アーキテクチャ・ジャーナル

エンタープライズ IT 向けソフトウェア + サービスの消費に関する考慮事項

――「SaaS」と「ソフトウェア+サービス」の違いとは?――

Kevin Sangwell
2008/09/22
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本コーナーは、マイクロソフトが季刊で発行する無料の技術論文誌『アーキテクチャジャーナル』の中から主要な記事をInsider.NET編集部が選び、マイクロソフトの許可を得て転載したものです。基本的に元の文章をそのまま転載していますが、レイアウト上の理由などで文章の記述を変更している部分(例:「上の図」など)や、図の位置などを本サイトのデザインに合わせている部分が若干ありますので、ご了承ください。『アーキテクチャ ジャーナル』の詳細は「目次情報ページ」もしくはマイクロソフトのサイトをご覧ください。

記事の著作権はマイクロソフトに帰属する。
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ご注意:本記事は、雑誌の内容を改変することなく、そのまま転載したものです。このため用字用語の統一ルールなどは@ITのそれとは一致しません。あらかじめご了承ください。

概要

 今号の記事では、1 つ以上のインターネット ( クラウド) サービスを消費するクライアント ( デスクトップ、ブラウザ、およびデバイス) ベース アプリケーションとサーバー ベース アプリケーションに関する説明で、ソフトウェア + サービス(S+S) という用語が頻繁に使用されています。このモデルとSaaS (Software as a Service) には、いくつか共通の特徴がありますが、エンタープライズ IT に関しては大きく異なります。

 この記事では、S+S と SaaS をそれぞれ採用する際に生じる課題を比較します。それにより、明確に定義された外部サービスの消費が完成型サービスの消費より、エンタープライズにとって簡単であることを徐々に明らかにしていきます。

 今日、インターネット経由でサービスとして提供されるアプリケーション ( つまり SaaS) の大半は、消費者市場と中小企業市場をターゲットとしています。購読料と広告料のどちらを資金源とするかにかかわらず、通常は、ロング テール理論に基づくビジネス貨幣化モデルが使用されます。つまり、Chris Anderson 氏が説明するとおり、拡張性の高い配布チャネルを介して膨大な数の顧客に少量のアイテムを販売する理論です (「参考資料『The Long Tail: Why the Future of Business Is Selling Less of More』」を参照)。

 しかし、エンタープライズが抱えるニーズは、消費者や中小企業のニーズと大きく異なるので、ロング テール経済やサービス提供 ( および消費) をサポートする一部の前提は、エンタープライズ環境には該当しません。たとえば、消費者は、コンプライアンスやエンタープライズ アプリケーション統合 (EAI) について考慮する必要がなく、これらの問題は、中小企業にとっても大して重要ではありません。

 そのため、エンタープライズの観点からソフトウェア サービスを考えると、多くの疑問が生じます。データの所有者はだれか。サービス レベルアグリーメント (SLA) は何か。クラウド サービスにアクセスするために、内部の識別情報をファイアウォールの外部まで拡張することはできるか。規制要件はあるか、といった疑問です。

背景

 IT 予算は、その約 70% が既存システムの保守に使われ、約 30% が新規ソリューションに割り当てられています。ハードウェアとソフトウェアのコストが縮小する一方で、管理とサポートにかかるコストは増大しています。企業の IT に対する期待はかつてなく高まっています。その理由としては、ドットコム不況を経験した後、企業が自信を取り戻してきていること、ファイアウォールの内側でWeb 2.0 スタイルの機能に対するニーズが高まっていることなどが挙げられます。

 同時に、Nicholas Carr 氏による 2003 年のエッセー『IT Doesn't Matter (IT は重要ではない)』(「参考資料」を参照) でのフィードバックに示されているとおり、企業の IT 部門は認識の危機にさらされています。企業の経営陣は、インターネットですぐに利用できそうなメリットを実現するために、社内の IT プロジェクトが何か月もかけて多大な投資を行わなければならないことに対して苛立ちを感じることが少なくありません。インターネット ユーザーが体験している検索、コラボレーション、パブリッシュなどの機能は、多くの企業の社内で利用されている機能より格段に優れています。インターネット上でサービスとして利用できるアプリケーションの数は増加の一途をたどっており、代替的な IT ソーシング モデルを企業にもたらしています。

 この記事では、外部ソフトウェア サービスを既存の企業 IT インフラストラクチャおよび運用で消費することについて考察すると共に、企業全体で広範囲に導入される基幹業務アプリケーションを消費する際に伴う SaaS モデルの課題と S+S モデルの課題を比較していきます。この記事では、" ソフトウェア サービス" という用語を、SaaS モデルと S+S モデルの両方におけるサービスの意味で使用しています。その理由は、社内でホストされる従来型ソフトウェア ( 自社構築または外部から購入) と、インターネット経由で提供される完成型サービス ( つまり SaaS) をそれぞれ対極に置いた場合の連続体として、ソフトウェアの配布をとらえることができるためです。社内開発ソフトウェアにクラウド サービスを加えたハイブリッドは、この連続体の中央に位置します ( つまり S+S)。図 1 に、このソフトウェア配布の連続体を示します。

図 1 : ソフトウェア配布の連続体とソフトウェア サービスの分類体系

 この記事では、次の用語を使用します。

  • " 従来型ソフトウェア" とは、内部ユーザーのみがアクセスするインフラストラクチャにインストールされているアプリケーションを指します。
  • " ビルディング ブロック サービス" は、開発者がコンポジット アプリケーションを構築する際に消費できる低レベル機能を提供します。これらのサービスはクラウドに常駐します。
  • " アタッチ サービス" は、ビルディング ブロック サービスより高レベルの機能を提供します。アプリケーションは、アタッチ サービスを利用して機能を追加します。
  • " 完成型サービス" は、フル機能版アプリケーションに似たサービスで、SaaS モデルを使用してインターネット経由で配布されます。
  • S+S とは、アタッチ サービスを消費するアプリケーションまたはビルディング ブロック サービスに組み込まれたアプリケーションを使用することを指します。

 IT インフラストラクチャまたはアプリケーション ソーシング モデルを検討するにあたっては、ビジネス目標を理解しておくことが重要です。たとえば、アウトソーシングの促進要因は、コスト効率向上のニーズです。つまり、成熟した既存のアプリケーションを配布することに伴うコストとリスクを第三者に譲渡し、その対価として契約料を支払うという仕組みです。それとは対照的に、ソフトウェア サービスを導入すると、顧客管理の向上など (CRM の場合) のビジネス ニーズを満たすことができます。ビジネス マネージャの観点から見ると、SaaS は両方のメリットを備えていると言えます。つまり、IT リソースに対する追加または前払いの設備投資を一切行わずに、使用量に比例するコストを支払うだけ ( または無料) でビジネス メリットを実現できます。サービスがビジネス関連の問題をどれだけ効果的に解決できるかを判定するのに最も適しているのはビジネス部門ですが、IT 部門が話し合いに加わらないと、エンタープライズ IT に関連するさまざまな課題 ( ソフトウェア サービスの導入に伴う潜在的なコスト) の多くを見落とす結果になりかねません。


 INDEX
  [アーキテクチャ・ジャーナル]
  「SaaS」と「ソフトウェア+サービス」は何が違うのか?
  1.ソフトウェア+サービスの背景
    2.ソフトウェア サービスにおける課題(識別情報とアクセス管理)
    3.ソフトウェア サービスにおける課題(データ、運用)
    4.ソフトウェア サービスにおける課題(規制と法的義務)/まとめ

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