〜 第2回 2つのオプトイン・メール 〜「リスト・オプトイン」と「ブランド・オプトイン」 最新!e-mailマーケティング事情

» 2001年01月31日 12時00分 公開
[武田一也,BFJCコンサルティング代表]

<今回の内容>

・オプトインって何?


・オプトイン・メールが注目を集める理由


・何に基づくオプトインなのか?


・既存企業がオプトイン・メールを活用する


・オプトイン企業の課題は何?


・「リスト・オプトイン」と「ブランド・オプトイン」の違い


・受信者の情報を常にアップデートすることで反応率を高める


・リスト・オプトインからブランド・オプトインへの転換



 顧客をつかみ、効率よく収益をあげるためのe-mailマーケティングに、昨今話題のオプトイン・メールは欠かせない。その効用をちょっと考えてみよう!

オプトインって何?

 オプトインについてはいろいろな定義がありますが、ここではウェルコム・ジャパンの前田健二氏の「広告の対象者との合意あるいは積極性を前提に行われる広告」という定義を使用します。

 インターネット広告業界でいわれるオプトイン・メールとは「オプトイン・メール主催者が広告主からのメール広告の受信者をWeb上で募集し、受信希望者の趣味・し好・属性をデータベース化して広告主の指定のターゲットにメール広告を配信する」ものと前田氏は定義しています。

 さて、皆さんは1日にどれくらいの電子メールによる広告を受け取っているでしょうか?

 フォレスターリサーチの調査(2000/01;「The Email Marketing Dialogue」;Jim Nail)では2004年には1999年の約60倍の広告メールが米国で配信されると予測しています。ということは、私の場合は1日になんと450通を超える電子メール広告が送られてくる(!)ことになるんでしょうね。なんとも恐ろしいことです……。

 このような状況はすでに米国では問題化しています。そのために、オプトイン・メールとスパム・メール(迷惑メール)の境界を明確にすることが必要になってきているのです。

オプトイン・メールが注目を集める理由

 1999年12月から2000年2月にかけてプライスウォーターハウスクーパースが米国・日本・ヨーロッパのインターネット・ユーザー合計約5000人を対象に行った調査によると、一般的なユーザーは「インターネットに接続している時間の84%をメールに費やしている」ことが分かりました。

 それだけの時間がメールに費やされている状況下では、効果的な広告をすることが可能なオプトイン・メールを活用したキャンペーンをもはや無視することはできないでしょう。

 私自身、日本でも短期的にはオプトイン・メールのサービスを提供している企業は2001年から2002年の前半にかけては大幅に伸びるであろうと予測しています。

何に基づくオプトインなのか?

 ウェルコム・ジャパンの前田氏が定義している「……データベース化してうんぬん」の部分を受信者の立場から言い換えるとすると、「受信者が自らすすんで属性を登録し、広告主が広告メールを配信するリストに参加することに同意した」ことになります。

 受信者にとって、このオプトイン・メールは広告主が不特定多数ということが前提です。広告主が不特定多数であることのメリットは、オプトインして待っているだけで、興味のある、または欲しい情報をそれらの広告主から送ってもらえる、つまり、自分で探す必要がない(労力をかけなくてもいい)ということになります。言い換えれば、「時間と労力をかけずに情報が手に入る」ことが重要なインセンティブになります。

既存企業がオプトイン・メールを活用する

 オプトイン・メールが2001年から2002年にかけては結構ブレークするのではないか、とすでに述べました。その理由の主たるものに、既存企業(オールドエコノミー企業、つまり、Web上での活動やEC(Electronic Commerce:電子商取引)にこれから参入しようとしている企業のこと)の、これから本格的にECにおける自社の売り上げを向上させようとする動きが活発になってくることが挙げられます。

 これらの企業群は従来行ってきたマーケティング活動のノウハウの蓄積を武器にWebでのマーケティング活動を活発化させると考えられます。また、既存チャネル(店舗、営業マン、コールセンターなど)とインターネット・チャネルとの融合戦略も当然のごとく視野にいれています。いわゆるクリック&モルタル戦略です。

 ここでの問題点は「短期的な成果を獲得するためにアプローチすべき電子メールアドレスのデータベースがない(あっても電子メールアドレスの数自体が少ない)」と、いうことにつきます。ということは、いままで蓄積されたノウハウでターゲティングし、自社のWebサイトへ誘導するための手段としてオプトイン・メールを活用しようという企業が一気に増えるはずです。

オプトイン企業の課題は何?

 e-mailマーケティング業界におけるオプトイン企業の課題としては、「オプトインに参加する会員の獲得コストを最小限に抑えながら最大の効果(会員数)をあげる」ことが必要です。

 しかしながら、多くのオプトイン企業は会員を集めるためのキャンペーンを実施しています。例えば現金1000万円プレゼントとかPC関連商品、高級自動車などの懸賞を用意しています。

 こうした場合、受信者側には、懸賞目当てというインセンティブが働くことになり、リストに参加したとしても、短期間のうちにオプトアウトを招く可能性があります。

「リスト・オプトイン」と「ブランド・オプトイン」の違い

 いままで述べてきたのは受信者がWeb上で不特定多数の広告主から広告メールを受け取ることに同意したオプトインのことでした。私はこのタイプのオプトインを「リスト・オプトイン」と呼んでいます。つまり、受信者がオプトイン企業の広告配信リストに参加していることに同意しているということです。

 一方、ある特定の広告主に対して、不特定多数の受信者がオプトインするものも存在すると私は考えます。例えば、Web上で何らかの商品を購入する画面で(多くは購入が完了する画面)、そのWebショップのキャンペーン情報や実在する近所の店舗からの情報を届けてもいいかどうかを尋ねてくることがあります。

