Insider's Eye

.NET Developers Conference 2001が開催
―― 米国で開催されたPDC 2001を凝縮したプログラマ向けカンファレンス ――


デジタルアドバンテージ
2001/12/20

 12月17日より3日間にわたり、台場のホテル・グランパシフィック・メリディアンにおいて「.NET Developers Conference 2001 / winter」が開催された(このカンファレンスのホームページ)。

 本カンファレンスは、サブタイトルに「PDC 2001 Highlight」と銘打たれているように、今年10月にロサンゼルスで行われた「Microsoft PDC 2001」から、「.NET My Services」に関連したセッションや、人気の高かったセッションを日本語で再構成したものだ(米国でのPDC 2001については、「Insider’s Eye: Microsoft PDC 2001レポート」)で報告している)。また一部のセッションでは、米国より開発担当者などを直接スピーカーとして招いていた。

 初日の17日には、キーノートと2つのジェネラル・セッションが行われた。2日目以降は2つの大きなホールで平行して、合計24のセッションが行われた。

 米国でのPDCに比べると規模も小さく期間も短いが(米PDCの参加者は約6800人)、それでも初日には、1000名近く(独自調査)の.NET開発者たちが集まった。米国のPDCであったような新しい発表は今回のカンファレンスではなかったが、後述している.NET My Services(開発コード名“HailStorm”)のデモなどは、早期導入を行っている日本の企業が開発したものであったりと、日本独自の内容も多く含まれていた。

.NET My Services時代の自動車販売システム

 初日のキーノートではまず、マイクロソフト代表取締役社長である阿多親市氏が.NETについてのコンセプトと現在の進捗状況についてスピーチを行った。

マイクロソフト代表取締役社長
阿多親市氏

 そこでは日本で新たに作成されたビデオ「.NET Car Serviceにおける新しい自動車販売のかたち」を題材として、「.NET My Services」が紹介された。ビデオの中では、「.NET Calendar」による試乗日の選択、「.NET Alerts」によるリアルタイムでの通知などが使用され、個別の企業が行っている保険やローンの見積もりは、各企業から提供されるWebサービスにより連携して行われる。また、通常の取引業者では納期が遅いホイールの購入を、UDDIを利用して適当な販売店を見つけ出すなど、複数のWebサービスを組み合わせて、1つの自動車販売システムが構築されているというものだ。もちろん、ユーザーは最初に.NET Passportによる認証を受けているため、すべてのサービスはシームレスに利用できる。

 顧客の要求を最大限に生かすことが目的と阿多社長は述べたが、考えてみればコンピュータを使っているならばどれもとっくに実現できていて不思議のないことばかりだ。ただ現実の世界ではセキュリティやプライバシーの問題が大きく立ちはだかる。.NET Passportや.NET My Servicesは、それらに真正面から取り組んだということかもしれない。

実用化に向けたWebサービスの機能拡張「GXA」

 続くジェネラル・セッションでは、米国のPDCでもジェネラル・セッションを行ったMicrosoft Developer and Platform Evangelism Division Senior Vice Presidentのエリック・ラダー(Eric Rudder)氏が登場した。

Microsoft Developer and Platform Evangelism Division Senior Vice President
エリック・ラダー氏

 ラダー氏は、米国のPDCで「Global XML Web Services Architecture(GXA)」の発表を担当した。今回のスピーチでも、GXAの重要性を説きながら、デモを交えて紹介を行った(GXAの詳細については、12月17日付けで日本語のドキュメント「Webサービスに関する仕様について」が公開されている)。デモでは、現行のSOAPメッセージと、GXAにより拡張されたメッセージの動作の違いを示した。その1つは、SOAPメッセージに含まれた画像を、従来のMIMEではなく、DIME(Direct Internet Message Encapsulation)でカプセル化することにより高速に転送できることを示すものだった。DIMEは最近Microsoftが標準化しようとしている仕様で、すでにドラフトはIETFに提出されている(このドラフトはGotDotNetの「XML Web Service Specifications」からダウンロード可能)。DIMEはWebサービスにおける映像や画像、音声などの転送を容易にするためのものだ。また、GXAで拡張されたルーティング機能を使用するデモとしては、ファイア・ウォール内から電灯を管理するサーバへオン/オフを制御するメッセージを送るというものが紹介された。メッセージはキューイングされるように記述することが可能で、途中でネットワーク・ケーブルが断線しても、再接続によって処理を正しく続行できる。これはGXAの信頼性の高さを示したものだ。

