800億円ものお金をかけ開催された沖縄サミットでは、IT革命を主要テーマに掲げ、「ITの潜在成長率を高めるとともに、民主主義の強化を通じて国際的な情報格差の是正に取り組むため、新たに作業部会を設置し、来年の伊ジェノバ・サミットに報告書を提出する」という「沖縄IT憲章」が採択されました。
しかし、「IT革命」を「イット革命」と読んだり、携帯電話とPHSの区別すらつかない総理に、今回の「IT憲章」の本当の意味が理解できたのでしょうか。非常に不安です。この「沖縄IT憲章」のために日本が支払うと公表した金額は1500億円。サミット開催国とはいえ、大風呂敷を広げてくれたものです。米国は、現時点においてその負担金額すら発表していませんが、結局は、IT先進国である米国にほとんど吸い上げられてしまうのではないでしょうか?
日本国内でも、IT革命のために、民官ともに「民営主体」「ベンチャー育成」といっているものの、こと税金面に目を向けるとなかなかそうは思えない状況にあります。
というわけで今回も、未公開株の売買にまつわる税金について、特に個人間の取引について解説をしていくことにしたいと思います。
第1回の「株式公開と創業者利益」でも解説しましたが、株式を売買した場合には、未公開、公開に関係なく、売却時にそのキャピタルゲインについて売却した個人に、原則、下記のような税金が課せられることとなっています。
税額
=(売却価額−購入価額−売買にともなう経費)×26%
=売却益×26%
ただし、公開株式の場合は、現時点においては源泉分離課税(売却価額×1.05%)という選択肢もあり、その選択は任意とされています。一方の未公開株式の場合は、残念ながら源泉分離課税の選択肢はありません。
なお、「売却価額−購入価額−売買にともなう経費」がマイナスになる場合は、原則的な課税方法を選択すれば、税金はかからないことを付け加えておきます。
さて、実はここに1つ大きな問題があります。それは、未公開株式の場合、売却価額を一体いくらにするのが妥当かという問題です。
公開株式の場合、この売却価額には取引所の相場がありますから、市場原理にしたがって、日々取引価額が自然と定められています。
ところが、未公開株式の場合、このような取引所の相場がありませんので、この売却価額は取り引きをする両者の合意によってのみ決定されることとなり、非常に恣意性の高い価額となってしまいます。これは民法上では有効でも、両者によっていかようにでも税額を操作できるため、公平性に欠けるという理由から、税法上では認められません。
そこで税法では、相続税法と所得税法により、未公開株式といえどもこの適正な売却価額を時価と定め、時価からかけ離れた価額で株式が売買された場合の税金を、下記のように課することを定めています。
[売却した個人]
税額
=(売却価額−購入価額−売買にともなう経費)×26%
=売却益×26%
[取得した個人]
課税なし
[売却した個人]
税額
=(売却価額−購入価額−売買にともなう経費)×26%
=売却益×26%
[取得した個人]
税額
=(時価−売却価額)×税率(10%〜70%)
ここで注目したいのは、時価より低い価額で売却した場合は、取得した個人にも10%から最大70%もの贈与税が課せられるという点です。これは売却した個人から取得した個人に対して、その差額が贈与されたものとして課税されています。
しかし、この場合、取得したのは未公開株式ですから、贈与税を支払う元手として、取得した株式を売却して資金を作るというわけにもいきません。くれぐれも注意が必要です。
こうなってくると、未公開株式では、一体いくらが時価とされるのかという点に注目が集まります。税法では、未公開株式の時価を下記のように評価するよう指示しています。
一般の評価会社の株式
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原則的評価方式
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大会社
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類似業種比準価額方式
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中会社
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類似業種比準価額方式と純資産価額方式との併用
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小会社
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純資産価額方式(併用も可)
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特例的評価方式
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配当還元方式
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特定の評価会社の株式
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同族会社等の株式
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株式保有特定会社
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純資産価額方式(簡便方式も可)
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土地保有特定会社・開業後3年未満の会社等
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純資産価額方式
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特例的評価方式
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配当還元方式
