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外資系コンサルタントのつぶやき 第10回
会社に自分の席がない

三宅信光
2002/3/21

   会社には席がない

 今回は、クライアントとの仕事の仕方やストレスについて紹介したいと思います。

 皆さんは、自分の会社に決まった席(デスクとイス)を持っていると思います。よく会社を長く休んでしまうと、「席がなくなってしまう」なんて冗談をいわれますが、この言葉が冗談になるのは、会社に自分の席があるからこそだと思います。私も前の会社では、当然自分の席がありました。当時は出先に長くいるわけではないのですから、それが当たり前でした。

 だから現在の会社に入ったとき、オフィス内に自分の席はないと知らされて、結構驚いたものです。以前とは働く形態が違うから当たり前だといまでは納得していますが、旧態然とした会社から転職したばかりのころはショックでした。働く形態が違うと書きましたが、それは基本的に「客先での仕事がメイン」だということです。オフィスで仕事をするのはマネージャがクライアント先で話しにくいことを話すときか、社内のトレーニング、それに自分の会社内でこなす仕事があるとき(トレーニング教材を作ることなど)しかありません。

 もちろん、取締役クラスでは当然席があります。しかし、それ以外の人がオフィスに来るときは、席を予約してミーティングをしたり、作業をしたりするのです。つまり、ほとんどの時間はクライアント先でクライアントの社員と一緒に過ごすことになるわけです。

   常にクライアントと一緒に過ごすとは

 クライアントと過ごすということは、なんでもないように見えて、決してそうではありません。いつも気が抜けない状態にあるからです。私は前にいた会社の社風がのんびりしていたためか、なおさらそう感じるのかもしれません。自分と同じ会社の人間(つまり身内)と過ごす時間は、クライアントと一緒にいる時間と比べるとずっと楽です。クライアントとなると、どれほど仲のいい人とでも緊張するものです。

 仕事中のほぼすべての時間、こうした環境にいるため、ストレスが結構たまります。それでも私のいる場所は、クライアントとは別の部屋なので、まだましというべきでしょう。実際、クライアントと机を並べて仕事をすることは、そうした状況に慣れているベテランでも大変なようです。10年以上もコンサルタントを続けている友人に、「いまは大変なんだよ、気が抜けなくて」と、愚痴をこぼされたことがあります。

 以前、われわれコンサルタントは、クライアントに対して「知らないとはいえない」のだと書いたことがあります(「第6回 クライアントに「知らない」といえない」)。これが机を並べて仕事をするということは、「知らないとはいえない」状態がずっと続くわけですし、常に仕事をしている姿を見られているわけです。さらにクライアントと同じ仕事をしていたとしても、彼らより仕事ができて当たり前と見られるのです。もちろん、コンサルタント料金として、高いお金をいただいているのですから、そう見られて当然なのですが……。

   いつも気が抜けない

 仲のいいクライアントの社員であっても、仕事をするうえでぶつかり合うことはよくあります。クライアントがいっていることが昨日と違うとか、お願いしたことが一向に終わらないとか、長く一緒に仕事をしていても、こうしたことはそれなりにあるものです。

 私も最近、一緒に仕事をしているクライアントのある社員への愚痴を、自分の席で同僚にこぼしていたとき、いつの間にか話題になっていたクライアントの社員が私の後ろに立っていて、慌てたことがあります。もちろん、その人のことについて愚痴をいっていたことが分からないように、適当に話をそらし、その人が来たことを途中で気付いたふりをして、その人の方に振り返ったことがありました。そのときは幸い気付かれませんでしたが、それは年の功でしょうか? あのとき、慌てた様子を見せていたら、きっと気付かれたでしょう。それでもまだ、愚痴をこぼすタイミングがあるだけましなのでしょう。自分がクライアントと同じ部屋で座っていたら、それさえままなりません。気を抜くタイミングがないのは、本当につらいものです。

   新人が起こした事件の余波

 新卒入社組であっても、クライアント先で仕事をするのは一緒です。当たり前のことなんでしょうが、新入社員は世間知らずばかりです。特に私がいる会社はその傾向が強いように感じます。彼らの多くは皆、自分に自信があり、「生意気」と思われるようです。一般の会社では、新人は社内で教育・研修を行い、社会人の礼儀などにも慣れ、非常識なことをしないと思われるようになってから、客先に出すものだと思います。

 しかし、私の会社は違うのです。2〜3カ月のトレーニングを受講した後、さっそく客先に投入されてしまいます。トレーニングの主体はIT関連の知識にあるので、社会常識は学生時代のままです。それ以上の教育は施されないまま、クライアント先に出向くのです。それでもまだ、小さなチームであれば、何とか目が届きます。しかし、大きなプロジェクトでは何十人もの新人が入ってくるのですから、とても目が届きません。そんな新人たちがときとして、こちらが想像もつかないことをしてしまうのです。

 あるとき、私の上司が真っ青になって私のいる場所にきて、「これからクライアントに謝りに行く」といって、すぐに飛び出して行ったことがあります。何があったのか不安になり、周りに聞いてみると「うちの新人が……」との話でした。それは、次のような話です。私たちがいる部屋の隣の部屋は、クライアントだけの部屋です。そこに現場に配属されたばかりの何も知らない新人が、断りもなく入り込み、勝手にコーヒーメーカーのコーヒーを飲んだうえに、そこにいたクライアント先の社員に「砂糖とミルクない?」と聞いたというのです。

 いくら何も知らないとはいえ、隣がクライアントの部屋だとは説明されていたはずですし(そもそも建物はクライアント先にあるわけですから、そうした説明以前のような気がしますが)、クライアントとの関係がぎくしゃくしていたころでもあり、特にその点は注意してほしいと説明されていたのです。そんな一発即発の状況下であれば、もう少し緊張するものだと思っていたのですが……。この事件、クライアントの上層部がカンカンになって怒ったそうで、謝りに行った上司はずいぶん冷や汗をかいたと、ずっとぼやいていました。

   コンサルタントは図太い自信家に向いている

 実はその事件の当事者だった新人と、事件後1年以上たった後に仕事を一緒にしたことがありました。当時、その人が事件を引き起こした本人とは知らず、「こんな笑い話があったんだよ」と話したら、「ああ、それは私です」と、明るくいわれました。悪びれた様子はなく(考えると、確かに大した話ではないのですが)、当時謝りに行った上司がこれを聞いたら泣くだろうと思ったことを覚えています。それというのも、この事件直後、私の会社の人間は常識がないとクライアントに決めつけられ、その印象をぬぐい去るのにかなり苦労したからです。新人もかなり怒られたはずなのですが、それをすっかり忘れたような私への対応は、いい意味でも悪い意味でもコンサルタントらしい神経の図太さです。

 しかし、その新人だけが突出して神経が図太いわけではありません。私の会社にいる人間の多くは、普通の会社であればだれもが図太いといわれるほどの神経を持っていますし、自信家も多いのです。その図太い神経の自信家たちも、さすがにクライアントとずっと一緒に机を並べ、常にクライアントが納得するように仕事を行うことは、かなりのストレスになるのです。図太い自信家でいることは、見た目よりもずっと大変なのです。そしてそれでも「図太い自信家」でいなければ、コンサルタントとして生きるのは難しいのです。

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