入門 eラーニング:まずは仕掛けを理解しよう
eラーニングはブームになるか?(後編)

野々下裕子
2001/6/9

 「eラーニングはブームになるか?(前編)」では、eラーニングとは何か、そして従来の教育や研修などと比較して、どこが優れているのかをお伝えした。後編では、eラーニングに関する技術の標準化動向の基本を中心に紹介しよう。

●eラーニングをとりまく技術

 eラーニングでは、コンテンツの内容に合わせて、どういう技術を組み合わせていくのかが、成功の大きなかぎとなる。中でも、今後の主力となる技術として注目されているインフラストラクチャとシステムを挙げておこう。

ブロードバンド(インフラストラクチャ)
 DSLや光ファイバといったブロードバンドによって、大容量のデータがスムースにやりとりできるようになれば、ストレスなく学習ができるようになり、提供できるコンテンツの幅も広がっていくと期待されている。

Application Service Provider(システム)
 基盤となるソフトウェアや学習ソフト、また学習内容の問い合わを行う掲示板ソフトウェアなどを、月額で低価格で利用できるASPは、eラーニングと相性のいい機能として注目されている。すでにASPを主力にしたeラーニング企業も登場しはじめている。

XML(システム)
 生徒に対してプラットフォームに関係なく同じコンテンツを提供するためには、文書中にタグを埋め込めるXML技術は欠かせない存在である。文書スタイルを記述するXSLをはじめ、ハイパーリンク機能を実現するXLink/XPointerなど、拡張性の高さからも利用される可能性は高い。

ストリーミング(システム)
 ダウンロードにせよライブにせよ、動画を使った教材はeラーニングにとって不可欠な存在。撮影や編集技術が簡単になってきたことでさらに身近なものとなっているが、アプリケーションソフトがバージョンアップし、ブロードバンドが普及すれば、コンテンツに採用するケースは格段に増えるだろう。

ストリーミングの事例
 Roseギタースクールは、ストリーミング技術を使ったビデオオンデマンドなギターレッスンを提供している。使われている映像は、スクールのオーナー自らが演奏しているところをデジタルビデオカメラを使って撮影したもので、編集もすべて自分で行っている。オーナーは、まだインターネットの速度に問題があるが、インフラの向上とともにオンラインでのビデオレッスンは普及していくだろうとコメントしている。

端末(システム)
 “いつでも、どこでも、だれでも”を実現するには、さまざまなIT端末に合わせたコンテンツ開発も必要である。PDAを利用したeラーニングはすでに始まっているが、今後は携帯電話を使ったものにまで広がるだろう。家庭内ではゲーム機の利用が期待されている。ソニーのPlayStation2をはじめ、マイクロソフトのXboxや任天堂のGAMECUBEなど、ネットワーク接続が可能な高機能端末の普及が、eラーニング市場にも影響をもたらしそうである。

端末の事例
 大塚商会は、自社の教育システム事業であるネットラーニングと協力して、国内初のPDAとインターネットを組み合わせたWBT教育システムを開発。2001年1月より本格稼働している。サービス提供先の第1号は東海大学福岡短期大学で、端末には日本IBMのPHS内蔵型WorkPad(8602-31J)を採用。PDAで教材を閲覧するために変換エンジンを開発し、コンテンツはXMLベースにすることで、PCでもPDAとまったく同じ教材を使えるようにしている。

●国際標準規格を進める動き

 eラーニングでは、動画や音声といったさまざまな技術を使ったコンテンツが増えている。そこで、家電や情報機器と同じように、標準規格を進めようとする動きがここ数年で顕著になっている(図1)。

図1 米国、ヨーロッパ、日本における標準化の全体像(ALICの資料より)

 eラーニングのメリットは、いつでも、どこでも学べるコンテンツを安価で提供できることだが、独自の規格開発を進めていては、コストもかかるし、プラットフォームによっては使えないユーザーも出てくるため、そうした問題を避けるためにも、国際的な取り組みやガイドラインにのっとったコンテンツ製作が不可欠となっている。

 米国では標準規格に対する取り組みが最も進んでおり、IEEE(米国電気電子技術者協会)が教育技術標準化委員会のLTSC(Learning Technology Standards Committee= P1484部会)を発足したり、IMS(The Instructional Management Systems)がインターネットベースの学習環境に関する各種の技術仕様の標準化を進めている。

 「AICC」(Aviation Industry CBT Committee=航空産業CBT委員会)は、パイロットの訓練にフライト・シミュレータを採用し、整備士の教育にもCBTを活用する実績があり、1993年から学習システムの規格を制定してきたため、CBTでは事実上の標準規格であった。AICCが策定した「SCORM」(Sharable Courseware Object Reference Model)は、インターネットとXMLを利用したeラーニングの新標準である。

 さらに、国防総省が中心となって運営しているADL(ADLnet/Advanced Distributed Learning Initiativ)が、2000年1月にADL版のSCORM(Ver.1.0)の提供を開始した。現在はADLとAICCが連携を深め、コンテンツ管理での仕様を一本化することを発表している。ADL版のSCORMは、実装可能で最も進んだWBTの標準規格であるとして、世界的に採用される方向にあり、事実上の標準の最短距離にいる。実際、さまざまな団体で討議されていた規格は、役割を分担し、最終的にXMLを用いたSCORMを中心にまとまりつつある(図2)。今年度中にSCORM Ver1.2、1.3、そしてVer.2.0が発表される予定だ。

