連載:VB研公開ゼミ議事録

第8回 業務アプリケーションに最適なUI/UXを考える

デジタルアドバンテージ 遠藤 孝信
2009/01/23
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 本「VB研」のオフライン・セミナーである「VB研公開ゼミ」だが、その第8回が昨年末、東京・千代田区のベルサール九段にて行われた。本稿は、その概要と、ゼミのメイン・イベントであるパネル・ディスカッションの内容を伝えるものである。

 今回の公開ゼミのテーマは「次世代業務アプリはどうなる?」。WPF(Windows Presentation Foundation)やSilverlight 2(以下、単に「Silverlight」と記述)などの最新技術の登場で、現在の業務アプリケーションは今後どのように変わっていくのか、変わっていくべきなのか。ユーザー・インターフェイス(UI)についての最新技術を学びつつ、ユーザー・エクスペリエンス(UX)の向上について考え、業務アプリケーションの将来の姿を議論するのが今回の目的である。

 開催は土曜日の午後であったが、会場には定員をはるかに超えるたくさんの方にご参加いただいた。その多くはもちろん、日ごろからVB(Visual Basic 2005やVisual Basic 2008)あるいはVB6(Visual Basic 6.0)で業務アプリケーション開発を行っている開発者だ。

 ゼミはいつものように基調講演からスタート。今回はマイクロソフトのエバンジェリストである高橋忍氏を招いて、「VB業務アプリのUI/UXはどうなればよくなるか。次世代業務アプリケーションにおける効果的なユーザー・エクスペリエンスの適用」というタイトルで、最新のUIテクノロジについて、デモや動画などを交えながら解説していただき、次世代業務アプリケーションの可能性について語っていただいた。その軽快で分かりやすいプレゼンはTechEdなどでもおなじみだ。


基調講演の様子

 そしてその後、以下のメンバーでパネル・ディスカッションが行われた。

パネリスト 日本デジタルオフィス株式会社 代表取締役
?田 潔 氏

マイクロソフト株式会社 デベロッパー&プラットフォーム統括本部
カスタマーテクノロジー推進部 アーキテクチャー エバンジェリスト

高橋 忍 氏

グレープシティ株式会社 ツール事業部
テクニカルエバンジェリスト

八巻 雄哉 氏
モデレータ 株式会社デジタルアドバンテージ
@IT Windows Server Insiderフォーラム編集長

小川 誉久

 「業務アプリケーションに最適なUI/UXを考える」というのが今回のテーマである。以下は、約2時間半にわたるパネル・ディスカッションの内容をまとめたものだ。なお、実際には各パネラーによるいくつものデモを挟みながらディスカッションは進行したが、それらのデモについては割愛させていただいた(以下、敬称略)。

パネル・ディスカッション:
■業務アプリケーションに最適なUI/UXを考える

【小川】このパネル・ディスカッションでは、先ほど基調講演をしていただいたマイクロソフトの高橋さんに加え、すでに何度かご参加いただいていますが、グレープシティのエバンジェリストである八巻さんにも参加していただきます。ご存じのように、グレープシティさんでは主に業務アプリケーション用のコンポーネントを開発、販売されていますが、現在WPFやSilverlight用のものを研究開発中で、一部の製品については、すでにWPFに対応されているとのことです。

 そしてもうひとかた、日本デジタルオフィス代表取締役である濱田さんにもご参加いただきます。日本デジタルオフィスさんは現在、「SilverlightBOOK」というSilverlightの技術を使ったサービスを展開されています。これは、PDFデータをアップロードすると、パラパラとめくりながら見られる高機能な電子カタログを、Web上で簡単かつ無料で作成できるサービスだそうです。濱田さんご自身はプログラミングを離れられてもう長いということですが、今回はSilverlightアプリケーション開発を実際に体験/指揮された立場として、お話をちょうだいしたいと思います。

●かっこいいUIは高く売れる!?

【小川】さて、まず私が一番気になっているのは、見栄えのよい業務アプリケーションはもうかるのかという点です。そういうアプリケーションを作るのはよいのですが、結局、システムの売り値が変わらないのであれば、手間がかかったり苦労したりするだけ、得にはなりませんよね。そのあたりはどうなんでしょうか。実際にもうかるんですか?


日本デジタルオフィス株式会社
?田 潔 氏

【濱田】それが実はもうかるんですよ。つまり、売り値を高く付けられるんです。弊社では、VBで開発しているスタッフがプロトタイプを作成してシステムを提案したりするのですが、このときの競争相手はデザイン会社だったり、Flashを使っている他社デザイナーだったりするんですね。で、悲しい話、デザイン会社がきれいにデザインしたシステムの方が、高い値段で売れたりします。ちょっと味付けを変えるだけで、競争力が付いて、売り上げが上がるんですね。

 ですから、システムのUIというのは、同じお菓子でもちょっと飾り付けがよいと高く売れるような、そんな感覚があるのかな、と感じています。少しUIを凝るだけで、売り値がかなりよくなるというイメージがあります。

【小川】それはやはり、ある程度動くものを持って、営業されているのでしょうか? そのとき何か工夫されていることはありますか?

