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外資系コンサルタントのつぶやき 第6回
クライアントに「知らない」とはいえない

三宅信光
2001/11/21

   コンサルタントは何でも知っている?

 前回(「第5回 技術スキルだけでは食えない」)は、私の会社での技術スキルに対する評価について紹介しました。今回は、コンサルタントのスキルのもう一つの柱である業務知識についてお話したいと思います。IT系のコンサルタントであっても、コンサルティングを行う場合、業務知識が必ず必要になります。そのため、コンサルタントであればだれもが、ある程度は担当している分野の業務知識を持っています。では、どの程度の業務知識が必要とされるのでしょうか?

 クライアントと話していて感じるのは、「コンサルタントだから、何でも知っているはずだ」という、ある種の信頼感、先入観です。確かに高いお金を受け取って偉そうなことをいっているのですから、そう思われるのも仕方がないところです。また、こうしたことがあるため、コンサルタントも知らないとはいえないところがあるのです。知らないなどというと、あのコンサルタントではダメだと、すぐにクライアントにいわれてしまうためです。しかし、コンサルタントも人の子(?)です。知らないことも意外と多いのです。常に自分の得意な分野の仕事ができればよいのですが、時にはまったくこれまでかじったことのない部署(業界担当や業務担当)に配属されるケースがあります。こうなるとたいていのコンサルタントはお手上げです。

   知らない知識は詰め込む

 その場合、コンサルタントは何をするのでしょう? 実はあまりにも一般的なことです。まずは関連分野の本を片っ端から読みあさって一夜漬けの知識を得るところから始めます。もちろん、クライアントの会社独自の業務内容などは分からなくて当たり前です。その点についてはコンサルタントも堂々とクライアントに話を聞きます。

 まったく知らない分野のことをクライアントと話す場合、どうしても自分が知らないことが話題に出るのはやむを得ません。では、その場合はどうするのでしょうか? その場の雰囲気にもよりますが、「ああ、そうそう、そうでしたよね」などとうまい具合に相づちを打ちながら(ついでに冷や汗をかきながら)その場で覚えていくことが多いのです。そして次に同じような場面に出くわしたときは、さも最初から知っていたような顔をして、コンサルタントの方から「ここはこの方がよいのではないですか?」などといってみるわけです。

 当たり前のことですが、コンサルタントだからといって、何でも知っている必要はありません。知識がなければ、勉強すればいいのです。ここまで読んだ読者であれば、これらは何もコンサルタントだけではなく、一般に仕事をするうえで、だれもが経験することではないかと指摘されるでしょう。

   知識の習得力が優れているかがポイント

 ただ、その場での知識の習得力、知識が必要となったときの勉強の仕方などは、本当に目を見張るものがあります。私の同僚と初めて一緒に会計関連のプロジェクトを推進したときは、それこそ彼は会計については仕訳も知らない程度だったそうです。“そうです”というのは当時、そのことに私は気付かず、プロジェクトの終盤に本人からいわれるまで気付きませんでした。確かに最初のころは、画面周りの設計などが多く、それほど業務の中身を彼と議論することはなかったのですが、少なくともそれなりの知識はあるとばかり思っていました。

 同じプロジェクトの同僚の私がそう思うほどですから、クライアントが彼の業務知識のなさを疑わなかったのは間違いないでしょう。しかし、半年ほどたったときに彼と議論したときには、会計の流れをしっかりと把握していました。「最初は会計なんか全然知らなかったから、冷や汗ばっかりかいてたよ」と彼がいったときは、本当に驚きました。彼は最低限の簿記は勉強したようでしたが、ほとんどの知識は、クライアントへのインタビューを通じてつかんでしまったのです。

 その一方で、そういうことができない人もいます。会計関連の知識に非常に詳しい人(Tさん)が入社してきたことがありました。しかし、彼はなぜかサプライチェーンのプロジェクトに配属されました。サプライチェーンのシステムにも、会計システムとのインターフェイスが当然ありますから、それを考慮した配属だったのかもしれません。ただ、この配属は結果的に失敗に終わりました。Tさんは、先ほどの例の同僚ほど柔軟に適応できなかったためです。Tさんは結局クライアントとのコミュニケーションがうまくいかず、というよりはほとんど話すことができなかったというのが実情でした。クライアントと話そうにもクライアントが使う単語1つ1つが分からないので、普通であれば無理もないことなのですが、短期間であっさりと転属になってしまいました。

   コンサルタントは業務分野が変わると大変

 コンサルタント会社の場合、一度1つの分野に入り込むと、基本的にその分野から違う分野に移ることは少ないのです。しかし、ポジションが上がれば必然的にさまざまなことをさせられるようになります。会計関連のエキスパートだから、ほかは知らなくてもよい、ということにはならないのです。技術系の人に業務系の仕事を振ることもあります。

 私の友人に、突然サプライチェーン関連の仕事が振られました。彼はもともと技術畑の人で、それほど業務周りに詳しい人ではなかったので、どうなることやらと心配していたのです。彼はサプライチェーンの仕事が決まるとすぐに、大量の本を買い込み、プロジェクト開始後2、3日後には、とりあえずクライアントへのインタビューをこなしていました。もっとも、細かいところではやっぱり破たんがあったらしく、「突っ込まれて怖かった」などと話していました。彼はどちらかといえば一生懸命勉強をするタイプですが、それにしてもあれだけ短時間で要所を押さえる能力には脱帽です。

   コンサルタントの真価が発揮されるとき

 技術面でそうであったように、業務面でもコンサルタントの人間が常に高いスキルを持っているとは限りません。しかし、コンサルタントの真価が発揮されるのはクライアントに接しているときです。いかに柔軟に、いかにスピーディーに新しい知識を吸収し、応用することができるかという能力については、確かにコンサルタントは高いものを持っている人が多いと思います。逆にいえば、その能力がないとついていくのが難しい、あるいは難しくなることが多いのです。

 多様な場面に接する機会が多いコンサルタントには、これは必須の能力でしょう。この点は、一般の会社に勤めている人よりも非常に高い能力を求められているのだと思います。また、知らなくても知っている顔をすることができる、ある種の厚かましさも必須の能力といっていいでしょう。

   知らないとはいえない

 私はどちらかといえば業務畑の人間です。ですから少し見方が偏っているかもしれません。連載の第3回(「出ないクイは捨てられる」)で、私は「客と話せなければ評価されない」と書いたことがありますが、こうした風潮も、業務関連の知識が重んじられる要素になっているのかもしれません。これは、コンサルタントが話す相手が、クライアントでも技術関連の人より業務関連の人と話す機会が相対的に多いためです。また、技術的なスキル以上に業務的なスキルでは、応用力が求められるように思えます。向かい合わなければならない業務の範囲が技術以上に広いためかもしれません(もちろん、技術も十分に範囲が広いのは事実です)。コンサルタントは、さまざまな業務のプロと向き合って仕事をしなければなりません。まさにコンサルタントは、「知らない」とはいえない宿命を負っている職業なのです。

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