アーキテクチャ・ジャーナル

積極的で現実的なクラウドの利用法

Eugenio Pace、Gianpaolo Carraro
2009/08/03
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本コーナーは、マイクロソフトが季刊で発行する無料の技術論文誌『アーキテクチャジャーナル』の中から主要な記事をInsider.NET編集部が選び、マイクロソフトの許可を得て転載したものです。基本的に元の文章をそのまま転載していますが、レイアウト上の理由などで文章の記述を変更している部分(例:「上の図」など)や、図の位置などを本サイトのデザインに合わせている部分が若干ありますので、ご了承ください。『アーキテクチャ ジャーナル』の詳細は「目次情報ページ」もしくはマイクロソフトのサイトをご覧ください。

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概要

 SaaS(サービスとしてのソフトウェア)の機運が高まるにつれて、分散コンピューティングはクラウドベースのインフラストラクチャを中心とするモデルへと進化しています。最近では、IT 資産すべてをクラウドで展開する新手の企業も数多く登場しています。しかし、このような動きは妥当なのでしょうか。この点は、時間が経てば明らかになるでしょう。この記事では、クラウドを実用的な観点から、しかし積極的に検討したいと思います。特に、クラウドへ移行する IT 資産と、社内に残す IT 資産とを決めるのに役立つモデルを提案します。また、クラウドベース インフラストラクチャの例をいくつか紹介し、クラウドの使用によるアーキテクチャのトレードオフについて検討します。

序論

 経済的な観点から言えば、自動車の運転にメリットはほとんどありません。自動車は、距離あたりの移動コストが最も高い交通手段の 1 つだからです。しかし、他のどんな交通手段(公共の交通機関、鉄道、さらには飛行機)よりもコストがかかるのに、なぜ多くの人々は自動車を運転するのでしょうか。答えは、“自由度”にあります。自動車が持つステータス シンボルとしての役割はさておき、交通手段として自動車を選択することで、ドライバーはいつ出発するか、またどのルートをとるか(景色の良い道か高速道路か)を自由に決めることができます。そして、おそらく最も魅力的な点として、自宅のガレージから最終目的地まで、誰の手も借りることなく移動することができるのです。このことを鉄道の場合と比較してみましょう。鉄道では、スケジュールとルートが定められています。列車は駅でしか発着せず、車内では騒々しい乗客に悩まされる可能性があります。それに、ストライキが起こることもあります。しかし、言うまでもなく鉄道は安価であり、自分が運転する必要もありません。では、どちらが良いでしょうか。答えは、コストと自由度のどちらを優先するかによって変わります。

 この例をもう少し展開して、貨物列車について考えてみます。適切な状況(一般的には、長距離のばら積み貨物)であれば、鉄道輸送が他のどの輸送手段よりも経済的でエネルギー効率の良い手段です。たとえば、2001 年 6 月 21 日 には、682 両の鉱石車で編成された全長 7 キロ以上に及ぶ貨物列車が、西オーストラリア州のニューマンからポートヘッドランドまで運行されたことがありました。規模の経済性においてこれに勝る手段はないでしょう。しかし、この偉業は、運行区間と輸送品目という 2 つの自由度を犠牲にしたことで初めて可能になりました。つまり、この貨物列車は、ニューマン、ポートヘッドランドという限られた区間で、鉱石のみを運んだのです。もし、鉱石を別の都市にも輸送したり、鉱石以外のものを輸送するとしたら、別の輸送手段が必要になったはずです。

 貨物列車の運行区間と輸送品目を制限することで、この列車は 650 両以上の貨物を輸送できました。同じ列車が貨物に加えて乗客を輸送したり、オーストラリア西海岸のすべての都市を結ぼうとすれば、貨物の両数はおそらく 1 桁少なくなることでしょう。

 この鉄道の例から学べる最初の要点は、高度な最適化は特化によって実現できるという点です。もう一つの点は、規模の経済性はシステムの持つ自由度に反比例するという点です。自由度を制限する(システムを特化する)と、規模の経済性を実現(最適化)できるわけです。

  • 教訓 1: クラウドはオンプレミスよりも自由度が少ない特化されたシステムだが、非常に優れた規模の経済性を実現できる。

 もちろん、たとえ高い効率性を実現できても、たった 1 つの区間で貨物を運べるだけでは意味がありません。そこで、最適化レベルを少し犠牲にし、より迅速な輸送を行えるトラックなどが使用されることになります。これにより、少量の貨物をさらに多くの場所へ輸送できるようになります。

 世界中の郵便ネットワークに見られるように、配送ネットワークはハイブリッド モデルです。すなわち、規模の経済性が高い 2 点間輸送(2 大都市間の鉄道輸送など)、規模の経済性が中程度のトラック輸送(貨物駅から複数の地域センターへの配送)、規模の経済性が低いがきわめて柔軟性が高い輸送(遠隔地への配送も可能な、配送車、バイク、徒歩による配送)で構成されています。

  • 教訓 2: ハイブリッド戦略を採用することで、必要な場合に柔軟性と俊敏性を維持しながら、可能な限り規模の経済性を引き出すことができる。

 鉄道輸送から学べる最後の点は、効果的な積み替え方法についてです。積み替えは、積荷をある輸送形態から別の輸送形態へ移動する際に生じます。たとえば、貨物列車からトラックへ郵便物を移動する場合です。積み替えコストは、効率が悪いと高くなります。したがって、通常積み替えは、特殊な装置でスムーズに作業できる積み替え拠点で行われます。積み替えコストを抑えるもう一つの重要なアイデアは、標準輸送コンテナの使用です。すべての貨物を統一された輸送コンテナに積み込むことで、輸送手段の違いから生じる煩雑さを実質的になくし、さらにきめ細かいハイブリッド輸送ネットワークを構築できます。

  • 教訓 3: 積み替え拠点やコンテナ化などの手法により、積み替えコストを抑えることができ、全体的なシステムをさらにきめ細かく最適化できる

 積み替えコストが低いと、全体的な輸送システムの制限に基づいて決定を下す必要がなくなります。代わりに、他のサブシステムに与える影響について心配することなく、ローカルのサブシステムで最適な決定を下すことができます。これら 3 つの教訓の適用を次のように呼ぶことにします。

(a) 特化による最適化
(b) 必要な場合に柔軟性と俊敏性を維持しながら、可能な限り規模の経済性を高めるハイブリッド戦略
(c) ソフトウェア アーキテクチャにおける積み替えコストの削減 - 選択的な特化による局所的な最適化(Localized Optimization through Selective Specialization、LOtSS)

 この記事の残りの部分では、エンタープライズ シナリオ(Big Pharma)および ISV シナリオ(LitwareHR)に LOtSS を適用する方法について説明します。


 INDEX
  [アーキテクチャ・ジャーナル]
  積極的で現実的なクラウドの利用法
  1.序論
    2.エンタープライズにおけるLOtSS - Big Pharma
    3.LOtSSのLitwareHR への適用/UIおよびデータ層におけるクラウド・サービス
    4.クラウドにおける認証と承認/細分化、最適化、そして再構成

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