第3回 Ruby on Rails“シンプル”モデリング技法

太田 哲也
株式会社Cuon

2008/12/8

Rubyを使った大規模エンタープライズ開発が始まっている。Ruby on Railsでの開発において、インフラやアプリケーションアーキテクチャをどのように構成すべきかを考える(編集部)

 われわれの会社(Cuon)で開発した患者さん・患者家族のためのコミュニティサイト「LifePalette(ライフパレット)」では、Ruby on Rails(RoR)が提供する少々特殊なモデリング技法を積極的に取り入れている。

 それは、メンテナンス性を確保しつつ、同時に実装コストを削減することを目標としたからである。

 今回は、第2回「rsyncを用いたコンテンツの分散」で紹介したImageクラスの実例の一部を切り出し、RoRならではのシンプルかつスピーディなモデリング技法を紹介する。

単一テーブル継承によるシンプルなテーブル定義

 Rubyはオブジェクト指向言語であるため、クラス間の継承関係を定義することが可能である。

 ActiveRecord(RoRのO/Rマッパー)では、単一テーブル継承(Single Table Inheritance)という手法を標準としており、例外はあるが単一テーブル継承での継承関係を表現することが可能だ。

 これらのモデルは、所有するメソッドは同一であるが、それぞれのプロパティが異なっている。例えば、画像ファイルの生成時のファイル格納場所やサイズ、縦横比率などだ。

 通常、ActiveRecordでは1モデル=1テーブルが原則であるため、これらのモデルを簡潔に表現しようとすると、上図のように4つのクラスが必要となる。その結果、必然的に4つのテーブルが必要となる。

 しかし、RoRでは表題にある単一テーブル継承という設計手法が取り入れられており、図のような継承関係を1テーブルで表現することが可能だ。実装方法は非常に簡単である。以下に記述する。

class Image < ActiveRecord::Base
end
class Image::ArticleImage < Image
end
class Image::BookImage < Image
end
class Image::DiaryImage < Image
end

カラム id type url ...
1 BookImage http://www.... ...

 定義することは1つだけ。通常の継承関係の定義に加え、typeというカラムをテーブル定義に追加することである(なお、上記のtypeカラムを定義せずにモデルの継承を行うと、アプリケーション自体が動作しなくなってしまうため、くれぐれも注意しておきたい)。

・RoRでモデルを継承させる場合は、必ずtypeカラムを定義しておくこと!

ポリモーフィック関連による集約された関連性

 今度は画像クラスと、それを所有する親クラスの関連性に注目する。

 LifePaletteでは画像を保有するクラスとして「日記」「闘病記」「ユーザープロフィール」というものが存在する(ほかにも多数の画像クラスが存在しているが、スペースの都合上、上記の3つを例とする)。

class Image < ActiveRecord::Base
end
class Image::ArticleImage < Image
  belongs_to :article
end
class Image::BookImage < Image
  belongs_to :book
end
class Image::UserImage < Image
  belongs_to :user
end

 コードを見なくても、クラス図をご覧になれば分かるとおり、なんだかスマートさに欠けている。もちろん、間違っているわけではないが、もう少しきれいにすることはできないだろうか。

 RoRにはそんなもどかしさを解決する機能が存在している。それが本項目で紹介するポリモーフィック関連である。名前だけを見ると、何やら難しそうなイメージを感じてしまうが、実際に使用してみると非常にシンプルなコードで実装が可能であることが分かる。

 まず、ソースコードを以下のように修正する。

class Image < ActiveRecord::Base
  belongs_to :parent,
  :          :polymorphic => true
end
class Image::ArticleImage < Image
end
class Image::BookImage < Image
end
class Image::UserImage < Image
end

カラム id type url parent_type parent_id ...
1 BookImage http://www.... User 1 ...

 以上のように関連性を記述・定義しておくだけで、ArticleImageクラスもBookImageクラスもスーパークラスであるImageクラスに定義されたparentという抽象的な関連に属することになる。

 これなら後から画像クラスが追加された場合でも、継承関係を記述するだけですでにparentという関連に属している状態となる。

 そしてまた、Imageクラスをスーパークラスとして持っているどのクラスからでも(例えば、DiaryImageやUserImage)、parentという関連名で所有側のクラスを参照することが可能だ(この場合、DiaryImageクラスのインスタンスからparent関連を参照するとDiaryクラスのインスタンスが自動的に取得される)。これにより、アプリケーションのコードをより簡潔に記述することが可能となった。

 LifePaletteでは、このポリモーフィック関連と前述の単一テーブル継承というRoRならではのモデリング技法の導入により、実装コストの削減および設計のシンプルさを実現し、メンテナンス性と拡張性の高さを両立することを可能とした。

 
1/2

Index
Ruby on Rails“シンプル”モデリング技法
Page1
単一テーブル継承によるシンプルなテーブル定義
ポリモーフィック関連による集約された関連性
  Page2
シンプル&スピーディの落とし穴に注意

RoRでCGMサイト構築虎の巻

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