.NET戦略を多角的に進め、プラットフォームとしての究極の成功を目指す

米Microsoft
Senior Vice President
Developer and Platform Evangelism Division
エリック・ラダー(Eric D. Rudder)
2002/02/09


 次世代のネットワーク基盤としてXML Webサービスが順調に普及するかどうか。そのカギの1つは、プログラマがXML Webサービスの特徴を理解し、その真価を優れたユーザー・サービス・レベルに昇華させられるかどうかにかかっている。今回は、長きにわたり、ビル・ゲイツ氏の右腕として、主に技術的な側面からMicrosoftの戦略策定に参加し、先ごろ開発者サポート・セクションの責任者となったエリック・ラダー氏を迎え、Visual Studio .NETの正式版発表を目前に控えて、いよいよ正念場を迎えた開発者向け戦略についてお話を伺った。(聞き手:Insider.NET編集長 遠藤孝信)

―― 米国のコンピュータ関連メディアの報道によれば、あなたは長きにわたってビル・ゲイツ会長の右腕として活躍してきたとあります。具体的には、どのような仕事に携わっていたのでしょうか?

 ゲイツ氏の元で仕事をしていたのは3〜4年の間でしょうか。彼はMicrosoft社全体として進むべき方向性を決定する立場にありますが、これにはテクノロジの現在と未来に対する正しい認識が不可欠です。私は彼の元で、そのサポートをしていました。

―― 今回、あなたは新しく設立されたDeveloper and Platform Evangelism Divisionの担当副社長になられたわけですが、この部署における目標についてお教えください。

 ひと言でいえば、Microsoft .NETの本格的な普及に向けて、ソフトウェア開発者やITプロフェッショナルの方々に向けて、必要とされる情報やノウハウ、人的リソースなどを取りまとめて、最も効果的かつ効率的な支援を実施できるようにすることです。具体的には、Visual Studio、アプリケーション・サーバ、Windows .NET Server、エンタープライズ・ツールなどのソフトウェア製品群を担当するとともに、コンテンツ・デリバリー・ディストリビューション・グループ(CDDG:Contents Delivery Distribution Group)も統括します。CDDGは、マイクロソフト製品関連の出版物を手掛けるMicrosoft Press、ソフトウェア開発者支援サービスのMSDN(Microsoft Developer Network)、ITプロフェッショナル支援サービスのTechNet、WebサイトのMicrosoft.com、各種トレーニング・コースやコースウェアなどといったコンテンツ・サービスを手掛けるグループです。つまり、ソフトウェア開発者とITプロフェッショナルに向けたソフトウェア製品とコンテンツ・サービスの双方をカバーして人的リソースを一元化し、これらの両面からより充実したサービスを提供していきます。

 また私は同時に、プラットフォーム戦略グループにも属しており、テクニカル・エバンジェリストとしても活動しています。最新テクノロジに対応した製品やサービスをパートナーの方々ができるだけ早期に導入し、成功を収めていただくために、さまざまな角度からの支援活動を展開していきます。

―― Visual Studio .NET(以下VS .NET)英語版のスケジュールは予定どおりでしょうか?

 2月13日に米国サンフランシスコで開催されるVSLive!がVisual Studio .NETのラウンチ・イベントになります。マーケティング的にVS .NET製品版がお披露目されるのは、この日からということになります。ただし製品版VS .NETの準備ができ次第、MSDNの登録者向けダウンロード・サービス(MSDNサブスクライバー・ダウンロード)から入手可能になります(編集部注:このインタビュー後の1月17日より、VS .NET英語版のRTMバージョンのダウンロード・サービスが開始された)。

 日本国内では、3月8日に開催されるMicrosoft Developer Day 2002がVS .NET日本語版のラウンチ・イベントとして予定されています。

日本国内では、3月8日に開催されるMicrosoft Developer Day 2002がVS .NET日本語版のラウンチ・イベントとして予定されています。

―― 昨年末に開催されたPDC 2001で配布されたVS .NETのRC版を見ると、製品出荷と同時に試用版を提供する予定と記述されていました。これは記載どおりに実施されますか?

 試用版は期間限定であり、最終的には製品版にアップグレードしていただくことが前提になりますが、準備は進めています。ただし提供形式や提供時期については、現時点では未定です。

―― 昨年の12月14日に、コンピュータ関連技術の標準化を進めるECMAによって、C#言語とCLI(Common Language Infrastructure)が最終的に承認されたというニュースが発表されました。ECMAのような国際標準化団体で積極的にこれらを標準化した目的は何でしょうか?

 C#やCLIをより広く普及させたいという一語に尽きます。これまでMicrosoftは、商用利用を前提とした開発者支援を中心にしてきました。このため大学などの教育機関の方々から見ると、Microsoft製品とは少々距離がありました。このようなハードルを取り去って、ビジネスから研究・教育目的まで、幅広くC#やCLIを使っていただくために、標準化を積極的に進めました。ぜひとも、大学や研究機関にいらっしゃるプログラマの方々にも、C#言語を使ったプログラミングや、XML Webサービスなどの新しいテクノロジに触れていただきたいと思います。幅広い層のプログラマからの声に耳を傾けること、そしてそれらの声を私たちの製品やサービスにできるだけ反映させること、これが最も重要なことだと認識しています。

ECMAにおけるC#やCLIの標準化の目的は、これらをより広く普及させたいという一語に尽きます

―― 公開された標準仕様に基づいて、C#やCLIをUNIX環境に実装するというmonoプロジェクトというものがあります。このような実装アプローチはUNIX環境では一般的ですが、Microsoft製品についてはこれが初めてではないかと思います。こうした活動は、Microsoftとしては歓迎されるものでしょうか?

