解説

実例で学ぶWindowsプログラミング

第1回 MDI型Windowsアプリケーションの基礎開発 

デジタルアドバンテージ
2004/11/10
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 マイクロソフトが「.NET Framework」という次世代システムの構築/運用基盤を提供し始めて(つまり2002年2月13日のリリース発表から)、早くも2年半以上が経過した。そしてこの間、企業情報システムのデファクト・スタンダードとして、Webアプリケーションが広く普及した。その理由は、読者諸氏もよくご存じのように、Webアプリケーションの特長である「管理容易性」にある。Webアプリケーションならば、クライアント側に(一般的なOSでは)標準インストールされているブラウザからアプリケーションを利用することができ、クライアント/サーバ型のシステムのように、わざわざアプリケーションをクライアント・コンピュータにインストールする必要がない。このため、システム管理作業が大幅に軽減され、ひいてはシステムの総所有コスト(TCO)を低く抑えられるようになった。

 しかしここ最近、企業情報システムの代名詞のようにいわれてきたWebアプリケーションの雲行きが怪しくなってきている。一昔前のようなWebアプリケーション一辺倒の声が小さくなってきたのだ。それに代わり、「リッチ・クライアント」や「Windowsアプリケーション」といったキーワードが徐々に人気を集めるようになってきている。.NETを提供するマイクロソフトも「スマート・クライアント」というキーワードを掲げて、この流れに同調してきている(スマート・クライアントについては「スマート・クライアントの傾向と対策」を参照してほしい)。

 また筆者自身、ここ最近のソフトウェア開発のトレンドが、はっきりいって、よく分からなくなってきている。筆者の目には、現在のソフトウェア業界のトレンドは、非常に混とんとして映る。そのように見える理由をソフトウェア業界が急速に変ぼうしてきているためだ、と考えている。つまり、ソフトウェア業界がWebアプリケーションの世界から、さらなる進化を開始したと思うのだ。

 Webアプリケーションというシステムは、システム管理者の視点に立った利便性を追求したソリューションである。つまりWebアプリケーションでは、そのシステム管理者側の利便性追求の陰で、ユーザー側の利便性である「操作性」や「機能性」は二の次とされてしまった。それに不満を持つユーザーは多かったが、システムの運用コストを考えれば、ユーザーの業務効率が多少落ちたとしても、ユーザー側に我慢してもらうしか手段がなかった。しかし、Webアプリケーションが普及・発展するにつれて、その知見と技術が成熟してきたため、そこで得られた知識と技術を、従来のWindowsアプリケーションに融合する道が開けてきた。それが、「スマート・クライアント」である。

システム管理者とユーザーの利便性を両立させるスマート・クライアント

 スマート・クライアントは、システム管理者側の利便性を満たしつつ、ユーザー側の利便性も満足させるソリューションだ。このようにシステムを提供する側と使う側の両方にメリットがあるスマート・クライアントのようなソリューションが、次世代システムとして強く求められ、次第に人気を集め始めているというのは、至極当然な話だと思う。このように考えれば、現在のソフトウェア業界の状態は、やはり、「企業システム構築テクノロジの過渡期」であると筆者は確信するのだ。

 そこで本稿は、Windowsアプリケーションによるスマート・クライアントの開発方法を、実際に動くサンプル・アプリケーションの実装例に基づいて解説していく。このような実例主義の記事を筆者が書こうと決意した理由は、確かに.NETは徐々に普及してきてはいるものの、実践的なWindowsアプリケーション構築の方法に関する(書籍やWebでの)情報は、まだまだ少ないと感じるからだ。本稿がそのような現状を改善する一助になれば幸いである。今回の連載は、少々、長丁場になる予定だが、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。また、今回は最初から堅苦しい話になってしまったが、本稿は実装方法とそのコードを淡々と解説していく記事なので、構えることなく楽な気持ちで読んでいただきたい。

 ここで、実際の開発作業に入る前に、本稿で作成するプログラムの前提条件などについて一通り説明しておこう。

■開発言語と開発環境

 筆者は.NET開発言語としてC#を最も得意とするので、本稿のサンプル・プログラムはC#により記述する。しかし、.NETへ移行しようとしている多くのVisual Basic 6(以降、VB 6)開発者のために、すべてのサンプル・プログラムにVisual Basic .NET(以降、VB.NET)版のコードも用意する。ただし、VB.NETのコードは、本文中には記載せず、各サンプル・コードの脚注にあるリンクからダウンロードできるようにするので、VB.NET開発者は(お手数だが)そちらを参照してほしい。

 開発環境として、特に指定のない限りVisual Studio .NET 2003 Professional(以降、VS.NET)を使用する。しかし、サンプル・プログラム全体のソース・ファイルは、VS.NET 2003およびVS.NET 2002のプロジェクトをダウンロードできるようにする。

■読者対象

 本稿はVS.NETを使いこなせる中級者以上を読者対象としている。よって、開発用語やVS.NETの使用方法は解説しない。最低限の基礎知識として、「簡単!Visual Studio .NET入門」の内容を理解しておく必要がある。

■開発するアプリケーションの種類と形態

 本稿で作成するアプリケーションは、3階層のスマート・クライアントで実装された「顧客管理ソフト」である。3階層の構成は、データベース・サーバ(データベース層)、Webサーバ(ビジネス・ロジック層)、クライアント(ユーザー・インターフェイス層)となる。顧客管理ソフトとは、顧客の名前や住所などの情報を管理するためのソフトウェアのことである。

 クライアント側のユーザー・インターフェイスは、MDI(Multiple Document Interface)型のWindowsアプリケーションとする(以降、「MDIアプリケーション」と表記)。MDIアプリケーションとは、次の画面のように、メイン・ウィンドウの中に、複数の子ウィンドウを有するアプリケーションのことである。

MDIアプリケーションの例(Microsoft Excel)
MDI型のWindowsアプリケーションとは、メイン・ウィンドウの中に、複数の子ウィンドウを持っているアプリケーションのことである。
  メイン・ウィンドウ(Main Window)。メイン・フレーム(Main Frame)とも呼ばれる。
  子ウィンドウ(Child Window)。子フレーム(Child Frame)とも呼ばれる。

 それでは、まずはMDIアプリケーション開発を行うための事前準備を行おう。

 

 INDEX
  解説:実例で学ぶWindowsプログラミング
  第1回 MDI型Windowsアプリケーションの基礎開発 
  1.本連載で開発するWindowsアプリケーションについて
    2.MDIアプリケーション開発の準備
    3.MDIアプリケーションへのコントロールの追加
    4.MDIアプリケーションのメニュー項目処理の実装
 
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