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特集
次世代コンピューティング概説

マイクロソフトが本気モードで進めるクラウド戦略

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
2008/10/22
2008/11/08 更新
2008/11/17 更新
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 今年に入ってから、「クラウド・コンピューティング」(Cloud Computing)という言葉があちこちで見られるようになった。例えば、3月に発表された「Google App Engine」はクラウド・コンピューティングとして大きな注目を集めた。マイクロソフトが2008年10月の最終週に米国ロサンゼルスで開催した開発者向けカンファレンスの「PDC(Professional Developer Conference) 2008」においても、最も多いセッション・テーマは「クラウド・サービス」であった。グーグルが先鞭(せんべん)をつけたクラウド・コンピューティングだが、マイクロソフトも本気でこれに取り組もうとしているのは間違いないようだ(なお、PDC 2008を凝縮したカンファレンス「Tech・Days Japan 2009」が1月27日〜28日にパシフィコ横浜で開催予定)。

 よく聞くようになった「クラウド・コンピューティング」だが、実体は何かと聞かれても、すっきりと答えられる人は少ない。クラウド・コンピューティングを構成する技術や、新たなビジネスの可能性などがそこここで議論されているものの、当の「クラウド・コンピューティング」が具体的に何を指すのか、文字通り雲(クラウド)をつかむような気分でいる読者も多いに違いない。そこで本稿では、前半で、誤解されやすい「クラウド・コンピューティング」について筆者なりにできるだけ分かりやすく解説したい。また後半で、「そのクラウド・コンピューティングの世界で、マイクロソフトが次に何を行おうとしているのか」を説明する。

 なお、クラウド・コンピューティングについては、明確な定義が存在するわけではないので、人あるいは企業によってとらえ方が若干異なる場合もある。以下の説明がすべての人に共通の認識であるとは限らないことに注意してほしい。

クラウド・コンピューティングを理解する

「クラウド」とは何か?

 もともと「クラウド」という言葉は、何らかのシステムの簡単な構成図や仕組みを描くときの絵に由来している(と、いわれている)。

 例えば企業イントラネット内の情報システムを構成するコンピュータ群を図示するとき、一般的には、それぞれのサーバ・コンピュータは物理的な存在としてコンピュータのアイコンなどで描かれる。しかしそのシステムが、インターネット上の何らかのサービスを利用している場合、そのインターネット・サービスは(抽象的な)「雲」の絵で表されることが多い。サービスの具体的なサーバ構成などは、外部からは不明なためだ。

 具体的な例を挙げてみよう。例えば、社員が購入したい本を申請できる社内システム(=イントラネット内の業務アプリケーション)があり、そのシステムが書籍一覧取得のためにAmazon Webサービスに接続していたとする。このシステム構成を図にする場合でも、Amazon Webサービスを提供するネットワーク内の物理的なサーバ・コンピュータ群をそれぞれアイコンで描くのは不可能だ。アマゾン社の社員でもなければ知り得ないし、知ったところでサーバ構成をこちらから変更できるわけでもないので知る必要もない。結果として、例えば次の図のように、便宜的に「雲の中のAmazon Webサービス」として表すしかないし、それで十分といえる。

システム構成図で描かれる「雲」

 「クラウド」とは、まさにこの「雲」のことであり、インターネット上のどこかに存在するコンピュータ資源(=サーバ・コンピュータ群が持つハードウェア、ソフトウェア、デバイス、データなどのリソース)のことなのである。

【コラム】クラウドの背後にあるサーバ・コンピュータ群

 先ほども述べたように、クラウドの背後(=インターネット・サービスを提供するネットワーク内)にある物理的なサーバ・コンピュータ群については、外部のサービスであるため通常はその構成を知ることができない。だから、本当に小規模なインターネット・サービスであれば、そのサービスがあるクラウド内部にはたった1台のサーバしか存在しないかもしれないし、すごく大規模なインターネット・サービスであれば、何十〜何百万台のサーバが並列接続された巨大なデータ・センターが背後にあるかもしれない。

「クラウド・コンピューティング」とは?

 クラウド・コンピューティングとは、(一般的には)すべてのプログラムをクラウドの中で動作させるシステム形態のことである。つまり、これまでは自社内に配置していた情報システムを、雲の中に作る(もしくは雲の中に移す)ということだ。これを目指すことが一般的な「クラウド・コンピューティング戦略」(以下、クラウド戦略)ということになる。

 例えば、先ほどのシステム構成図をクラウド・コンピューティング化すると、次のようになる。

クラウド・コンピューティング化された情報システムのシステム構成図

 先ほどの図ではイントラネット内にあった情報システムが、この図では完全にクラウドの中に移動している。

【コラム】クラウド・コンピューティングのためのデータ・センター

 クラウド・コンピューティングでたくさんの利用者に向けてインターネット・サービスを展開しようとすれば、やはりデータ・センターは必要となってくるだろう。データ・センターであれば、ネットワーク回線やサーバを集中管理できるので、運用コストを低減させやすい。最近の仮想化技術の進歩により、ハードウェアの差異を隠ぺいできるようになったことで、さらにデータ・センターの運用は容易になりつつある。このように、クラウド・コンピューティングにおいて、データ・センターを持つことはとても価値が大きいといえる。

