第7章 分析システム 〜システムを効率化する顧客セグメンテーション〜eCRM実現のためのメソドロジー入門(7)(2/2 ページ)

» 2001年06月23日 12時00分 公開
[松尾順,@IT]
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[2]分析システム運用上のポイント

図2 分析システムのホッパー図 図2 分析システムのホッパー図

 さて、図2に戻って、分析システムを構成する要素を見ましょう。ホッパー図の右側にある2つの要素です。1つは「分析手法」、もう1つは「IT施策」ですね。

分析手法とIT施策

 分析手法とは、要はマーケティングリサーチやデータマイニングで利用されるさまざまなデータ分析テクニックのことです。いわゆる統計解析の範疇に入るクロス分析やクラスター分析、因子分析、回帰分析といった多変量解析、データマイニングのテクニックとして代表的な決定木(デシジョンツリー)分析、アソシエーション分析といったさまざまな手法を駆使し、顧客の実態やニーズをできるだけ多面的に把握して、CRMシステムにインプットしたい顧客をグルーピングして取り出すのです。

 また、どのようなデータ分析テクニックを利用するにしろ、CRMシステムにおいては、通常、数千人から数百万人の顧客といった大量のデータを扱いますので、情報技術を活用しなければとても対応できません。従って、分析システムのためにどのような情報システムを構築するのか、というIT施策も不可欠です。

してはならない考え方

 さて、本章では、個別のデータ分析テクニックを解説することが目的ではありませんので、分析システムを機能させるに当たって注意すべき、多くのマーケティング担当者が陥りがちな考え方についてお話ししましょう。

 それは、「望ましい顧客をグルーピングするための基準が分からないから分析できない!!」と考えてしまうことです。「有効なセグメント基準が設定できない」ということをいっているのですが、実はこのような考え方をしてしまうと、いつまでたっても分析システムを走らせることができません。正しくは、「分析システムの実践を通じて、有効なセグメント基準を発見していく」と考えるべきなのです。

 分析システムの意義は、マーケティング・システムなどの、ほかの下位システムの効果・効率を向上させるために、あるセグメント基準に基づき、望ましい顧客をより分けることにあるのですから、「有効なセグメント基準を発見できるかどうかがすべて」といってもいいほど重要なポイントです。

セグメント基準の見つけ方

 では、どうやって有効なセグメント基準を設定、あるいは発見すればいいのでしょうか。

 答えは、「仮説立案→テスト→検証」の繰り返し、です。さまざまな分析テクニックを用いて顧客データを分析すれば、確かに顧客をふるいにかけるためのセグメント基準を取り出すことができます。しかし、その段階ではまだ、そのセグメント基準はたぶん有効だろう、という「仮説」にとどまっています。従って、それが有効であるかどうかは、実際のマーケティング施策を小規模のテストで試して検証する必要があります。例えば、自社製品の見込み客となり得る人々は、「年齢」というセグメント基準でふるいにかけることができそうだと分かったとして、それが本当に正しいかどうかは、年齢別に実際に電子メールでのマーケティングをやってみて、年齢による反応の差があったかどうかを検証しなければならないのです。

 つまり、最初から「有効なセグメント基準が設定できない」という考え方をするのではなく、望ましい顧客をグルーピングするためのセグメント基準は、「仮説立案→テスト→検証」の繰り返しで徐々に洗練されていくものであり、積極的に見いだしていくべきものであると考えていただきたいのです。それは時間と根気が必要とされるプロセスであることもまた、理解していただきたい点です。

 なお、参考までに、一般的にはどのようなセグメント基準があるのかを示しておきます(表1)。

地理的基準 国、都市・地方、気候
デモグラフィック基準 年齢、性別、家族構成、収入、職業、学歴
サイコグラフィック基準 ライフスタイル、性格
購買・消費行動基準 使用機会、ベネフィット、使用頻度、製品に対する愛着度
表1 代表的なセグメント基準


分析システムのIT施策に不可欠な統計解析ツール

 さて、最後に、大量の、企業によっては気の遠くなるような数百万件にも上る顧客データを分析するために不可欠なソフトウェアについて簡単に触れましょう。

 まず、統計解析ツールとして実績があるソフトウェアとしては、「SPSS」「SAS」が代表的です。どちらもパソコン上で利用でき、簡単な操作で分析を行うことができます。以前に比べてパソコンの性能も向上していますので、その昔であればスーパーコンピュータでないと結果が出るまでに時間がかかりすぎるというような大量のデータであっても、いまでは数秒r1r1matsuo0数分以内で分析が終了するようになりました。より手軽に、現場レベルで分析ができるようになったわけですね。

 また、データマイニングツールとしては、「SPSS」、「SAS」でもそれぞれ対応するソフトウェアを開発しています。SPSSでは、Webマイニングツールと称して「Clementine」が発売されていますし、SASでは、「Enterprise Miner」を出しています。IBMでもデータマイニングツールの開発に力を入れていて、「Intelligent Miner」というソフトウェアがあります。

 これらのソフトウェアは、おおむね、顧客データを分析するためのひととおりの分析手法が行えるようにはなっていますが、ソフトウェア選定に当たっては、それぞれの分析機能の特徴が自社の分析ニーズに合致しているかどうかを十分に検討する必要があります。

まつおっち先生の“ココがポイント”

分析システムの実践のコアは、「仮説立案→テスト→検証」のプロセスを繰り返し行うことである。顧客グルーピングそのものも、セグメント基準の確立も、徐々にしか洗練させることはできない


 次回、第8章は、マーケティング・システム、セールス・システム、サービス・システム、分析システムの4つの下位システムがうまく連係して機能できるようにするためのシステム統合をどのように行うか、すなわち、「インテグレーション」の問題についてお話しします。

※本文中に「まつおっち先生の“ココがポイント”というコーナーがでてきますが、「まつおっち先生」とは、筆者の松尾氏が仲間内では“まつおっち先生”と呼ばれて いることに由来しています。
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