Google CEO、その強さの秘密を語るKeyPerson's Interview(1)

» 2003年07月12日 12時00分 公開
[ジェフ・ルート, 佐々木 俊尚,@IT]

 卓越したテクノロジに支えられた検索エンジンにより、インターネットの世界を大きく変えようとしている企業――Googleは、現在のシリコンバレーにおける最もホットな企業のひとつだ。IT業界が不況に苦しむ中で、同社の存在感は以前にも増して高まりつつある。Googleがどの方向に進んでいくかというのは、検索業界のみならず、いまや多くのIT業界関係者の注目するところとなっている。

 そんな中で、ブロガーたちのコミュニティであるWebサイト「AlwaysOn」が、GoogleのCEOであるエリック・E・シュミット(Dr. Eric E. Schmidt)氏にインタビューを行い、4月下旬、その長大な記事をサイトに掲載した。

 AlywasOnは技術者や会社役員、起業家、研究者、投資家、政府職員などによって構成され、「グローバルなデジタルネットワークを構成するテクノロジは今後も成長し続けるとわれわれは信じている」という基本コンセプトを持つコミュニティだ。そしてAlwaysOnではこのコンセプトに基づき、インターネットのテクノロジに関わる起業や投資の機会を提供するとともに、新しいネットワークの世界がもたらすさまざまな局面について政治的、社会的議論を戦わせることを目的にしているという。

 今回、AlwaysOnの承諾を得て、シュミット氏のインタビューの抄訳を2回にわたって紹介する。インタビューでは、Googleの意思決定プロセスから収益モデルまで、これまであまり紹介されてこなかった同社の内部事情が詳細に紹介されている。またGoogleがどのような将来像とコンセプトのもとでさまざまなテクノロジやツールの開発を進めているのかについても、明快に語られている。「情報アクセスの拡張こそがIT不況脱出の方法」というシュミット氏の論理は、きわめて興味深いといえるだろう。(訳者)


ブログ作成ツール開発元「Pyra Labs」を買収した理由

――Googleはずいぶん変わった方法で運営されていると聞いたのですが。

シュミット氏 そうだね。戦略や新製品を展開する主導権を握っているのは、2人のGoogle創設者か、もしくはごく少数のメンバーで構成している技術チームだ。従来の企業のような決定プロセスは採用していない。おかげでGoogleはきわめてスピーディーに改革を進めることができるし、これがわが社の最大の強みになっている。

――最近Pyra Labsを買収しましたね。これも同じような決定プロセスで行ったのでしょうか。

Google 会長兼最高経営責任者 エリック E. シュミット博士

シュミット氏 Google創設者のひとりであるセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)は、インターネットの次世代の市場を担うのはどんなものかというのをずっとリサーチしていた。特に重視していたのは、どのようなツールが今後使われるようになり、それによってエンドユーザーの体験することがどう変わるかということ。それは同時に、Googleが注目し続けている分野でもある。そしてリサーチの結果、明白になったのは、Pyra Labsが今後のインターネットで大きな存在となっていくことだろうということだった。

 それでわたしたちは買収チームを編成し、彼らのところに行って単刀直入に聞いたわけだ。「わたしたちの買収を受ける気はないかい?」って。簡単なやり方だ。そして彼らはわたしたちの技術チームと会い、買収が成立した。われわれのコンセプトは、Webにアクセスしやすくし、より多くの情報をWebから得られるようにすることで、インターネットの世界もGoogleも、ともに多くの利益を得ることができるというものだ。今回の買収は、その理念と合致しているし、その理念をさらに進めるものだと思っている。

――でも実際にGoogleが手に入れたのは、ブログ(日記形式のサイト)のアプリケーションと、100万人の登録ユーザーのいるブログの検索エンジンでは?

シュミット氏 わたしたちが手に入れたのは、Pyra Labsの技術チームだよ。こうした小さなベンチャー企業を買収することで得られる資産は、スタッフの頭の中に入っている知識。われわれが一番関心を持っているのは、そこだ。

――ブログという分野はある種の臨界点を突破しており、それでGoogleも注目するようになったということでしょうか。

シュミット氏 「すばらしいチャンスが来ているのかどうか」と聞いてほしいね。どんな形であろうと、Web上でさまざまな情報が発信されるようになっていることに、わたしたちは大いに興味を抱いている。まあ素直に分析すれば、デジタルオーサリングのパワーがこれまでにないほど強化されてきているのにもかかわらず、それがどれほどパワフルなのかに多くの人がまだ気づいていない、という段階だろう。パソコンだけじゃなくて、デジタルカメラとか、そうした機器も含めての話だ。