 とはいっても、何十〜何百万台のサーバ・マシンや広帯域のネットワーク回線などの設備を整えるには、かなり大きな投資が必要となる。このため、クラウド・コンピューティングのためのデータ・センターを実際に構築できるのは、アマゾン、グーグル、マイクロソフトなどの巨額の資金を持つ企業のみだろうといわれている。実際にクラウド・コンピューティングの時代になれば、それら以外の多くの企業は、「(自前で用意するのではなく)これらの企業の巨大データ・センターの一部を使わせてもらい、その使用量に応じて料金を支払う形態」(いわゆる、ユーティリティ・コンピューティング)を採用することになるのかもしれない。

クラウド戦略で用いられる表現

 ここまで説明してきた内容は多くの人がある程度は理解していると思うが、クラウドを語るときにはさまざまな表現が用いられるためか、その用語やキーワードに惑わされて混乱してしまい、正しく情報が伝わっていないと感じることが筆者は少なくない。そこで、クラウド・コンピューティングで用いられる表現についていま一度整理しておきたい。

 以下の文章は、「従来型コンピューティングの世界」と「クラウド・コンピューティングの世界」をいい表したものだ。まずはこれを読んでみてほしい。

従来型コンピューティングの世界では、情報システム(もっと分かりやすくいえば、アプリケーションやプログラム)が「ソフトウェア」として「社内ネットワーク」上に配置されて運用される。なお、社内ネットワーク上への配置は、一般的に「オンプレミス」(=自社運用)と表現される。
一方、クラウド・コンピューティングの世界では、情報システムが「サービス」として「クラウド」上に「ホスティング」されて運用される。

 上記の説明の中で「 」でくくった語句が、クラウド・コンピューティングの説明でよく使われる用語だ。これらの用語を含めて、情報システムを見るときの観点ごとに各種用語を分類したのが次の表である。

観点 従来型コンピューティング クラウド・コンピューティング
プログラム ソフトウェア サービス
処理実行 パーソナル・コンピュータ(PC) ワールド・ワイド・コンピュータ(WWC)
インフラ 社内ネットワーク
(もしくはデスクトップ)
クラウド
運用形態 オンプレミス(自社運用) ホスティング(外部委託運用)
空間所在 こちら側(Here)<手近> あちら側(There)<遠隔>
観点ごとに分類したクラウド関係の用語
日本では、クラウド・コンピューティング環境を語るときには、「こちら側」「あちら側」という表現がよく用いられるので覚えておくとよいだろう。

ワールド・ワイド・コンピュータ(WWC)とは「インターネット(=ワールド・ワイド・ウェブ)全体がコンピュータで、PCマシンはその一部」という意味。この概念では、コンピュータはパーソナルなもの(=個人で所有するもの)ではなく、共有されるものである。
オンプレミス(On-premise)のプレミス(Premise)は「構内、敷地内」という意味。従って、オンプレミスなら「構内で」(=自社運用)、オフプレミスなら「構外で」(=社外運用)という意味になる。

 このようにさまざまな表現があるわけだが、いい回しに惑わされそうになったら、もう一度この表の内容を思い出してほしい。

 以下では、基本的に上の表の「プログラム」の観点で説明していくが、誤解を避けるため、社内ネットワークの中で実行されるプログラムを「オンプレミス・ソフトウェア」、クラウドの中で実行されるプログラムを「クラウド・サービス」と、それぞれ表現する。

【コラム】社内ネットワークに存在するクラウド環境?!

 クラウド・サービスとなるプログラムを社内ネットワークに配置した環境は「クラウド」と呼べるだろうか? 上の表に基づき判断すると、厳密には「クラウド」とは呼べない。クラウドと呼ぶには、そのプログラムをインターネット上の「雲」の中で「ホスティング」する必要があるからだ。

 しかし便宜的に、「社内にインターネットのクラウドがある」ととらえて「社内クラウド」と表現される場合もある。この場合、本稿でいうクラウドは「社外クラウド」と表現される。このように人によって「クラウド」の意味合いが異なる場合があるので注意してほしい。ちなみに筆者としては、「社内クラウド」という表現は、意思疎通するうえで混乱の元になりかねないので、使わないことをお勧めする。



 INDEX
  [特集] 次世代コンピューティング概説
  マイクロソフトが本気モードで進めるクラウド戦略
  1.クラウド・コンピューティングを理解する
    2.クラウド・サービスについて理解する
    3.マイクロソフトが進めるクラウド戦略とは?

更新履歴
【2008/11/08】PDC 2008に関する記述をアップデートいたしました。
【2008/11/17】Tech・Days 2009に関する記述を追記しました。

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