エリック・ラダー氏のスピーチのなかで行われたGXAのデモ
壇上にある丸い電灯をWebサービスで制御する。一時ネットワークが切断されても、GXAにより拡張されたメッセージでは、正しく処理を再開できる。デモを行っているのはMicrosoftのスーザン・ワレン氏。

 このようなデモを見せられると、現行のシンプルなWebサービスの仕様はあくまで基礎となるものであり、現実のユーザー・サービス・レベルでこれを利用するには、まだまだ考慮しなければならない点が多々あるのだと考えさせられる。GXAには、Microsoftが見据える将来のWebサービス時代を知るためのエキスが凝縮されているのかもしれない。

 なお本Insider.NETでは、ラダー氏に対するインタビューを行った。この内容については、後日公開する予定である。

ネット課金ビジネスの第一歩はサービス利用企業をターゲットに

マイクロソフト デベロッパー・マーケティング本部 デベロッパー製品部長 兼.NET マーケティング部長
安藤 浩二氏

 初日最後のジェネラル・セッションでは、マイクロソフト デベロッパー・マーケティング本部 デベロッパー製品部長 兼.NETマーケティング部長の安藤浩二氏が.NET My Servicesの詳細について述べた。

 この中では、.NET My Servicesの早期評価を行っている4つの企業が作成したデモが行われた(.NET My Servicesの早期評価に関するニュース・リリース)。ここでは、そのうちの1つ、株式会社ジェイアール東日本情報システムが開発した「個人向けポータル」について簡単にその流れをお伝えしよう。

 まずユーザーは、.NET Passportによりサイトへのサインインを行う。ユーザーの認証が完了すると、その情報を基に、ポータル・サイトはサインインしたユーザーの個人情報を.NET My Servicesのいくつかのサービスから取得しようとするが、これにはユーザーの「コンセント(同意)」が必要となる。

ユーザーの同意を確認するためのダイアログ
企業がアクセスしようとしている.NET My ServicesのWebサービス一覧がリスト・ボックスに一覧される。ユーザーはこれらをチェックすることにより、サイトに対してアクセス許可を与える。

 アクセスを許可されたポータル・サイトは、「.NET Profie」からユーザーの氏名を、「.NET Contacts」から友人のリストを、「.NET Inbox」からユーザー宛てに到着しているメールの情報をそれぞれ取得し、ページに表示する。

株式会社ジェイアール東日本情報システムによるデモ画面
.NET My Servicesから取得したユーザーの氏名やお友達リスト、メールなどが表示されている。

 デモのシナリオは、このユーザーが友人と一緒に実家に帰省するという想定である。友人とのスケジュール調整では「.NET Calendar」により各人のスケジュールを取得し、それらを並べて比較し、帰省日を設定する。帰省日が決まったら、次は新幹線のチケットを購入する。この作業は、チケット購入のための別のサイトで行うことになるが、.NET Passportのシングル・サインイン機能により、新たな認証作業は不要である。支払いは「.NET Wallet」に登録しているクレジット・カードを使うので、カード情報を入力する必要もない。

 このような.NET My Servicesを使用したポータル・サイトを構築するには、企業は年間1万ドル(1ドル128円計算で128万円)を一種の基本料金としてMicrosoftに支払い、さらにアプリケーション1つにつき1500ドル(同19万2000円)を支払う。安藤氏は.NET My Servicesのビジネス・モデルや、今後のスケジュールについても説明したが、これらは「Insider’s Eye: Microsoft PDC 2001レポート」ですでにお伝えしているものから変更はない。

 なお、参加者全員にはいくつかの小冊子とともに、以下のディスク・パッケージが配布された。

  • Visual Studio .NET ベータ2日本語版
  • 「Microsoft .NET My Services」SDK Technical Preview
  • 「Smart Device Extensions for Visual Studio .NET」Technical Preview

 .NET My Services SDKとSmart Device Extensionsを使用するためには、Visual Studio .NETのRC版が必要になるため、配布されたパッケージにはこれを納めたDVDも同梱されていた。ただし、日本語対応のRC版の作成は予定していないとのことで、このRC版は英語版となっている。日本語版に関する現時点での予定では、ベータ2の次は製品版が発表されるということになっている。End of Article

関連記事(Insider.NET内)
Microsoft PDC 2001レポート
 
関連リンク
.NET Developers Conference 2001 / winter
Webサービスに関する仕様について
XML Web Service Specifications
.NET My Servicesの早期評価に関するニュース・リリース
 
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