データウェアハウス最前線(4)

アプライアンスを基盤にした「情報分析システム」

吉村 哲樹
2010/12/6

さまざまな業種・業態に合わせたシステム

 IBMのDWHシステムは、早くも多くの企業から注目を集めているという。例えば、現在数社の保険会社が、ISASを基盤にしたDWHシステムをテスト導入しているという。

 生命保険業界の営業スタイルは、他業界には見られないユニークなものだ。小売業や製造業のように、消費者の動向を「マス」としてとらえるのではなく、営業マンが顧客1人1人に張り付き、それぞれの人生設計に最適化した商品を個別に提案するという、独特のビジネスモデルを持っている。そのため、前述したWarehouse Packのメニューで言うところの「InfoSphere Warehouse Pack for Customer Insight」、すなわち顧客1人1人に対する深い分析と洞察が重要になるのだ。

 生命保険業界の顧客分析は、顧客1人1人の年齢や職業、家族構成といった属性情報を見るだけでは留まらない。ある顧客と別の顧客のそれぞれの属性情報の相関関係から新たな洞察を見いだすような、非常に高度な分析まで必要になる。

Microsoft
どのアプライアンスを選ぶかということは重要ではない。システム全体の価値こそが重要だと強調する森氏

 例えば、ある顧客の子どもが現在何歳で、いつ学校を卒業して社会人になり、その親が現在どのような保険契約を締結しているかが分かれば、その親の保険契約に家族特約を付加して子どもの保険をカバーできることも分かる。そうなれば、その子どもが社会人になったときに、競合他社がオファーする新規契約の保険商品よりもはるかに安い金額で、ほぼ同等の保障内容を備えた家族特約を提案できる。

 「現在、このような顧客分析をはじめようと考えている保険会社に、Industry FrameworkとWarehouse Pack、それぞれを使ったシステムを提案しているが、いずれにしても『どのアプライアンスを選ぶか?』ということは議論のテーマには上がらない。重要なのはシステム全体の価値であり、システムが妥当なものであれば、それを実現するための最善の手段としてISASを買っていただく、ということだ」(森氏)

 保険業界に限らず、さまざまな業界のニーズに特化した分析システムをパッケージとして展開していくという。

ネティーザの買収で明確になったISASのシステム志向

 IBMは2010年9月、DWHアプライアンスベンダであるネティーザを買収すると発表した。このことは、IBMのDWHシステム戦略において何を意味するのだろうか? 森氏は、ISASとネティーザの製品はIBMの製品ラインアップ上ではまったく競合しないと強調する。

 「ネティーザの製品は、特殊なハードウェアとソフトウェアを組み合わせてDWHとしての処理性能を追求した“データベースマシン”。一方のISASは、DB2を基盤にあくまでも汎用製品だけで構成したDWHシステム。同じ“DWHアプライアンス”という名前が付いていても、両者はまったく異なるものだ」

 ネティーザのアプライアンス製品は、DWHとしてのデータ処理能力の向上にひたすら特化した独自アーキテクチャになっている。そのため、汎用のデータベース製品を使ったときに必要となるチューニングやメンテナンスの作業が、ほぼ不要になる。専任のデータベース管理者がいないような環境、例えば研究部門や経営企画部門などでの利用するときは、これは大きなアドバンテージになる。森氏も、「このようなニーズに応える製品は、確かにこれまでIBMにはなかった」と話す。

 一方のISASはこれまで説明してきたように、DB2とIBM製の汎用サーバと汎用ストレージを組み合わせて、最大限の性能を発揮できるように設定を施したものだ。従って、ネティーザのアプライアンス製品とは異なり、日々のチューニングやメンテナンス作業はある程度必要になる。しかしIBMの汎用製品、特にメインフレーム技術を起源とするDB2の高度なワークロード管理技術は、大量ユーザーからの多種多様なワークロードの制御を必要とする環境においては、絶大な効果を発揮する。

 「そのような環境では、例えばあるユーザーが重いクエリを投げてきたとき、ほかのユーザーのオンライン処理が全部止まってしまうようでは困る。DWHに特化したアプライアンス製品では実際にそのようなことが起こり得るが、ISASではきめ細かいワークロード制御が可能なため、そのようなことは起こらない。大量のユーザーリクエストが集中したときの処理の多重化や、ワークロードの優先度制御などは、メインフレーム技術を起源とするISASの方が圧倒的に優れている。一方のネティーザの製品は、限られた少数のユーザーが、特定の分析用途でどんどん使うような用途に向いている」(森氏)

 現時点(2010年12月)ではまだ買収が完了したばかりであり、IBMがネティーザ製品でどのようなビジネスを展開していくのかまだ見えない部分が多いが、自社製品のラインアップにネティーザ製品が加わったことにより、少なくともISASのシステム志向という方向はさらに鮮明になったといえるだろう。

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Index
アプライアンスを基盤にした「情報分析システム」
Page 1
Smart Analytics Systemを基盤に分析システムを構築
「InfoSphere Warehouse Pack」を組み合わせる
→ Page 2
さまざまな業種・業態に合わせたシステム
ネティーザの買収で明確になったISASのシステム志向
【筆者プロフィール】
吉村 哲樹(よしむら てつき) 早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。 その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。



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