 すなわち、顧客(=受信者)から見た場合には「購入」というイベントがあって、なおかつ「(イベントに基づいて)自分に有利な情報を提供して」くれるのではないかという期待感がここにはあります。

 顧客(=受信者)と企業が明確に「あるイベント(購入だけに限らず、質問・問い合わせ、カタログ請求なども含む)」をきっかけに相互の関係性を深めていこうというのがこのタイプのオプトインです。

 当然ながら、受信者にメッセージを発信するのは特定の企業です。このようなオプトインの形態を私は「ブランド・オプトイン」と呼んでいます。顧客(=受信者)がオプトインした理由は「その特定の企業または特定の製品/サービスに対しての興味や信頼感」です。

 簡単にいうと、顧客(=受信者)がオプトインする対象は関係性を維持したいと思っている特定企業(ブランド)だからです。下記の表1と図1に「リスト・オプトイン」と「ブランド・オプトイン」の特徴をまとめました。

リスト・オプトイン ブランド・オプトイン
広告主との関係 なし あり
同意する動機 情報収集の容易さ、懸賞 情報に対する期待感
アドレス収集の容易さ 容易(短時間で可能) 難しい(時間がかかる)
反応(クリック率) 時間とともに低下し、最悪0%になる 一定の割合で低下するが、ある特定のラインで下げ止まる
表1 2つのオプトインの特徴
ALT 図1 2つのオプトインの形態

受信者の情報を常にアップデートすることで反応率を高める

 リスト・オプトインの手法は、懸賞などを使って短期間で大量に電子メールアドレスを収集することができます。ブランド・オプトインは顧客(=受信者)との最初のイベントがない限り成立しにくいのです。そのために、電子メールアドレスの収集には時間がかかります。

 双方にいえることですが、電子メールアドレスとその属性のメンテナンスは絶対に必要です。例えば、半年ほど前のことですが、私は住宅を購入するための情報収集の目的でWeb上からリスト・オプトインをしました。

 しかし、先週、ある住宅会社と契約してしまったので、いまの私にとっては「住宅・マンション」のカテゴリの情報は意味を持たなくなっています。さて、こうした場合、私は積極的に自分が参加したオプトインのカテゴリを修正するでしょうか?

 答えはNOです。大半の人は、同じようなことがあった場合、カテゴリの修正などしないでしょう。となると、たとえオプトインされた広告メールであっても、ゴミ箱へ直行する運命となります。しかも、こうなると、オプトイン・メールといえども、受信者にとってはスパム・メールと同じ扱いになってしまいます。

 ですから、受信者に関する情報を常に更新するための努力を怠ってはなりません。相手に任せていたら、次の世紀になっても情報は更新されずじまいです。一般的に、受信者というものは私のように「グズで怠けもの」だということをお忘れなく。

リスト・オプトインからブランド・オプトインへの転換

 小売業(地方のスーパー)の例です。立派な店舗をつくりました。しかし、だれも開店していることにさえ気付きません。そこで、店長は新聞に折り込み広告を入れました。すると、いくらかのお客さんは来ましたが、チラシを入れるのを止めると、またすぐお客さんが減りました。店長はチラシを入れることでお客が来ることは分かりました……。

 こうした悩みはリスト・オプトインにもいえるかもしれません。いったん店舗(=Web)に来てくれた顧客に対して「次回も来てくれる」ような施策がここでは欠けているので、常に新規顧客の獲得に悪戦苦闘しなければならないのです。これでは、店舗(=Web)へ集客するためのコストが売り上げ利益よりも上回ってしまうことも容易に想像できます。

 このような事態を招かないためにも、早い段階で顧客(=受信者)をリスト・オプトインから自社の顧客、すなわちブランド・オプトインへ転換させる必要があります。

 さて、リスト・オプトインとブランド・オプトインとではどれくらい反応が違うのでしょうか? 下記の反応率をイメージ化した図2をご覧ください。

ALT 図2 リスト・オプトインとブランド・オプトインそれぞれにおける反応率の違い

 リスト・オプトインでは時間を経るに従ってクリック率が下がっていきます。一方のブランド・オプトインの場合は一定以下には下がりません。これがいわゆる「ブランドのステッキネス(誘引度)」といわれているものです。

 リスト・オプトインに基づいて配信されるメールの内容に対する興味は時間とともに薄れていきます。懸賞目当てであるならばなおさらです。弊社で扱ったe-mailマーケティングプロジェクトの事例では「ブランド・オプトインに参加している期間が長いほど、その会員のクリック率は高くなる」ことも分かっています。これなどはまさにブランド・オプトインの成功事例といえるでしょう。

 前回お話ししたeCRMでの効果と効率はここでも当然狙います。顧客を短期的に「獲得」するための手段としてまずはリスト・オプトインを利用し、そこで獲得した顧客を「維持」「育成」するためにはブランド・オプトインへの転換が必須です。そして、リスト・オプトインからブランド・オプトインへのスイッチのタイミングが早ければ早いほど、顧客の維持率は高くなります。

 さあ、e-mailマーケティングを成功させたいのなら、この転換を促すためのキャンペーン戦略を考えましょう。

著者プロフィール

武田 一也(たけだ かずや)

明治大学卒業。トステム株式会社にて営業およびマーケティングを担当。1997年8月アメリカ国際経営大学院にてMIM(国際経営学修士)取得。1997年9月よりプライス・ウォーター・ハウス・クーパース・コンサルタント(現PwCcコンサルティング)に入社、CRMチームリーダーとなる。流通業、製造業を担当。2000年10月ビッグフットジャパンにてCEO/代表取締役。2002年2月よりBFJCコンサルティング代表となる


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