 ブログのようなセルフパブリッシングは「ヒューマン・コミュニケーションの次の大きな潮流になる」とわたしは信じている。人々がじっくりと時間をかけて何かをWebに書いたとする。その内容は、その人にとってはとても大事なもので、そのことをわれわれは良く理解しているつもりだ。だからわれわれが彼らの情報にいかに関心を持っていて、その情報を評価づけ、インデックス化し、検索エンジンに取り込んでいるかということを理解してもらうのは、われわれにとって非常に重要な戦略なんだ。

インターネットはニッチ・メディア

――インターネットのセカンドステージについてお聞きしたいと思います。ファーストステージではインターネットは、人々に情報を伝達する片方向のメディアとして出現しました。しかしセカンドステージでは、ネットの双方向性の本当の意味に人々が気づくようになる……。

シュミット氏 MosaicとNetscapeが登場する以前のことを思い出してみてほしい。ほんの10年前まで、われわれの国の文化は均一的だった。皆が同じ話題を取り上げ、皆が同じことを話し、日々の暮らしの中で、自分と異なる意見を聞く機会はほとんどなかった。だって会社では同じような人たちと一緒に働き、皆で同じ本を読んで、おまけに目の前の仕事を片づけるのに忙しくてそれどころじゃなかったからね。

 そんなところにインターネットが登場してきた。いままで自分たちが理解していた世界とはまったく別の世界だ。衝撃的だった。ネットの登場によって初めて、世界観には無限のバリエーションがあるということに人々は気づいたわけだ。例えば「地球は平たい」と真面目に主張している「フラット・アース・ソサエティ」とか、世界にはいろんな主義主張を持った驚くほどさまざまな人たちがいる。

 当初はインターネットは人々の結びつきを強めると考えられていて、それがどのようにしてメディアのあり方を変えてしまうのかということが真面目に論じられていた。しかし、インターネットは実はもっと狭いターゲットに向けて、特定の情報を流すことが得意なメディアだ。

 例えば米国では、テレビはわずか3つの系列ネットワークによって支配されている。みんなそれを当たり前だと思っていて、同じ時間帯に同じ内容のニュースをみんなで見ることに何も疑問を感じていなかった。しかしニュースの情報源はどんどん細分化しており、雑誌や書籍は昔と比べてずっと多種多様になった。読者ターゲットが細分化していくことで、メディアは分散し、小規模化を続けているのだ。

 ではインターネットはどうか。いま言ったような大きな潮流が、さらに特化して起きているのがインターネット――特にGoogleでの現状なんだ。それはひょっとしたら、必ずしも良い方向ではないのかもしれない。しかし少なくとも、さまざまなコミュニティが独自の考え方とパワーを持ち合わせたブログを何百万も作りつつあるというのは推測できる。でもそうした何百万のブログがひとつの政治勢力を生み出そうとしているわけでもないし、宗教団体みたいにみんながひとつの生き方を求めているわけでもない。

 ブログ運営者たちの考え方はまちまちで、天地創造説の支持者は自分たちのブログを作っているし、進化論の支持者は別のブログを持っている。それぞれのコミュニティは、気の合う友人を見つけたり、一緒に運動してくれる仲間を見つけるなどの活動を行っている。そうしたコミュニティは何千も生まれている。

 10年前、わたしはインターネットによって人類学の新しい研究テーマが生まれ、既知の社会を研究し尽くしてきたこの分野でも再び新しい博士論文が書かれるようになるのではないかと考えた。実際、ネットの中では数千もの新しいコミュニティが生まれてきた。その状況と、Googleが情報をさまざまな形でネットユーザーにアクセスしてもらう手段を提供しようという戦略は、明確に合致している。

 もちろん、そうやって得られた情報の中には人々に受け入れられないような種類のものもあるだろう。でもさらにいえば、それはわれわれが知る以上に世界には多くの視点があるんだということを認識することでもあり、そして人々がセルフパブリッシングによって新たなパワーを得ることでもある。

――必ずしも良い方向じゃないとおっしゃいましたね。

シュミット氏 そうだね。世界には想像以上に邪悪なものがいるということをインターネットを通じて人々は気づき、驚愕した。でも邪悪の定義は、人によって異なる。ある人には邪悪でも、他の人には邪悪と感じられないこともある。

――それはアル・カイーダがサイバー国家を作っているようなことをおっしゃっているんでしょうか? 彼らは欧州などの多くの国に潜伏し、Webに秘密のメッセージを埋め込んで連絡を取っているといわれています。

シュミット氏 彼らがインターネットで活動しているという事実があるからといって、ネットのモデルそのものが否定されるべきではないと思う。

――数カ月前に中国との間で起きたトラブル(編集部注:2002年9月、「法律で禁止されているサイトが閲覧できる」として、中国政府がGoogleへのアクセスを規制した件)についてはどうでしょう?

