特集

ファットからスマートへ進化する企業システムのクライアント

デジタルアドバンテージ
2004/03/31
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4. マルチ・デバイス、オフライン対応

 マイクロソフトのスマート・クライアントは、他社のリッチ・クライアント・ツールとは異なる独自の要素が含まれている。それがマルチ・デバイスとオフラインの対応である。スマート・クライアントでは、「パソコン(Windowsアプリケーション、Webアプリケーション)/タブレットPC/Pocket PC/スマート・フォンなどが、ネットワークに接続されていようといまいと、『いつでも、どこでも』同じようにアプリケーションを実行できる環境」を目指す。これらの機能の実装は必須ではないが、ベース・プラットフォームである.NET Frameworkと開発環境のVS.NETはこれらを強力に支援しており、わずかな工数でアプリケーションにこれらの機能を実装できるようにしている。

「どこでも」を実現する「マルチ・デバイス対応」

 スマート・クライアントのマルチ・デバイス対応とは、基本的に同じ機能を持つクライアント・アプリケーションを、各種デバイス(パソコン/タブレットPC/Pocket PC/スマート・フォンなど)ごとに作成することである。もともと.NET Frameworkテクノロジがマルチ・デバイス向けのベース・プラットフォームを提供し、またVisual Studio .NETもマルチ・デバイス対応アプリケーションを開発するための環境を提供しているので、少ない工数で各種デバイスに対応したプログラムを開発できる。

 スマート・クライアントにおけるクライアント・アプリケーションには以下のようなものがある(カッコ内は開発に必要な環境)。

  • Windowsアプリケーション(Visual Studio .NET)

  • タブレットPC対応アプリケーション(Visual Studio .NET+Tablet PC Platform SDK)

  • モバイル・デバイス・アプリケーション(Visual Studio .NET)

 Pocket PCやスマート・フォン向けのアプリケーションは、このうちのモバイル・デバイス・アプリケーションとして作成できる。モバイル・デバイス・アプリケーションの実行環境は.NET Frameworkではなく、.NET Compact Frameworkである。

 このようなマルチ・デバイス対応は、社外などに出てデスクトップ・パソコンが利用できないときに威力を発揮する。例えば、社内で参照していた顧客情報を社外でも同じように参照したい場合、社内ではデスクトップ・パソコンでWindowsアプリケーションを利用して顧客情報を参照し、社外ではPocket PC(PDA)でモバイル・デバイス・アプリケーションを利用して顧客情報を参照するといったシナリオが考えられる。

「いつでも」を実現する「オフライン作業のサポート」

 スマート・クライアントにおけるオフライン作業のサポートとは、アプリケーションがサーバに接続できない(オフライン状態の)場合でも、アプリケーションを実行できるようにすることである。データの入力や表示をオフラインでも可能にしておき、オンラインになった段階で入力されたデータをサーバと同期したり、表示するデータを最新のものに更新したりする。この機能は、ネットワークへ接続しないと何も実行できないWebシステムと決定的に違うポイントである。

 このようなオフライン作業のサポートは、出張などでまったくインターネットにアクセスできないときに、クライアント・ローカルにキャッシュしておいた情報を参照したり、オフラインのままとりあえずデータを入力しておいて、サーバにアクセス可能になった段階でサーバ側に反映させる(同期する)ような場合に役立つ。そのほかにも、何らかの障害でサーバが停止してしまった場合にも作業を中断する必要がないので、生産性を落とさずに済むようになる。

5. スマート・クライアント時代はやってくるのか?

 スマート・クライアントは、マイクロソフト版の「リッチ・クライアント」戦略であることがお分かりいただけただろう。この中でマイクロソフトは、C/SシステムやWebシステムの欠点を克服し、マルチ・デバイスやオフライン利用などの新機能も組み合わせて、情報システム開発に新たな選択肢を追加しようとしている。ただの太った(fat)クライアントではなく、貧弱なやせ(thin)のクライアントでもない、「スマートなクライアント」という名前がその狙いをよく表している。

 現実問題としては、すでに多数開発され、広く普及しているVisual Basic 6.0ベースのC/Sシステムをいかにスムーズに次世代環境に移行させるか、それらの構築に長けた開発者のスキルやノウハウを無駄にすることなくいかに生かすかといった使命をスマート・クライアントは担っている。マイクロソフトが築いてきた大きな財産であるこれらを次世代に生かせるかどうかは、同社の今後の情報システム戦略に大きな影響を及ぼすことになるだろう。End of Article

 

 INDEX
  [特集]ファットからスマートへ進化する企業システムのクライアント
     1.従来型システムの限界とリッチ・クライアントの登場
     2.リッチ・クライアントとスマート・クライアントの関係
     3.スマート・クライアントの特長と利便性
   4.マルチ・デバイス、オフライン対応
 


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