだ安いというのが定説になってしまった。ガバナンスよりも二重投資コストの発生のデメリットが大きかったことや、高スペックを提案しがちな設計事務所の体質に施主の側がへきえきしてしまったという結果になってしまった。業界のコスト構造を変えられなかったツケといえよう。
新しいITガバナンスが始まったきっかけは、ITコスト構造の見直しにある。ITコストの費用対効果をどう高めていくかという新しい競争が始まったのだ。結果としてコストを下げることが必要条件として求められるのであるから、収益を上げるためには効果を上げていくしかない。CEOすなわち新たなCIOとのパイプを太くしたうえで、経営の観点からシステムを語れるSI営業への脱皮が本当の意味で必要な時代がやって来る。
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第3回 新しいまるITガバナンスを目指して |
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| Profile |
鈴木
貴博(すずき たかひろ)経営戦略コンサルタント。鈴木貴博事務所代表。 世界的なコンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループで、ハイテク企業を対象とした戦略コンサルティングを10年以上にわたり経験。その後、インターネットの統合型コンサルティングを手がけるネットイヤーグループ株式会社のスタートアップに参画。同社を3年間で、年商10億円を超える企業に育てる。 2003年2月に独立。現在は大企業の成長戦略や新規事業戦略のコンサルティングを専門に行っている。 メールアドレス:suzuki@consultant.com |
ITガバナンス新時代 バックナンバー
- 第1回 SIerが悲鳴! 企業のIT投資がストップする理由
- 第2回 IT投資が停まる理由──CIOとIT組織の問題点
- 第3回 “新しいCIO”による新しいITガバナンス
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