速度がシステム・デザインを変える

株式会社ピーデー
川俣 晶
2002/09/19


我が家にも光ファイバが来た

 幹線レベルではかなり使われていると言いながら、さっぱり現物が我が家に来るけはいもなかった光ファイバが、ようやく本当にわが家にもやって来た。

 これまで、幹線ならともかく、各家庭に光ファイバを引き込むのは難しい、あるいは無理だとする主張も聞かれた。光ファイバは曲げに弱く、銅線のように自由に曲げられないというのだ。これに対して、銅線でも高速な通信ができるという主張がADSLなどの技術を担う人々から聞こえていた。銅線は工事も簡単だし、そもそもすでに電話のために敷設されている。それを使えば安上がりに通信できることになる。

 通信媒体(ケーブル類)の素人である筆者は、このような意見を聞くことで、何となく光ファイバは各家庭に引き込むのには適さず、最終的にxDSLを使う方が実用的かと思い込んでいた。だから、実際にNTTのBフレッツのサービスエリアに我が家が入っても、すぐに申し込まずに静観していたわけだが、徐々に普及を始めているのを見ると自分でも体験してみる必要を感じた。そこで、Bフレッツの中でも100Mbpsで最も安価な「ニューファミリー」というサービスを自宅で利用してみることにした。もちろん、やじ馬的に新しいものを体験することが目的である。光ファイバを自宅に引き込むとき、どんな大変な工事になるか。そして、100Mbpsといいながら、実際にはどの程度の性能が出るのか。そこが知りたかったのである。

銅線のように気軽に引き回される光ファイバ

 筆者が驚いたのは、部屋の中に引き込まれた光ファイバが、すでに引き込み済みの銅線に沿って、平行して張られたことである。光ファイバは銅線よりも曲げに弱かったのではないのか。工事の人に聞いてみると「慣れれば、どこまで曲げて良いか分かる」のだというが、相当きつい曲げ方をしていた。室内に設置するインターフェイス・ボックスに接続する作業にちょっと時間が掛かったが、難しい工事という印象は受けなかった。光ファイバは扱いが難しく、各家庭に引くのは現実的ではないという意見を耳にしていた筆者には、実に拍子抜けであった。

 部屋に取り付けられたインターフェイス・ボックスには、直接100BASE-TXの口が出ていたので、ここから先は、慣れ親しんだ100BASE-TXのネットワークの世界である。取りあえず、Windows 2000 Professionalの入ったLet's note CF-B5Fを接続してみることにした。NTTより送られてきたPPPoEドライバをインストールし、普通のカテゴリ5ケーブルで100BASE-TXコネクタ間を接続すると、すぐに通信が可能になった。Bフレッツのテスト・サイトに接続して速度を調べると、約35Mbpsという数字が出た。これは一般のインターネットを経由しない場合の数値である。

 さらに、筆者はNATルータとして実効スループット88MbpsをうたうメルコのBLR3-TX4を接続した。あまりの安さに本当に稼働するかどうか半ば疑いながら接続したが、いまのところ問題なく稼働している。そして、たまたまIDを持っていた@niftyにBフレッツ利用手続きを行った。@nifty経由でインターネットに接続してから、実際に、インターネット上でスピード・テストを行うサイトに接続してみると、10〜35Mbpsという結果が得られた。35Mbpsというのは、深夜にふと目が覚めたときに試した際の数値で、昼間はここまで出ない。なお、特別な高速化のためのチューニングなどは行っていないので、もしかしたら、より高速化の余地があるかもしれない。

 つまり、この体験から、家庭に引き込む工事はそれほど難しいわけではなく、通信速度も10Mbps以上出ることが分かった。100BASE-TXのLANでも、決して100Mbpsが発揮できるわけではなく、さらに多くの利用者で帯域を分け合っていることを考えれば、実測で10Mbps以上出れば、十分にLAN並の速度とみて良いと思う。

システム・デザインが変わる可能性

 筆者は、光ファイバと銅線のどちらが良いかを論じる立場ではないが、これほど高速な回線が増えると、筆者にも影響無しとはいえない。もし、LAN並の速度が、こんなに気軽に家庭に引けてしまうとすれば、明らかにシステム・デザインの前提が変わってしまうからだ。もちろん、いまはまだ光ファイバ利用者は少数派かもしれないが、もし、それが多数派になる時代が来たらどうなるだろう。電波を利用する通信は別として、据え置き型のPCはほとんど光ファイバ経由でインターネット接続されるようになり、バックボーンもそれに見合うだけ強化されるとすれば、LAN感覚で遠隔地のサーバにアクセスできることになってしまう。