【濱田】そうです。必ず動くものを持っていくようにしています。五感に訴えることは非常に重要ですね。本当はにおいを付けたいところですが、さすがにそれはまだできないようです(笑)。動きがあると、やはり目を引きます。

 私は神戸出身で、大阪の吉本をよく見に行くんですが、笑いのパターンというのは2種類ぐらいあって、1つは、いつもどおりのことを毎回やることです。階段のいつものところでつまずいてこけるという、お決まりのところでまず笑いが取れるんですね。で、もう1つは、想像していなかったところ、見慣れているんだけど想像できないようなところで笑いを取ることができます。日々行っているものをちょっと味付けを変えるだけなんですが、うどんがいつもと同じダシだろうと思って食べてみるとちょっと違うというような、そんなサプライズも重要だと思います。

【小川】UI部品などのコンポーネントを開発されているグレープシティさんとしては、どのように考えますか? 正直、いまの濱田さんとはちょっと違った反応だろうなと思いますが。

【八巻】そうですね。一般的なアプリケーションと異なり、業務アプリケーションの多くは当然ながら企業内でビジネス・ツールとして使われます。この領域では、単純な見た目の要素がそういった競争力や付加価値になるかというと、現状まだ難しいのではないかと思います。

 例えば、「自動車はデザインで選ばれ、買われる」といわれますが、これは一般消費者の話です。一方、企業の営業車は、未塗装のバンパーがいまだに付いてたりしますし、真っ白でデザイン性のかけらもないですよね。

 単純に比較できませんが、同じように考えると、業務アプリケーションの場合は、見栄えとしてのデザインよりも、使いやすさやシンプルさなどの面でUXに重点を置く必要はあると思います。

【小川】混ぜて考えてしまいがちですが、UIの見栄えがよいということと、そのUXが優れているということは本来まったく別のことですね。


マイクロソフト株式会社
高橋 忍 氏

【高橋】そうです。マイクロソフトが勧めているUXでは、必ずしも見栄えがリッチでなければいけない、というわけではありません。

 使う人にとって必要なものが与えられていて、かつプラスアルファの何かがあれば、それは見栄えがリッチであろうがなかろうが、どうでもいいんです。それがWPFであろうが、Flashであろうが正直どうでもいいんですね。

 本来UXというのは、テクノロジに依存するようなものではなくて、もう少し上流の、アーキテクチャ的なところにあると思います。ですから、それを提供するために、グラフィカルにもリッチな方がいいという結果ならよいのですが、そこだけに注目して、すべての見栄えをリッチにしなくてはいけないと考える必要はないと思います。ただ、いくつかの部分にそういうリッチさをうまく織り交ぜていき、「せっかく開発するならWPFにしよう。開発も容易だし……」となるとすごくいいですね。

 例えば、先ほどの八巻さんのSilverlightのデモで、電話番号を入力すべきところに、数字以外を入力すると、テキストボックスがプルルと震える例がありました。あれは非常に分かりやすい。これ1つだけのためにWPFやSilverlightを採用するとしても、私は十分UXだと思います。これまでの環境でテキストボックスをプルルと震えさせることは、現実的にほとんど不可能でしたが、WPFやSilverlightだったら、それが簡単に実現できます。

●UXの定量化

【小川】その辺の話は結構本質的な問題を含んでいると思っています。プルルはすごいのかもしれませんが、すごさは定量化できません。言葉で「いいですよ」といくら説明しても、なかなかお客さんに分かってもらえず、「プルル? そんなのいらないんじゃないか? そんなものに余計なお金をかける必要はない」って、いわれてしまうのではないかと思います。

【高橋】ところがプルルの価値は定量化できるんですよ。

 海外などでは、そういった操作を測定して、評価を定量化しているところがよくあります。プルルではないですが、UXを変えることによってトレーニング・コストが減りましたよとか、作業時間が減りましたよとか、それによって年間何時間、金額にして何万ドルの節約になりましたよ、といったふうに、定量化しているところは結構あるようです。

 では、実際にどうやって数値にするのかというと、結構ベタな方法なのですが、作業時間を計るんです。例えばカメラを使って、1週間何人かのユーザーに新しいUIと古いUIで作業してもらって、ミスがどのくらい発生したか、間違いを正すのに何秒かかったかなどを分析します。このような定量化は面倒なため、あまり行われていないだけです。

 でも、実はMicrosoft Officeの開発では、それをすべて実施しているんですね。このある操作にどれだけ時間がかかるのか、マウスクリックするのに何秒、次のメニューを選ぶのに何秒っていうふうに、すべて定量化しています。皆さん同じところで引っ掛かるのですが、そうすると、そこはUI上間違った設計になっている、おかしいのでそこを直しましょう、ということをやっているんですね。

 残念ながら英語版で、かつ少し古いものですが、ボーイングとマイクロソフトが共同研究を行い、アプリケーションによるROI効果の定量化方法について記した「Cost-Justifying Usability」という書籍も存在します。

