eマーケティングの現場から
技術者向けの、eマーケティングTIPS(19)
eマーケティングの水際
水島 久光
2001/5/19
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僕の職業はなんですか? と尋ねられると、これまで“マーケターです”と答えるようにしてきた。それは、分かりやすいからである。資本主義社会である以上、マーケットはそのるつぼであり、マーケットを「金融市場のこと」「消費市場のこと」「BtoCからBtoBまで含む、すべての取引の場」といった、世間でいわれているどの意味で理解したとしても、その交換の“場”におけるエンジニア=マーケターであるという意味では揺らぎがないからである。
しかし、「ミズシマ」という僕自身と「マーケター」は“=”では結ばれない。職業であるからだといえばそれまでだが、(いや、職業であるからこそ、その職業でできるだけ社会とかかわっていきたいと考えるのだが)どう考えても「ミズシマ」⊃(含むことの)「マーケター」なのだ。集合体としての「マーケター」を考えると逆の記号(⊂)かもしれないが、いずれにしても「ミズシマ」の一部分がその集合体に含まれているにすぎない。しかも最近、どんどんその部分が小さくなってきているように思われるのだ。
問題は、“エンジニア”というコンセプトにあるのではないか……と最近気が付いた。エンジニアには「操作する対象」があって初めてその存在がある。これは、文科系、理科系すべてのエンジニアがそれに当てはまると思う。そうか、僕らは徐々に「操作する対象」を失ってきているのだ。
なんてことをいうと、皆さん理系のエンジニアの方々は「そんなことはない、どんどん仕事は増えているし、作らなきゃいけないプログラムは山のようにある」とおっしゃるかもしれない。それはそのとおり。全然否定していません……。というより、そのことが僕にとってはますます「操作する対象の減少」を象徴しているように思えるのである。
遺伝子万能主義には訝しいものを感じるのだが、例えば、ゲノムの解析なども、ある程度行きつくところまで行っているらしい。あとは、いかに応用するかだけだ……というのだが、どうだろうか。遺伝子操作しかり、逆にいろんなことが分かりすぎることによって、さまざまな事象(それが経済的なことでも、生物的なことでも、いいのだが)が生起(起こったり、起こらなかったりすること)するには、ものすごい数限りのないファクターがかかわっていることを僕らは認識できるようになって、余計判断することの難しさに直面しているのが実情ではないだろうか。
つまり、あまり知識がないときには、無邪気にいろんなことができたのが、ある程度「知る」ようになってくると、“自分が知っていること以外にも、このことにかかわっている重要な要因があるのではないか”ということが絶えず気になってくるのだ。
インターネットのすごさは、3つに集約されると思う。1つは実際、多くの物理的な制約を取り払ってくれているということ。時間、距離はその代表的なものだが、これが「昔のシステム」と比べると、著しく“予測不可能”なことを増やしているのだ。
インタラクションというと「相互能動性」という、素晴らしく自由でポジティブなもののように聞こえるが、実際は、コントロールすべき時間軸を失った状態であるともいえる(例えば、手紙でのやりとりであれば、相手に送ったその日には、「確実に」返事は返ってこないという時間軸を持つことができる)。いつ、どこからやってくるとも限らないコミュニケーションの矢に対して、僕らはどう対応したらいいのだろうか。
2つ目は、記録に残ることである。すべてデジタル信号に変換されているということは、超々々標準化の世界である。でも、世の中が統制的に見えないのは、あくまで標準化されているのは「媒体」の中だけであって、僕らが存在するリアルの世界のアウトプットにはあまり影響はない。それどころか、媒体の中で記録可能であるということは、いろんなことを知ることができる可能性が高いということだ。さっきも申し上げたように、知ることは「無邪気に操作できなくなる」ことでもある。
3つ目は、シミュレーションの可能性である。知ることができる、だからこそ、ある安全な領域を設けて試行し、そこで失敗してもやり直すことができる。僕らは、学びながら少しずつ歩みを進めていくことができるのだ。
これら3つの特徴は、残念ながらマーケティングに代表される20世紀の操作主義とことごとく矛盾する。1つ目はともかく、2つ目、3つ目には首をかしげる方も多いのではないか? ごもっともである。マーケティングには調査がつきもので、その意味では2つ目と大きくかかわるし、マーケティング技術としてのシミュレーションも非常に重要である。
しかし、僕らはインターネット時代の記録性によって、ますます「予測不可能性」に出合い、立ち止まり、シミュレーションによって、これまでのマーケティングが何よりも重視していた「スピード」に制御を加えていくのだ。従って、今日、目に見えているエンジニアたちの課題の多くは、こうした矛盾の中で処理の効率をいかに高めていくのかという戦いである……ともいえる。
マーケティングを支えていた枠組みは、商品の供給側(主体)としての企業とその操作対象としてのマーケットの存在である。インターネット……というよりネットワーク社会が僕らに教えてくれたものは、まったくこの枠組みと逆の「僕らはマーケットの外にいるのではなく、マーケットというネットワークの中にいる存在なのだ」という事実である。すべての行為は自分に降りかかってくるということである。これに一度気付いてしまったら、もはやなかなかマーケティングの持つ無邪気さには戻れない。
でも、相変わらず机を離れれば、街は資本主義社会(だいぶ変わってしまってはいるが)である。ある限定した「操作環境」の中では、まだまだマーケティングは有効であろう。その水際がどこにあるのかを、僕は知りたいと思う。手がかりはある。“すべての行為は自分に降りかかってくる”ということだ。つまり図式は、「対象を操作する」ことから「影響を与え合う=変化する」ことに大きくシフトしている。そんなわけで、僕もネットワーク社会の影響を受けて、これからも“変わり続けよう”と思っている。
水島久光氏による「技術者向けの、eマーケティングTIPS」は今回で終了です。
ご愛読ありがとうございました。
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Profile
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水島 久光(みずしま ひさみつ) ( sammyhm@jcom.home.ne.jp ) |
| 1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、編成部長をつとめ、2001年4月末でインフォシークを“卒業”。現在は、東京大学大学院に入学し、文・理系を横断する“情報学”を追求する一方、流しのマーケッ
ターとして修行中。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著) Web広告研究会が最近発刊した「バナー広告効果実証実験報告書」(お問い合わせはsec@wab.ne.jpまで)においても執筆している |
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技術者向けの、eマーケティングTIPS バックナンバー
- 第1回 ECと電子商取引のはざま(その1)
- 第2回 なぜ日本では「EC」がもうからないのか?
- 第3回 Webサイト、メディアとしての将来性
- 第4回 システムダウンに思うこと
- 第5回 One-to-Oneの起源
- 第6回 ナレッジマネジメントの落とし穴
- 第7回 「競争」と「普及」のダイナミズム(1)
- 第8回 「競争」と「普及」のダイナミズム(2)
- 第9回 グローバリティとローカリティ
- 第10回 アライアンスとアウトソーシング
- 第11回 オンライン・ブランディング症候群
- 第12回 ブランドの存在する場
- 第13回 なぜ、DMはスパムでないのか
- 第14回 調査につきまとう「不確かさ」
- 第15回 世論というまがまがしさ
- 第16回 バイラルの正体
- 第17回 もう1つのブロードバンド論
- 第18回 インターネットを生業とする人々
- 第19回 eマーケティングの水際
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