図2 各規格は次第にSCORMに統一されつつある

 ヨーロッパでは、CEN/ISSSLearing Technologies WorkshopやPROmoting Multimedia access to Education and Training in EUropean Society(PROMETEUS)、Alliance of Remote Instructional Authoring and Distribution Networks for Europe(ARIADNE)などが中心となって標準化を策定している。

 そのほかに国際的な動きとしては、工業製品の国際標準化を行うISO(International Organization for Standardization=国際標準化機構)が、学習技術への対応をスタートさせている。

●日本でも国際規格標準化推進団体が発足

 日本では、一部のコンテンツは米国の標準に対応しているものの、全体的に標準化に対する意識は低かった。、それでも、これまで日本パーソナルコンピュタソフトウェア協会(JPSA)やTBTコンソーシアムといった団体が、それぞれ教材流通のための取り組みを行っていた。中でもTBTコンソーシアムは、企業内の教育研修にWBTシステムを導入する際のガイドラインをまとめている。

 ようやく2000年4月には、本格的に国際規格標準化を統合する機関として、先進学習基盤協議会(ALIC=Advanced Learnig Infrastructure Consortium)が発足した。ALICは通産省(現経済産業省)の情報処理振興事業協会(IPA)の教育・人材関連事業の一環として運用されており、活動内容は、

  1. 情報技術を活用した学習システムの相互運用性の確保、教材の再利用性の向上
  2. 次世代学習基盤の調査・研究
  3. 情報技術を活用した学習システムの普及啓発

となっている。

 具体的には、いつでも、どこでも、だれでも学習できるためのルール作りや政府への提言、国際標準などの制定、維持・管理などを行うとしている。ADLnetなどとも連携し、日本特有の決まり(例えば○×問題の○×の扱いなど)をSCORMで扱うための調整なども行っている。会員には大学・学校関係が39組織、企業・団体は141組織が登録。ちなみに設立発起人・幹事名簿には、慶應義塾大学教授の村井純氏の名前もある。

コラムI:こんなところでもeラーニング
人材派遣会社
 人材派遣会社が派遣社員の教育にeラーニングを利用するケースが増えている。中にはその仕組みをそのまま社外にも販売するちゃっかり組も……。

  マンパワー
  Etech(パソナテック)

医療
 ヘルスケア業界向けにインターネットを利用した研修プログラムを提供しているHealthStreamは、ニューヨーク市内の大手病院ネットワークPinnacle Healthcareに登録する1万500人のヘルスケア専門家を対象に、ASPベースの学習センターを利用した大規模なeラーニング研修を行うと発表している。

●教育イベントはeラーニング一色

 最新のeラーニング業界に関連する情報を手に入れるには、イベントやセミナーに参加するのが手っ取り早い。市場の盛り上がりを反映して、ここ数年でeラーニングに関するイベントは、米国を中心にかなり増えている。中には古くからある教育イベントが、eラーニング関連のタイトルへ変更したケースもかなりある。それぞれのイベントの特徴も出てきたので、目的に合わせたイベントに参加したい。

 主要なイベントとしては、米国主要都市で開催される「e-learning Conference & Expo」、米国とアジアやヨーロッパ各都市で開催される「OnLine Learning」、主に技術に関する意見交換をテーマにした「TechLearn」などがある。いずれも展示会と講演会で構成されており、出展する企業・団体数もとんとん拍子で増えているようだ。

 日本では、教育をテーマにしたイベントは少なく、3年前から毎年開催されているエデュテイメントをテーマにした「エデュテイメントフォーラム京都」以外は、地域ごとに開催されるものか、企業のプライベートイベントがある程度だった。だが、日本で初めてオンライン学習をテーマにした本格的な総合イベント「e-Learning WORLD 2001」が、7月に東京ビッグサイトで開催される(入場者は2万人を見込んでいる)。

コラムII:生き残りをかけて学生はインターネットで開拓
 米国では社会人として就職後、スキルアップのため、大学やビジネススクールへ通うのは珍しいことではない。とはいえ、できれば仕事を続けながら勉強できるのが企業にとっても社員にとっても理想である。

 大学にとっても、社会人の学生が増えるのは大歓迎である。そこで以前から通信教育制度などが整っていたが、さらに通いやすくするため、eラーニングを手がける学校が増えている。

 MBAは数多くのeラーニングコースがあるため、いまやe-MBAというカテゴリまで登場しているが、その中でもユニークな事例に「Cardean University」がある。Cardean Universityは仮想のe-MBAキャンパスで、ハーバードやコロンビアなどのビジネススクールをはじめ、カリフォルニア大学やシカゴ大学などの有名大学で運営されている。開発を行っているのはUnextというeラーニング企業で、ベンチャーキャピタルから資金援助を受けている。外部に開発を任せることで、効率を上げるとともに、コストを削減するというメリットもある。

 大学間の競争は国内はもとより世界的にも厳しくなっている。そこで生き残りをかけて、eラーニングによる越境入学に力をいれるところも増えている。国内では信州大学が遠隔授業による大学院教育を本格的に導入することを検討し、かなり大きな反響を呼んでいる。スタンフォード大学は一部の授業のみだが日本向けの講座をスタート。評判次第では本格的な参入も検討している。

 いまやブロードバンド先進国の韓国の事例では、IT技術専門学校である三星マルチキャンパスが、在米韓国人を対象にした遠隔教育サイト「eキャンパスアメリカ」を開設。韓国語が話せない在外韓国人のための遠隔教育サービスを始めると発表した。三星マルチキャンパスは1998年より遠隔教育事業に進出。現在、IT・経営・語学など250分野で事業を展開し、12万人の有料会員を保有している。

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eラーニングはブームになるか?(後編)
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