●洗練されたプラットフォーム


グレープシティ株式会社
八巻 雄哉 氏

【八巻】UIの見栄えやUXも重要ですが、それ以外にも、WPFやSilverlightにはフレームワークの魅力もあると思います。特に、UIとビジネス・ロジックの分離のしやすさです。

 多くのVBアプリケーションでは、イベントハンドラに50行や100行ものコードをガリガリと書いてしまっていたり、最悪の場合、そこから直接データアクセスまで行っていたりするものもあります。こうなるとテストもしづらいし、メンテナンスも最悪です。

 WPFやSilverlightには、強力なデータバインディング機能や、コマンドと呼ばれる仕組みなどがあり、もう本当に、究極的にはイベントハンドラを1行も書かなくてもアプリケーションを作ることができてしまいます。そういった面を考慮すると、メンテナンスのしやすさから、トータルで見ればコストを削減することができます。

 またUIをきちんと分離していれば、例えば最初に作ったUIが従来どおりのシンプルなデータグリッドであったとしても、後でデータ分析を視覚化するBIツールのようなリッチな画面に差し替えることも簡単にできるわけですね。そういった意味で、新規で開発していく分などでは、これからWPFやSilverlightが主流になってくるのは間違いないのではと思います。

【小川】インターフェイスのリッチさなどに注目するのではなくて、アプリケーション開発のプラットフォームとして見たときに、WPFやSilverlightは非常に価値があり、開発しやすいということですね。

【八巻】そうです。新しいテクノロジでもありますし、フレームワーク自体は洗練されていると思います。

■WPFについて


株式会社デジタルアドバンテージ
小川 誉久

【小川】もう少しWPFに踏み込んで話をしたいと思いますが、WPFに詳しくない人がいるかもしれないので、まず「WPFとは何か」というところから確認します。基本的には、DirectXベースのプログラミング・インターフェイスという理解でよいでしょうか?

【高橋】プログラマから見た場合、DirectXについてはまったく意識する必要はないのですが、WPFでUIを高いパフォーマンスで動かすために、ランタイムの中にDirectXの機能を利用する仕組みが組み込まれています。

【小川】業務アプリケーション開発者はDirectXになじみがないと思いますが、簡単にいうと、いままでのWin32によるグラフィックとどういう違いがありますか?

【高橋】まず、DirectXはマイクロソフトのテクノロジの中で、最もパフォーマンスのよい画面描画テクノロジになります。これまでどういった場面でよく使われていたかというと、例えば3Dのゲームでよく使われていました。

 特徴としては、GPUというグラフィック専用のプロセッサを最大限に活用するところですね。GPUはビデオカードやチップセットに組み込まれるもので、ATI、NVIDIA、Intelなどが主要なメーカーです。DirectXのエンジンはGPUを判断して、最適に使うんです。GPUがPCに搭載されていれば、それをとにかく使いまくる。ですので、性能のよいGPUが搭載されていれば、それだけ高速なグラフィック描画が可能です。

【小川】 GPUにはいろいろメーカーや種類があるようですが、それによってできることが変わってくるということですか? 機能面では依存したりしませんか?

【高橋】多少パフォーマンスの違いはありますが、DirectXのエンジンが、ここはGPUの機能が使えるからハードウェアで処理する、ここはCPUにソフトウェアで処理させる、といったふうに動くので、アプリケーションから見ると機能面に違いはありません。

【小川】では、性能的には差が出るかもしれないけど、アプリケーションは特定のGPUを意識したりする必要はまったくないということですね。

【高橋】まったくないですね。自分のPCに入っているのかなと思われる方がいるかもしれませんが、デスクトップPCでビデオカードが入っているものはもちろん、ここ3年ぐらいの間に販売されたノートPCであれば、たいていGPUが搭載されています。特にWindows Vista発売以降に出回っているかなりのPCには、普通にGPUが搭載されているはずです。

【小川】ハイエンド・モデルでなくても?

【高橋】もう普通のモデルでもそうですし、それこそネットブックあたりでも基本チップセットに入っていたりします。そういう面では、実は知らないうちにGPUを持っているのに、活用していないんですよね。

【小川】では逆に、すごく古いPCでは?

【高橋】すごく古いPCだと、すごくツライことになりますね(笑)。実行はできるけれども、すごく遅い。CPUへの依存度が非常に高くなり、CPUがすべてを頑張って計算しようとするので。

【小川】ということは、アプリケーションが使われる環境によっては、事前に評価したりテストしたりする必要がありますね。

【高橋】そうですね。必ずやってくれと、よくお願いしているんですが。WPFって初めて使うと結構面白くって、どこでもアニメーションさせたりしてしまうんです。そうすると、最新のPCでもないと、重いアプリケーションが出来上がってしまうんですね。ですので、社内にあるPCの状況を見て、パフォーマンス・テストを実施しておく必要はあります。

 

 INDEX
  VB研公開ゼミ議事録
  第8回 業務アプリケーションに最適なUI/UXを考える
  1.パネル・ディスカッション/WPFについて
    2.Windows 7/Silverlight/次世代業務アプリケーションの開発方法
 
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