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外資系コンサルタントのつぶやき 第17回
下流工程はクライアントに食い込むための戦略

三宅信光
2002/11/8

   下流に進出するビジネス上の理由

 前回は、なぜ大手コンサルタント会社が開発の下流へ進出するのかを、人材養成という観点を絡めて紹介しました(「第16回 コンサルタント会社の弱点」)。今回はより本質的な、ビジネス上の必然性という観点からそれをお話ししたいと思います。

 大手コンサルタント会社が下流域へ進出する理由の中で、人材養成はごく付加的な要素にすぎません。海外では、人材は労働市場から調達すればよいという考え方が成り立つため、それが日本法人にも多少影響しているようです。もちろん、日本ではなかなかうまくいかない考え方ですが……。

 さて、大手SIベンダが上流工程への進出を図るためには、クライアント企業の戦略に密着することが必要だという話を以前しました。同様の指摘は、大手コンサルタント会社にも当てはまります。

   コンサルタント会社の欠点

 企業戦略に即した提案能力、これがコンサルタント会社が、SIベンダに勝る点だと思います。しかし、前回お話ししたように、外資系の大手コンサルタント会社の中には数万人にも上る人員を擁するところがあり、上流工程のビジネスだけでは組織の維持は難しく、そのため下流工程の開発を手掛ける場合があります。

 しかし、どうしても開発技術を比較すると、SIベンダに劣るのは否めない事実でしょう。提案はクライアントに受け入れられても、利益金額の大きい開発では、SIベンダに一歩も二歩も引けをとってしまう、これが大手コンサルタント会社の共通した悩みの一部だと思います。独自のハードウェアを持たず、そこに根ざした技術がないことが、もろ刃の剣として作用しているようです。もろ刃の剣と書いたのは、特定の技術にとらわれないという利点があるからです。私の会社に古くからいる人の多くは、この利点を強調するのですが、開発、運用という下流域のビジネスでは、これが欠点として大きく作用するのです。また、こうしたコンサルタント会社の欠点は、開発規模が大きくなるに従って目立つ傾向があるようです。

 私が体験した失敗談を紹介しましょう。ある企業が私たちの提案を受け入れ、開発、運用まで任せるといった案件がありました。開発中さまざまな問題が発生しましたが、なんとかカットオーバーを果たし、運用までこぎ着けました。私は開発から携わっていたので、そのシステムは設計書上はきちんとしたものだったと思います。しかし、実際の運用となるとまた別物だと分かるまでには、さほどの時間を必要としませんでした。

 基本はきちんと押さえてあったつもりですが、実際にはきちんと運用できないことが多かったのです(症状をここで詳しく書くことはできませんが)。運用チームはシステム開発経験の豊富な中途採用者が中心でしたが、それでもうまく稼働しないことがあったのです。これらの問題は、運用を経験したことがないメンバーがシステムを設計・開発したことが大きな原因でした。

   コンサルタント会社の欠点と狙い

 日本でも大規模な開発案件が多くなり、日本法人の体力に限りがある外資系の大手コンサルタント会社では、単独で請け負うことが難しくなってきているようですが、海外では開発・運用から踏み込み、いまや業務そのもののアウトソースを請け負うケースもあるようです。当初はITアウトソーシングが主流でしたが、現在では人事や会計など、企業の本来の業務以外を取り込む動きに移ってきています。大手コンサルタント会社が、決して得意とはいえない下流域にこだわる理由は、こうしたビジネスの動き(ビジネスの変化といってもいいでしょうか)とも関係があります。

 クライアントへの提案は、どうしても単発に終わりがちです。1回1回の仕事の期間は長くても半年程度でしょう。必ず受注できるのであればそれでもよいかもしれませんが、コンペになり、受注できないケースも多くあるわけです。組織の規模にかかわらず比較的金額の小さな仕事(提案)を数多くこなそうとしても、どうしても収益の不安定さは免れません。

 しかし、開発などの下流域の仕事は長期にわたるケースが多く、比較的安定した収益を上げることができます。さらにオペレーションをも取り込むことができれば、さらに長期間にわたる安定的な収益を上げられるうえに、クライアントとのより良い関係までも構築しやすくなります。もちろん、利益率は低下しますが、長い期間付き合っていけば、新たな戦略案件も出てくるものです。クライアントの身近にいれば、当然そうしたクライアントの動きも察知しやすくなりますし、良い関係を保っていれば仕事を獲得するチャンスも増えるわけです。

 例として挙げた運用で問題が生じたクライアントとは、それこそ長いお付き合いになっています。当初は運用に苦労している私たちを見て、かなり不安に思ったようですが、何とか逃げ出さずに頑張っている姿を見て、少しは信頼されるようになったようでした(笑)。

 それをきっかけとして、徐々に関係改善を図って数年過ぎ、おかげでいまでは毎年何らかの相談を受けるようになりました。実際に私たちが主体となって仕事を請け負うこともありますし、あるいはほかのベンダが請け負ったシステムの実稼働後の運用管理のお手伝いをする場合もあります。

   クライアントに食い込んでこその戦略提案の実現

 そのクライアントはある程度の規模がありますので、それなりに開発案件があります。しかし、何よりも彼らの身近にいて、その会社のシステムを熟知していると思われていることが、私たちの強みになっているのです。1つ1つは小さな案件ですが、それも積み重なれば金額も大きなものとなります。それに何より、少しずつ信頼を築き上げたことによって、クライアントのさまざまな部署の人とお話ができるようになりました。知り合った人たちとお話をする中で、クライアントの社内の動きをいろいろな形で知ることができるようになっています。

 こうなれば、スポットでクライアントから提案の案件があっても、クライアントの戦略を理解し、それに沿った提案もできるようになるのではないか、と期待し始めていますし、それこそが大手コンサルタント会社が不得手な運用業務に取り組んでいる理由なのです。

 コンサルタント会社が開発・運用でうまくいくケースはまだまだまれかもしれません。これはコンサルタント会社がもともと持っている上流工程重視の姿勢、下流域への配慮が足らない体質などが災いしていることに原因があるのでしょう。さらには、皆さんが思っているほど体力はなく、大規模な開発・運用に耐え得るだけの人員を用意できないことも理由の1つでしょう。

 IT業界は、今後はこれまでのような急激な成長はなく、緩やかな成長になり、成熟した業界へと変ぼうしていくと思います。そうした中で、大手ITベンダも大手コンサルタント会社も、戦略の変更を余儀なくされ、互いに相手の得意とする、逆にいえば自分たちにとって不得手な分野に進出せざるを得ない時代がやってきたのかもしれません。まさに、いまが大きな転換期に当たるのでしょうか。

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