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開業前または休業中の会社
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純資産価額方式
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清算中の会社
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清算分配見込額の複利現価方式
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しかし、専門家でもない限り、この表を見ただけでは一体どのような方法により評価したらよいのかよくわかりません。ではもう少し具体的に解説していきましょう。
未公開会社の場合、その会社の評価は「純資産価額方式」が原則として採用されます。純資産価額方式とは、評価会社の正味財産に応じて評価する方法です。つまり、売買時点における資産から負債を差し引いた価額で評価をすることとなり、1株当りの価額は次のようにして求めることができます。
株価
=(資産−負債)/発行済み株数
しかし、最近は未公開会社といえども第三者割当により多額の資金を調達し、従業員もかなりの数に達する会社も増えてきました。そうなると、その会社規模にしたがって下記のような会社区分にしたがい、評価方法も「類似業種比準価額方式」または「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」の併用による評価をする必要も出てきます。
取引高
総資産 従業員数 |
8000万円未満 | 8000万円以上 20億円未満 |
20億円以上 |
4千万円未満 5人以下 |
小会社純資産価額方式(併用も可) | 中会社類似業種比準価額方式と純資産価額方式との併用 | 大会社類似業種比準価額方式 |
4千万円以上 (5人以下を除く) |
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10億円以上 (50人以下を除く) |
「類似業種比準方式」とは、評価会社と業種が類似する上場会社の平均株価に比準して価額を求める方法ですが、この方式を用いて株価を評価されると、現在、上場会社の純資産倍率(PBR)が比較的高いIT業界は、他業種に比べ株価が割高になってしまい不利となるかもしれません。
いずれにせよ、税法で定める株価の評価には、ここでは解説しきないような部分が非常に多くあります。また、未公開株式の売買にかかわる税金は源泉分離課税がない以上、そのすべてを確定申告する必要があります。
ところが、やはりというか、未公開株式の売買に関してはその株価の評価が誤ってたり、申告をしていないケースが数多く見受けられ、国税側もそれを狙って調査を進める傾向がみられるようです。事実、ここ数年、このように国税庁からの指摘を受け追徴された件数が急増しています。
確かに未公開株式の評価は面倒であり、売買取引も表に出にくいかもしれません。しかし、指摘を受けた場合の加算税、延滞税の重さを考えると、専門家に相談をしながら、確実に確定申告をしておくことをお勧めします。
ちなみに、正しく申告をしなかった場合の付帯税について、参考まで以下にまとめておきます。
種類
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内容
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税額
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延滞税
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法定納期限までに税金を納付しなかった場合に課税される附帯税 | 法定納期限後に納付した本税に対し、納期限の翌日から2ヶ月間は年7.3%、その後の期間は14.6%の割合で課税 |
過少申告加算税
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期限内に確定申告書を提出した後、修正申告書の提出又は更正によって追加税額が生じた場合に課税される附帯税 | ・原則としてその追加本税の10% ただし、その追加税額のうち期限内確定申告額又は50万円のいずれか多い金額を超える部分については15%の割合で課税 無申告加算税 |
無申告加算税
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期限内に確定申告書の提出がない場合で、納付すべき税額があった場合に課税される附帯税 | ・その納付税額の15% ただし、更正又は決定があると予想される前に申告した場合は5%の割合で課税 |
重加算税
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過少申告加算税などが課税される場合において、仮装・隠ぺいにより申告している場合にその過少申告加算税などに代えて課税される附帯税 | ・過少申告加算税に代えては、その追加本税の35% ・無申告加算税に代えてはその納付税額の40% ・不納付加算税に代えては、その納付税額の35% の割合でそれぞれ課税 |
例えば、未公開株の売却益1000万円を隠蔽し、無申告だったことが1年後の調査により発覚した場合、本来260万円で済むはずの税金が、386.7万円ということで、実に48.7%増しの税金を支払うことになる場合があります。
本税 | 1000万円×26%=260万円(住民税込み) |
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無申告加算税 | 1000万円×20%×15%=30万円 |
重加算税 | 1000万円×20%×35%=70万円 |
延滞税 | 1000万円×20%×7.3%×2/12+1000万円×20%×14.6%×10/12=26.7万円 |
合計 | 386.7万円 |
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