[DB Interview]
RFID、ECサイトに求められるデータベース性能とは? Page 2
@IT編集局
上島 康夫
2004/11/25
■RFID最新事情
── RFIDシステムへの注目度は日本でも高まっています。先行している米国での普及状況はどうでしょうか。
RFIDでの最大の誤解は、それが新しいテクノロジーであると思われていることです。RFIDは1940年代に登場しています。私自身は1996年にRFIDのプロジェクトとして、有料道路の料金徴収システム(編集部注:日本で現在進められているETCのようなシステム)に参加しました。米国小売り大手のウォルマートに代表される小売りやサプライチェーンに採用されるようになって、RFIDは急に多くの人の注目を集めるようになったのです。
現在、米国で重要な問題と考えられているのはRFIDの標準化で、これを推進している団体はEPCグローバル(Auto-ID Centerの後継団体)です。RFIDの普及は、標準化の作業がどれだけ素早く進行するかにかかっているでしょう。ただし、標準化の影響を強く受けるのは小売りとサプライチェーンに限られます。ほかの業界は、もっと早く導入が進むでしょう。ウォルマートがRFIDに多額の投資をしている結果、RFIDタグの単価はかなり下がっています。
■RFID時代の到来とデータベースの役割
── RFIDシステムが実用段階になると、データベースやアプリケーションに求められる性能は変わってきますか。
RFIDは金融システムと同様に、大量のデータ処理が必要になってきます。ウォルマートはRFIDの導入に積極的に取り組んでいますが、彼らが1日で取り扱うことになるRFIDのデータ量は、株取引システムの1年分に相当するといわれています。RFIDシステムで重要なのは、膨大なデータの中から意味のあるデータを吸い上げることです。なぜなら、RFIDでは非常に単純なデータが多く含まれるからです。そこから必要なデータを抽出し、ビジネスに必要な情報へ変換して企業のアプリケーションに提供していくプロセスが重要です。そこには、RFIDリーダーによってタグの位置情報を収集するだけでなく、ある時刻までに、あるタグを付けた商品が、あるべき場所(空港やトラックのターミナルなど)に到達しているか、もしそうでなければ何らかのイベントをトリガーして、企業アプリケーションに問題が発生したことを知らせる必要があるわけです。
これを実現するアーキテクチャとして求められるのは、1秒間に数万回にも及ぶRFIDからのイベント情報を処理するためのデータ・キャッシング、株式自動売買システムの例でお話ししたように、ストリーム型のイベントを処理するリアルタイム・データサービス、さらに企業アプリケーションと統合するためのエンタープライズ・サービス・バス(ESB)などが挙げられます。
最も考慮しなければならないのは、データ量が膨大であること、そしてリアルタイム性能が求められることでしょう。従来型の開発では、あまり意識してこなかった領域です。これまで技術者にとってのデータ処理とは、1日の終わり、あるいは月末にバッチ処理的に行うものだったはずです。ところがRFIDでは、すべての処理を瞬時(例えば2秒以内)に終わらせる必要があります。リアルタイム性能を引き出すシステム開発に移行するには、技術者は多くのことを学ぶ必要が出てくるでしょう。そして、そのニーズは今後さらに高まってくると思います。米国では当社をはじめ、リアルタイム・データ処理を提供するソフトウェア・ベンダは成長を遂げています。
── RFIDシステムでデータベースの役割はどのような変化を遂げるでしょうか。
われわれが提供している「ObjectStore RFID Accelerator」のアーキテクチャに即して説明しましょう。この製品は5つのパートから構成されています。
- RFIDコネクティビティ
リーダーによって読み取られたRFIDタグからの情報を受け入れるソフトウェア。標準インターフェイスは、EPCグローバルで策定中のALE(Application Level Event)を実装する。 - インラインの集約
入力された生のイベント情報を「パイプライン」と呼ばれるソフトウェアで、系統立ててまとめていく。大量のデータを高速で処理するソフトウェア。 - イベント・キャッシュ
リアルタイムのインメモリ・イベント・データベースで、ObjectStoreのキャッシング機構を使用する。 - イベント問い合わせ
複数のイベントから意味のある情報を取り出すアルゴリズムを実行する部分。複合イベント処理(CEP)を実行する。 - バス・アダプタ
取り出された意味のあるイベントを企業アプリケーションなどにメッセージとして伝達するソフトウェア。
通常、このシステムの外部に既存のRDBMS製品があります。静的なデータはRDBMSから取得して、ObjectCacheによって上記の「イベント・キャッシュ」に付加します。つまり、RFIDのようなリアルタイム・データサービスでは、静的なデータを格納するRDBMSと、リアルタイム・データをキャッシュとして保持しておけるデータベースという2つの製品が必要になる、というのがObjectStore社の主張です。
■「クエリ」から「イベント」への意識改革
── RFIDシステムに移行する際に、データベース・エンジニアはどのような変化を受け入れることになるでしょうか。
RFIDタグからは常に大量のデータが送られてきます。タグを付けられた商品を倉庫に置いておくだけで、常に大量のデータが飛んできているわけです。ところがビジネス・アプリケーションでは、ある商品が同じ所に置いてあるだけでは、意味のあるデータと認識する必要はないのです。ビジネス・アプリケーションが必要としているのは、この商品が倉庫から搬出された、あるいはある日時までに搬出されなかったというイベント情報だけです。
RFIDシステムでは単に大量の情報を処理するだけでなく、そこからビジネス・アプリケーションが必要としているイベントを選び出す処理が必要なのです。位置情報だけでは意味がなく、ビジネスプロセスの中で正しい位置や目的地、時間を守っていることを知るという意味で、イベントという考え方が重要になってくるのです。
さらに、イベントは通常のシステムで扱われる「クエリ」とは違うことも認識する必要があります。システムがクエリを発行して受け取る情報ではなく、イベントは情報の方からアプリケーションに入ってくるのです。いつ、どれだけのイベントがやってくるのか分からない、ちょうど人間の視覚や聴覚と同じようなものだと考えてよいでしょう。開発者はクエリからイベントへ意識を変える必要があるでしょう。(終)
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[DB Interview] RFID、ECサイトに求められるデータベース性能とは? |
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Page 1 ・データ・キャッシングとECサイト ・金融業界で進化するリアルタイム・データサービス |
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Page
2 ・RFID最新事情 ・RFID時代の到来とデータベースの役割 ・「クエリ」から「イベント」への意識改革 |
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