エンジニアが語るリレーエッセイ
エンジニアに資格は必要か?
第10回 資格は自分に自信を与えるもの

かえママ
2002/7/10

毎回さまざまな分野のエンジニアに、「エンジニアに資格は必要か?」をテーマに、自身の実体験などを織り交ぜて語っていただく。エンジニアの“生”の声を紹介する月刊リレーエッセイ。今回は、子育てのために退職した元エンジニアが、在職中に感じた資格への考えや、退職後に考えた資格の存在意義について紹介する。

意見を述べるに当たって

 いまから十数年前、大した志もなく何となく始まり、出産後子どもを安心して預けられる人がいないので終わりにしちゃった私の短いなりにも充実したエンジニアライフを、今回“資格”というキーワードのもと、入社時のエピソードや退社後の経験も紹介しながら述べさせていただきたいと思います。

エンジニアになってしまう

 バブル経済真っただ中の1990年(平成2年)。当時はまだ、特別な知識のある人たちの集団のように思っていたコンピュータ業界に、何の知識も経験もないまま足を踏み入れることになりました。

 私立大学の国文科に在籍し、中学校の国語の教師を目指していた私は、教員採用試験で不採用が決まってから就職活動を行いました。ほとんどの同級生は内定をもらっている中、その時期でも新卒募集をしていた数少ない企業を回ることにしたのです。まさか“コンピュータ”に自分がかかわるとは思ってもいませんでしたが、教員採用試験に落ちてヤケになっていたこともあったのでしょうか、数少ない企業の中から「実家から通える営業所のあるところ」という条件だけで、数社企業訪問をすることにし、その条件を満たす企業として入社を決めたのが、たまたまソフトウェア会社だったのです。

 いまでは考えられない売り手市場で、あれよあれよという間に内定をもらい、その後の内定者を集めてのパーティや飲み会などに何度も招待され、勢いの良さ(?)を感じて、とうとう私はまったく未知の世界である情報処理という分野に席を置くことになったのです。

 驚くことに入社後わずか1カ月半の合宿研修のみで、次の日には都市銀行のシステム部への常駐となりました。結局“エンジニアになる”のにまったく何の資格も要らなかったのでした。

未知の世界で

 入社して間もないころは大した仕事を任されることもなく、時間があったためか資格について考えることが何度かありました。考えたのには、きっかけがあったのです。

 即戦力であるはずの専門学校卒の同期生の給料は、私よりもずっと安いことを知ったのです。年齢が私より若いということもあるのでしょうが、彼らは学校で最低限の資格、中には先輩顔負けの上級資格さえ取っているのにです。このときは、「資格なんて関係ないんだ。仕事ができたって、給料が安いんじゃバカらしい!」と思ったものです。

 しかし、その後何気なくめくっていた職務規定の中に、“資格手当て”の文字を見つけたときに、一気に資格が欲しいモードに突入したのです。最低でも月5000円! 難しい試験であれば何と月に10万円ももらえるのです。これは取らない手はないぞ、と……。

 しかし、いきなり出向先の常駐となった身です。覚えることの多いことといったら……。担当は“流動性普通預金”。しかし、当時は流動性といった言葉から分かりません。研修で配られた「ハードウェアの知識」なんて見るヒマもなく、毎日が忙しい日々でした。

必要とされたのは資格ではなく……

 都合6年間のエンジニア生活では、都市銀行をはじめ信託銀行・生保・流通・通信・運輸など、さまざまな業種のシステムに携わりましたが、どこでも求められるものは同じでした。一番必要とされたのは業務知識だったのです。

 ただプログラミングをするだけなら必要なコンピュータ言語を知っていればOKで、あとはちょっとだけ周りの人とコミュニケーションが取れ、状況によって少しだけ工夫できるセンスがあれば、だれにでもできる仕事だと私は思います。しかし、システム設計となると業務について分かっていないとどうにもなりません。

 つまり、必要なのは業務やハードウェアの知識と経験です。実際6年間実務をこなしていくうえで資格を意識したことはまったくないし、資格がないからといって困ることもありませんでした。出向先が変わるたびに面接を受けるのですが、そこで聞かれるのはいままでしてきたことや、何を知っているのかということであって、資格について問われることは一度もありませんでした。なんといっても日々の仕事に追われ、資格を取っているヒマはないのが当時の状況でしたが……。

