IT業界記者によるリレーコラム
IT Business フロントライン (26)
PDAはニッチ市場から脱出できるのか?
〜もう1つの敵は、やはり「iモード」か〜
三浦優子
コンピュータ・ニュース社
2001/3/2
話題の割に実際の出荷台数はそう多くない商品というものがある。PDAはその代表選手といえるのではないか。
私の会社の調査部門が出している「BCNランキング」におけるリリースには、マスコミにたくさん取り上げられるものと、反応が鈍いものがあると調査部門の人間が首を傾げていた。
どうやら、出荷台数が多いものほどマスコミの反応がよいというわけでもないようだ。市場規模は決して大きくないにもかかわらず、マスコミが取り上げたがる商品というのがあるらしい。その代表的なものがPDAだった。
■思いのほか大きくはないPDA市場
PDAの市場規模は思いのほか、大きくはない。調査会社であるIDCの発表(2000年9月)によれば、PDAの出荷台数は1999年で74万3500台であった(2004年には400万台にのぼると試算されているが)。
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参考までに、パソコンの国内市場規模は昨年1年間で1155万台(JEITA調べ、2001年2月5日発表)に上る。ソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーション2は2000年3月4日の発売日から2001年2月18日までの期間に438万台を出荷、NTTドコモのiモードは2001年3月末で累計2000万台出荷に到達する見込みとなっている。これらの出荷台数と比較すれば、PDAの市場規模が「思いのほか大きくない」ことを実感してもらえるであろう。
■熱烈なファンが支える市場
それにもかかわらず、これだけ話題になるのは、PDAが熱烈なファンに支えられた商品であるからにほかならない。
先日、あるパネルディスカッションで、コンパックの馬場副社長が2001年4月に発売予定の新しいPDAを手に携えてデモンストレーションをしたのだが、パネルディスカッションが終わった後、「あれ、いいよねえ」と話題にしている人の様子を見て、ほほ笑ましい気持ちになった。例えは悪いけれど、子どもがお気に入りのおもちゃを見つけたときはこんな様子になるんだろうなあ……、見るからにうれしそうに、「いいなあ……」というのだから。
これまで、PDAを支えてきたのはこうした「ファン」の存在だろう。パソコン業界で働いている人であれば、1人くらいはこういう熱烈なPDAファンが自分の周りにいるものだ。
だが、熱烈なファンだけを対象としているのでは、いつまでたっても、PDA市場は大きくならない。ファン以外の顧客を獲得できなければ、PDA市場は依然としてニッチマーケットのための商品になってしまうのである。
■市場規模拡大へと好転し始めた2000年
2000年は、日本のPDA市場の規模拡大に大きくプラスとなる出来事が幾つか起こった。
1つ目は、PDA製品の増加である。トリガーとなったのは、Palm OS搭載マシンの増加であった。2000年には、Palm OSを採用したハンドスプリング、ソニーのPDAが登場した。これまで、日本のPDA市場のトップは独自OSを採用したシャープの「ザウルスシリーズ」だったが、複数の企業がPalm OS搭載のPDAを発売したことで、シャープも大きな刺激を受けたようだ。
2000年末に発売された「MI-E1」シリーズは製品としての機能が強化されるとともに、テレビなどを使った宣伝も従来以上に強化された。「力入っているよね、シャープさん」という声も販売店から上がってきた。よい意味での競争原理が働き、PDA市場を活性化させる刺激を与えられたのである。
2つ目は、PDA向けのアプリケーションが国内でも急増していることだ。2年前、米国に行ったとき、「いまはとにかくパームだよ、新しいアプリケーションといえば。パソコン用アプリケーションよりも、パーム用アプリケーションの方が次々に生まれてきているんだ」という話を聞いたことがある。
日本でもそれと似たような状況が起こりつつある。パームコンピューティングが2001年2月に開催した開発者会議では、登録された開発者数が前年は1000人だったものが、4000人へと拡大していたことが報告された。米国ほどではないにしろ、日本でもPDA用アプリケーションの数が増大傾向にあることは間違いない。
■PDAの普及を支えるアプリケーションの多様化
2001年になり、いよいよPDAが本格普及期を迎えたように思う。2000年を、ホップ・ステップ・ジャンプの“ステップ”の時期であり、市場環境を変化させる出来事が起こった年だと位置付ければ、いよいよ“ジャンプ(飛躍)”が期待できる状況が整ったように思えるのである。
対応アプリケーションが増加するということは、その製品そのものの普及に大きな影響を及ぼす。Windowsが現在まで大きなシェアを獲得しているのは、アプリケーションの数が多いことと、仕事をしていくうえで不可欠なアプリケーションがあるからというのはいうまでもない。
いまのところ、シャープのアプリケーション戦略は、パームに比べてクローズだが、これもパームの動向いかんで変化する可能性もある。というのも、Palm OSを搭載したPDAを発売しているメーカーの中には、企業向けの大量受注を見込んでいる商品を発売している企業もあり、ソニーのようにコンシューマだけをターゲットとすると言い切る企業もあるのだが、これもアプリケーションの数が多くなってきたことと、必要なアプリケーションを開発できる環境がそろってきたからだといえるだろう。
果たして、こうした動きをシャープが静観したままでいられるのだろうか……、はたから見ていると非常に面白い局面を迎えている。
■もう1つの敵は、やはり「iモード」か
PDAの世界では、ザウルス、パームといったPDA同士の戦いのほかにもう1つ、大きな敵が待っている。「iモード」の存在である。米国で、次々にパーム用アプリケーションが開発されているのと同じ勢いで、iモード用サイトが誕生し、次々に新しいサービスが生まれた。今後、Java搭載型iモードが増えれば、さらに複雑なアプリケーションを搭載することも可能となる。
「両者はきちんとすみ分けをする」という見方をする人もいるものの、ユーザーの立場に立てば、「そんなにたくさんの機器を持ち歩くのは非現実的」であるのも確かだ。その意味で、日本のPDA市場拡大のカギは、PDA自身の発達とともに、iモードの動向に大きく左右されていくことになりそうだ。
| Profile |
| 三浦 優子(みうら ゆうこ) 1965年、東京都町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。 メールアドレスはmiura@bcn.co.jp |
IT Business フロントライン バックナンバー
- 第1回 2000年夏商戦 〜名実ともに躍進したソニー
- 第2回 WonderWitchが拓くPDAの新プラットホーム
- 第3回 変貌続くネット広告業界
- 第4回 最近流行のインキュベート事業に思うこと
- 第5回 「MS社員ストックオプション申告漏れ」にみる税制問題
- 第6回 ポータルサイト、女性の次は“キッズ向け”!?