 いま述べたとおり、より多くのプログラマに.NETを体験してもらい、フィードバックを得ることが最も重要です。標準化を進めれば、当然ながら.NETというテクノロジをMicrosoft以外の人たちが実装できるようになります。これが.NETの普及に役立つのであれば、まったく問題はないと考えています(monoプロジェクトのホームページ)。

―― あなたは、Global XML Webサービスのエキスパートの1人だと聞きました。XML Webサービスの理解も進まぬうちに、新しいGlobal XML Webサービスが発表され、戸惑っているプログラマも多いのではないかと思います。このGlobal XML Webサービスとは何を目的とするものでしょうか? 簡単に説明をお願いします。

 XML Webサービスは、非常に素晴らしい技術であり、すでに多方面で実装が進みつつあります。しかしXML Webサービスのレベルでは、大まかな技術ソリューションの方向性を決定することは十分可能ですが、現実のシステムを実装するという意味では、柔軟性が高すぎます。実際に実装が進められているプロジェクトを見ると、セキュリティの確保やライセンス管理などの実装方法がまちまちで、さまざまなアイデアが違った形でXML Webサービス構築に使われていることが分かりました。実装ごとにユニークな部分が存在するのは当然として、本来であれば共通化して、コーディングにかかる負担を軽減すべき部分に必要以上の開発コストがかかっています。

 これに対し、XML Webサービスのセキュリティ確保やルーティング、ファイアウォールの利用など、多くの実装で不可欠となる要素については共通のインフラを構築し、開発者の労力を軽減すると同時に、異なる実装間での相互運用性を向上させるために考案されたのがGlobal XML Webサービスです。これにより開発者は、本来のビジネス・バリューを高めることにより集中できるようになります(Webサービスの仕様をまとめたマイクロソフトのページ)。

多くの実装で不可欠となる共通のインフラを構築し、開発者の労力を軽減すると同時に、相互運用性を向上させるために考案されたのがGlobal XML Webサービスです。

―― それでは、Global XML Webサービスは、下位プロトコルとしてはXML Webサービスを使いながら、上位のアプリケーション・レベルの仕様を規定するものと考えてよいでしょうか?

 XML Webサービスはまだ生まれたばかりのテクノロジです。いま述べたセキュリティやライセンス管理といった共通データ・インフラばかりでなく、スケール・アウト・システムへの対応など、システム・オペレーション・レベルのインフラにも柔軟に対応できなければなりません。この領域では、例えばルーティングを動的に構成できるWS-Referral(referral:「差し向ける」の意味)などのGlobal XML Webサービスの技術が重要なカギを握ることになるでしょう。

 このように、さまざまな面でまだ未熟なXML Webサービスについて、それが実際のシステムにおいてどのように使われるのかを学び、その知識をXML Webサービスの改善に役立てるフィードバック・システムを構築したいと思っています。これを達成するために、XML Webサービスの延長線上にあるのがGlobal XML Webサービスだといってよいでしょう。

―― 具体的にいえば、XML Webサービスをベースとするアプリケーションの実装モデルだと考えればよいでしょうか?

 もう少し厳密に表現すれば、より優れた相互運用性と柔軟性を備えたアプリケーションの集合体を提供可能にするためのデザイン・パターンだと考えていただければよいと思います。XML Webサービスでは、SOAPというプリミティブなプロトコルにさえ準拠していれば、どのようなタグを使おうと自由です。「共通性の高いこのオペレーションではこのタグを使いましょう」と決めて、相互運用性などを高めるわけです。

―― 相互運用性という言葉が出ましたが、Microsoft以外でGlobal XML Webサービスに賛同しているベンダにはどのようなところがあるのでしょうか?

 非常に多くのパートナー企業が協調してGlobal XML Webサービスを開発しています。まずIBMとは、SOAPの標準化を協調して実施したことに続き、Global XML Webサービスにおいて、サーバ上で利用可能なWebサービスの検出を可能にするWS-Inspectionの共同開発を進めると発表しました。またCISCOは、XML Webサービスに対する圧縮技術の応用面で協調しています。ライセンス管理については、ContentGuardやVeriSignなどのセキュリティ分野の専門企業と協調しています。

 これらの専門企業のノウハウや声を反映しながら、Global XML Webサービスのプロトコルを洗練させていきたいと思っています。

 

 INDEX
  [Keyman Interview]
  .NET戦略を多角的に進め、プラットフォームとしての究極の成功を目指す(1/2)
    .NET戦略を多角的に進め、プラットフォームとしての究極の成功を目指す(2/2)
 


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