シュミット氏 Googleのスタンスは、検索結果についてはフィルタリングしないというものだ。中国政府は当初、Googleへのアクセスを遮断したが、数週間後に復旧させた。わたしの推測だが、これは情報へのアクセスがいかに中国にとって重要だったかということを証明する話ではないだろうか。

 Googleの検索結果から得られる情報が中国政府にとってきわめて重要だったわけではなく、そうした情報にアクセスできるということ自体の価値がきわめて大きかったのだと思う。実際、そうしたネットの情報にアクセスできることで中国は急激な経済成長を成し遂げることができたわけだし、同国政府もテクノロジを重視している。

「PFP」という広告モデルで冬の時代を乗り越える

――Googleの収益モデルについて話してもらえませんか。

シュミット氏 収入は多方面にわたっている。まず第1に検索ベンダー、例えばYahoo!とかAOLに検索エンジンを供給している。そうしたサイトで検索すると、Googleの検索エンジンが使われる仕組みにだ。検索結果にGoogleのロゴが表示される場合もあるし、Googleのテクノロジを中に埋め込んでしまって外部には見せないようにしている場合もある。それでも全然オーケイだ。だって彼らは顧客だし、どうするかは彼らが決めることだからね。

――ほかには?

シュミット氏 広告からの収入もある。「AdWords」という名前をつけている検索エンジン連動型の広告だ。セルフサービスもあるけれど、営業部隊を使ったビジネスもしている。そしてそうした広告は、検索ではパートナー契約を結んでいないサイトにも提供しているケースがある。これがよく混乱のもとになっている。例えばAsk Jeevesは検索エンジンとしてはライバルだが、AdWordsではパートナーになってもらっている。この契約ではすばらしい収益が上がっているんだ。顧客が検索パートナーにも広告パートナーにもなっている場合もある。検索だけで契約している場合もあるし、広告だけの場合もあるというわけだ。

 さらに別の収益源もある。それはインターナル検索の分野だ。Cisco Systemsは、社内の情報処理にGoogleの検索を使っている。われわれは企業向けにGoogleの検索を提供するGoogle Search Applianceという機器も発売している。黄色のアプライアンスだ。

 そして最近、新しいテクノロジを使った新サービスを発表した。検索サイトだけでなく、一般のサイト上でも広告を表示するというコンテンツターゲット広告ビジネスだ。

――今後、どうやって増収を続けていくのでしょうか。

シュミット氏 ほとんどの契約は検索と広告の組み合わせになっているのだけれど、ここでは主として広告について話をさせてほしい。その方が概念的に説明しやすい。

 われわれの広告モデルはきわめて秀逸で、広告主にとっても価値が非常に大きい。それが証拠に、われわれはネット広告業界の冬の時代をうまく切り抜けることができているんだ。

 その理由について話そうか。それは、われわれが自分たちのシステムを計測可能な数字にして広告主に提示できているからだ。広告主はクリック数に応じて支払う。彼らの広告がもっとも注視している分野や製品について、金額に換算して支払う仕組みだ。ユーザーの検索と広告の間にはダイレクトなつながりがあるから、このPFP(Pay For Performance)というモデルは非常に有効といえるんだ。

 この広告型検索エンジンというビジネスモデルが全体でどれほどの市場規模になっているのかは分からない。だが全体の中で非常に大きな部分を占めつつあるのは間違いない。

――海外市場ではどうでしょう。

シュミット氏 Googleへの検索要求の半数以上は、米国以外からのものだ。海外市場の伸び率は、米国のそれを上回っている。なぜならインターネットの普及度が海外では米国以上に伸びているからだ。そしてわれわれが米国で確立したビジネスモデルが、グローバルでも十分受け入れられると思っている。

 例えばわれわれは、これまでPFPビジネスが存在していなかった日本でサービスを開始した。そしてスタートからわずか6カ月の間に、ビジネスを急成長させることに成功している。クレジットカードを使って簡単に申し込める明快で分かりやすいビジネスモデルが受け入れられたのだろう。われわれはいまのところ、西ヨーロッパと日本、オーストラリアをメインのターゲットとして考えている。これらの国が現在、インターネット市場の多くの部分を占めているからだ。

 素直に分析すれば、米国の収益モデルを海外の国に適用させれば、われわれの収益はどんどん増えていくはずだ。だってドイツの人口統計や社会行動、ビジネスが米国のそれと異なることはないはずだからね。

Profile

ジェフ・ルート(Jeff Root)

シカゴ出身。北米や中央アメリカのコスタリカなどでSEO(検索エンジン最適化)に携わる。日本には10年前から何度も行き来しており、現在はECジャパンのチーフSEOスペシャリスト。ニュージーランド在住

佐々木 俊尚(ささき としなお)

元毎日新聞社会部記者。殺人事件や社会問題、テロなどの取材経験を積んだ後、突然思い立ってITメディア業界に転身。コンピュータ雑誌編集者を経て2003年からフリージャーナリストとして活動中


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