- 第7回 日本の流通に一石を投じたiMac
- 第8回 オンライン・モール「楽天」だけが一人勝ち?
- 第9回 Windows Me(「ウィンドウズ ミー」)発売
- 第10回 ブロードバンドは世界を変えるか
- 第11回 マイクロソフトにとって大事なのはどっち?
- 第12回 インターネットは個人情報の敵?
- 第13回 売れているのに儲からない?
- 第14回 ITで地価高騰?地価下落?
- 第15回 年賀状作成ソフトが人気を呼ぶ秘密
- 第16回 オンライン書店、戦国時代の到来
- 第17回 ボーナスでPCを安く買う方法はこれだ!
- 第18回 三浦選!2000年を彩るニュース(1)
- 第19回 光ファイバ通信、本格化の兆し
- 第20回 三浦選!2000年を彩るニュース(2)
- 第21回 「次世代」は実現するか?
- 第22回 続!パソコンを安く買う方法
- 第23回 「マイライン」に隠された謎
- 第24回 違法コピーソフトをめぐる現状
- 第25回 インパク、利用者の不満はどこ吹く風
- 第26回 国産vs.外国製、メインフレームに変化の兆し
- 第27回 「クリック」を飲み込む「モルタル」
- 第28回 PDAはニッチ市場から脱出できるのか?
- 第29回 電子署名法が抱える悩み
- 第30回 本当にBtoCに未来はないのか?
- 第31回 電子マネー、普及の障壁
- 第32回 大人になったソフト・メーカー
- 第33回 ユビキタスで世界は変わる?
- 第34回 寝た子を起こしたリサイクル法
- 第35回 e-Japan戦略に参加しよう
- 第36回 Windows XPはユーザー志向か?
- 第37回 伸び悩むパソコン出荷
- 第38回 Lモードは、ビジネスチャンスがいっぱい?
- 第39回 ブロードバンドサービスの夜明け
- 第40回 Windows XPの重い足かせ
- 第41回 「情報化白書2001年版」を斬る!
- 第42回 光アクセス回線が生み出すデジタルデバイド
- 第43回 Bフレッツのムラはいつ解消するのか?
- 第44回 宣伝にどどまらないメールが成功のカギ
- 第45回 マイライン、大丈夫?
- 第46回 どうなっちゃうんだ秋葉原
- 第47回 景気に足をひっぱられるIT業界
- 第48回 デジタル放送の未来はどこにある?
- 第49回 パソコン専門店に迫る存亡の危機
- 第50回 ウイルスは「怖い」か?
- 第51回 逆風のいまこそ、ITの真の必要性を考え直す
- 第52回 韓国に見るブロードバンド・ビジネスの未来
- 第53回 パソコン・リサイクル料金の徴収はいつがよい?
- 第54回 全米同時多発テロとインターネット
- 第55回 集合住宅ブロードバンド化問題の深さ
- 第56回 チャプター・イレブンを連発する米IT企業
- 第57回 まだまだ奥深い集合住宅のラストワンマイル
- 第58回 情報端末化するクルマ進化の方向性
- 第59回 秋葉原、Win XP深夜販売の反応は?
- 第60回 ドコモの対策に迷惑メールを考える
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- 第62回 FOMAの実力・サービス2カ月間の実感は?
- 第63回 Windows XP不発、変化を迫られるPCビジネス
- 第64回 ウイルスメール、最大の対策は?
- 第65回 パッケージソフトが見せる次なる進化の方向
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- 第67回 IT業界にとってテレビCMは有効か?
- 第68回 インパクの“失敗”を総括する
- 第69回 迷惑メール、規制の動きと有効性
- 第70回 パソコン紛失で経験したドタバタ劇
- 第71回 本格普及迫る“IP電話”の課題を考える
- 第72回 メガバンクに見るITへの意識
- 第73回 進まない地上波テレビのデジタル化
- 第74回 社会的弱者のためのインターネット
- 第75回 モバイルはネットビジネスの主役か?
- 第76回 銀行界を震撼させたネットバンキング不正送金
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