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連載:知っておきたい人材会社の裏事情
第1回
エンジニアにとっていい派遣会社とは?

辻俊彦(@ITジョブエージェント担当
2001/9/5

派遣会社での勤務経験がある筆者(現@ITジョブエージェント担当)が、人材ビジネスの“裏”を紹介するとともに、エンジニアがいかに人材会社と付き合えばいいのか、そのヒントを語る

 一億総転職時代といわれながら、人材流動化がさほど進んでいるわけではありません。人材ビジネスの歴史が浅く、多くの課題を抱えていることが、理由の1つだと思われます。そこで、現状の人材ビジネスの内情をモデル化するとともに、今後の人材ビジネスの方向性と、エンジニアがどう人材会社と付き合っていけばいいかを紹介していきたいと思います。

 人材ビジネスは、大きく分けて人材派遣と人材紹介があります。どちらも業務として行うには免許が必要ですが、事務所スペースなどがあればいいという程度のものです。人材派遣は、細かくいうと、自社の社員として雇用している人を派遣する特定派遣と、自社スタッフとして登録してもらい就業中だけ雇用関係が生じる一般派遣とがありますが、ここではいわゆる派遣会社(テレビCMでおなじみ)として語られる一般派遣について、公開企業の決算内容から推測して収益構造を解説します。

極めてシンプルな収益構造

 一般派遣は、派遣先企業で就業時だけ給料を支払えばいいので、就業時派遣先企業から支払われる派遣料(請求)とスタッフに支払う給料(支払い)との差額が粗利益(粗利)になります。実際には、2カ月超の雇用関係があると、社会保険加入義務が生じ、雇用主負担分は派遣会社の負担になります。この負担は、派遣会社にとって無視できないコストで、1人当たりの支払いは、派遣料の13〜15%程度になります。しかし、実際には派遣社員の月額給与を抑え、抑えた分をボーナスにしたり、社会保険加入を回避するなどして、派遣料の2〜8%程度になっているのが実情です。

支払い以外に必要な費用

 エンジニア派遣の場合の粗利益率は、25〜30%程度だといわれています。社会保険の負担があるとして、派遣先企業への請求が50万円、派遣者への支払いが35万円となるモデルで説明します。

 エンジニア派遣の粗利益率の高さは、エンジニアの圧倒的な需給ギャップが背景にあります。この粗利で収益をあげるには、販売管理費(販管費)を売り上げの20%以内に抑えればいいわけですが、登録スタッフ獲得のための募集費が3%程度かかり、収益を圧迫します。従来、派遣は半年間働いてもらうとペイするといわれており、月額50万円の売り上げをあげるスタッフを獲得するコストは、9万円(50万円×6カ月×3%)という仮説が可能になります。実際には、就業に至らない登録者もいるので、登録者の獲得コストの目標値は、5万円未満で設定しないと広告業だけが潤い、広告主は潤わないことになりかねません。また、販管費の半分は人件費なので、これを売り上げの10%以内に抑えることが経営のポイントになります。業界の慣習として、信用力強化のため立派なオフィスを構える会社が多く、募集費の節減分を賃借料に回し、売り上げの5%程度を賃借料としている会社もあります(この場合潤うのはビルオーナーでしょうが……)。

育成費への投資

 エンジニア派遣では、粗利益率が高いため、粗利益の何%かをスタッフ教育に回すことも戦略投資としては有効です。圧倒的な需給ギャップがあるわけですから、人材を育成しない限り需要を満たせません。唯一の対策は外国人エンジニアの採用ですが、これは日本の労働市場の空洞化につながりかねません。そこで、売り上げの1〜5%を育成費用として投資する派遣会社も増えており、その場合、月額50万円の売り上げをあげるスタッフで、年間6万〜30万円になります。優秀なスタッフには、年間100万円の教育費補助を行っていた派遣会社も過去にはありました。最近では、政府の助成金を使えば派遣会社は20%の負担で済むので、30万〜50万円を派遣エンジニアの教育費用に充てることが可能になります。

エンジニアから見ると

 以上をまとめれば、請求50万円を稼ぐスタッフを派遣する場合、給与が35万円、社会保険4万円、募集コスト1.5万円、(派遣会社の)人件費5万円、育成費1.5万円、そのほかに販売管理費2万円のコストがかかり、最終利益は、1万円(売り上げの2%)になります。

 派遣会社のサービスは、伝統的に営業とコーディネータのコンビ(2名)で提供されています。つまり、大ざっぱにいって派遣会社の社員は、1人当たり自分と同じ金額を稼ぎ出す10名(人件費5万円×10名=50万円)の派遣スタッフを会社が抱えれば、企業収益に貢献できることになります。このような低収益性の中、メーカーでいう商品と位置付けられるスタッフの付加価値を高める方策は、育成費への投資しかありません。苦しくても請求単価アップにつながる育成型派遣を実践していくことが、派遣会社の目指すべき方向性といえそうです。

 エンジニアの側から見ると、派遣エンジニアが付き合う派遣会社を選ぶときの基準は、教育メニューや育成プロジェクトが充実していることを最優先すべきだということになります。圧倒的なエンジニア不足の中、未経験者もターゲットに入れた育成メニューの充実度を基準に、比較検討してみるもの興味深いかもしれません。

筆者紹介
辻俊彦 ●2001年3月まで、エンジニア派遣大手企業で、事業企画に携わり、 企業のニーズに合わせた育成プロジェクトを立ち上げる。エンジニアの自己実現をサポートするというポリシーの下に、@ITジョブエージェントのサー ビス企画にも関与。

「連載 知っておきたい人材会社の裏事情」
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