専業主婦になると……

 育児に専念するために退職した後、失業保険をもらうためだけに半年間職安(職業安定所=ハローワーク)に通いました。周囲は本気で職探しに来ている人であふれ返っていました。そこで私は何度も窓口の職員にいわれましたし、隣のブースからも、「せめて資格でも持っていたら」という声をよく耳にしたのです。

 そのときは再就職を考えていなかったのですが、時間だけはたっぷりあるので、資格でも取ろうかと思い、問題集や参考書などを買ったのですが、必要に迫られていないものですから、まったく勉強もはかどりません。

 その後、子どももあまり手がかからなくなり、パートに出ることにしました。履歴書を書いていて資格の欄になると筆が止まります。私が持っている資格といえば、普通自動車免許と国語の教員免許だけです。ないよりマシだとばかりに、ほかの欄よりも1割増し大きな字でその2つの資格を書き込みました。このとき思ったことは、「もっとたくさん書けるといいのに」ということでした。そうです。資格=自己アピール/自分への自信になるのです。

資格の意外な効用

 例えば、ファミリーレストランでウエートレスをするにしても、面接のときに「先生の資格を持っていらっしゃるのですか。それはすごいですね」といわれたものです。ほめられればだれだってうれしいもの。ある仕事をする(例えばウエートレス)のにまったく必要ない資格(教員免許)でも、それを持っているだけでちょっと有利に、または有利にならずとも相手に多少インパクトを与えることができるのです。「ああ、あの先生の免許持っている人ね」なんていわれるのです。

 結局そのウエートレスも1年で辞めてしまい、いまは自宅でできる入力作業の仕事をしています。しかし、この仕事を始めたばかりのころは、慣れていないこともあり、1人だけでは期限までに間に合いそうもないピンチの連続でした。そんなときは、インターネットの掲示板で手伝ってくれる人を募りました。毎回数十件の反応があるのですが、そのアピールが皆すごいのです。こんな資格もあんな資格も持っていますと、いくつも資格を並べる人、1分間に何百文字もキーボードを打てますという人、お金はいらないが、取りあえず仕事をさせてほしいという人など、その内容は千差万別ですが必死なのは伝わります。

 それでは、その中のだれに頼むのか? 私にとって顔も名前も知らない人たちばかりです。「〜ができます」といっても本当かどうかも分からないのですが、この中のだれかには手伝ってもらわないと間に合わない。そんなときの目安になるのは、その人のアピール内容です。もちろん、資格だって立派な目安の1つです。まったく何もありませんという人よりは、資格を持っている人に対しての方が「こんなこともできるのか」という信頼感も持てるのです。つまり、資格がすべてではないにしろ、新しい人とのつながりを持とうとするときには、資格が自分を知ってもらうための手助けにはなるのだと思います。

転職時に資格は必要か?

 私がエンジニアとして働いていたころは、入社当初に資格手当てに引かれて資格取得しようと思ったとき以外は、資格は必要ないと思っていましたし、実際持っていないからといって困ることはまったくありませんでした。ですからいまでもズバリ、「エンジニアに資格は必要か?」と聞かれれば、やはり「特に必要ない」と答えるでしょう。

 必要なのは業務に精通すること。では、転職時に資格は役立つのか? その場合も否です。必要なのはコネと実力・実績だけです。しかし、それは資格が必要か、必要でないかという質問に対してのみの限定した答えです。エンジニアとしては必要なくても、自分のために資格を取ることは、時間と気持ちに余裕があるときならば決して無駄なことではないと思うのです。資格は自分に自信を与えるもの、他人に自分をアピールできるもの。エンジニアという仕事から一歩離れたいま思うのは、必要がないからいらないというのは、もったいないのではないかということなのです。

筆者紹介
かえママ大学卒業後、ふとしたきっかけでエンジニアに。その後結婚し、主婦兼エンジニアとして活躍。子どもの出産後に育児休暇を取得するも、育児に専念すべく結局エンジニアをリタイア。現在は子育てもひと段落し、自宅で入力作業の仕事を請け負っているという。

「リレーエッセイ エンジニアに資格は必要か?」



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