 例えば現在は、圧縮率の高いFlashのようなコンテンツ作成フォーマットに人気があるが、LAN並の転送速度がいつでも気軽に発揮できる時代になれば、もっと重くリッチなフォーマットに置き換わるかもしれない。また、遠隔地に分散した分散システムも、より現実的に稼働できるようになるだろう。分散システムを実現する場合、WebサービスSOAPのような比較的「重い」プロトコルでも、ネットワークに大きな負荷を掛けることなく、大量に実行できるようになるかもしれない。また、XMLは無駄が多く効率が悪いという意見も無意味になるかもしれない。帯域に余裕があれば、無駄が多いデメリットよりも、分かりやすくメンテナンスしやすいメリットの方が重要になってくるだろう。

 ビジネス用の閉じたシステムでも、影響はあるだろう。例えば、VPNで自宅のPCと会社のサーバを接続するとき、従来はいろいろと運用を工夫する必要があった。例えば、大きなファイルを開くと転送に時間が掛かるので、通信回線は使わずCD-Rなどの媒体で持ち帰る、といった工夫だ。しかし、サーバ側も自宅側もLAN並の速度の回線になれば、何も悩む必要はなく、VPN回線を接続したら、自宅にいても会社内にいるときと同じようにファイルを扱えるかもしれない。このケースは、現在のBフレッツが上下対称であることにも注意を払う価値がある。ADSLは確かに下りはそこそこの数字が出ているのだが、上りはさほど速くない。つまり、自宅から会社のサーバにファイルを保存するときには、とても長い時間待たされる可能性がある。下りだけでなく、上りも同程度の高速化するには、ゆとりのある光ファイバを用いるのが早道ではないだろうか?

 ネットワークが速くなることは、より多くのデータを素早く送れるというだけでなく、小さなデータも素早く送れるメリットがある。例えば、ネットワーク・アプリケーションがRPC(Remote Procedure Call:プログラムの遠隔呼び出し)を行うとき、扱うデータ量が小さくても、RPCをより短い時間で終了できるというメリットが出てくる。すると、RPCを行う回数を増やしても処理時間を増やさなくて済むことになる。時間節約のために1回のRPCで多くの処理を行うような最適化を行っているなら、そのような最適化が不要になる可能性もあり得るだろう。そうなれば、より分かりやすいシステム設計でシステムを構築できるかもしれない。

 以上の話は、いまの段階では、単なる感想に過ぎず、技術的な裏付けがある議論というレベルではない。筆者の専門外である分野の説明には間違いがあるかもしれない。しかし、筆者の自宅に引き込まれたBフレッツの回線は、実在して稼働しているものである。これが幅広く普及したら、いままでとは違う何かが実現できるのではないかという気がする。そして、実際に何が実現されるかは、利用者の空想力と工夫次第といえるのではないだろうか?End of Article


川俣 晶(かわまた あきら)
 株式会社ピーデー代表取締役、日本XMLユーザー・グループ代表、日本規格協会 次世代コンテンツの標準化に関する調査研究委員会 委員、日本規格協会XML関連標準化調査研究委員会 委員。1964年東京生まれ。東京農工大化学工学科卒。学生時代はENIXと契約して、ドラゴンクエスト2のMSXへの移植などの仕事を行う。卒業後はマイクロソフト株式会社に入社、Microsoft Windows 2.1〜3.0の日本語化に従事。退職後に株式会社ピーデーの代表取締役に就任し、ソフトウェア開発業を始めるとともに、パソコン雑誌などに技術解説などを執筆。Windows NT、Linux、FreeBSD、Java、XML、C#などの先進性をいち早く見抜き、率先して取り組んできている。代表的な著書は『パソコンにおける日本語処理/文字コードハンドブック』(技術評論社)。最近の代表作ソフトは、携帯用ゲーム機WonderSwanの一般向け開発キットであるWonderWitch用のプログラム言語『ワンべぇ』(小型BASICインタプリタ)。

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