Webからの知見、見つけた論文の読み解き方安藤幸央のランダウン(48)

「Java News.jp(Javaに関する最新ニュース)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします(編集部)

» 2009年09月08日 10時00分 公開

もう1度いう。論文は、難しくない

 前回の記事「IT系でも活用しなければ損。論文を読んで広がる知見」で“論文”の検索サイトなどを紹介したところ、予想以上の反響がありました。論文は、研究者だけではなく、IT事業にかかわる人、プログラマ/エンジニアにとっても、大いに役立ち、ニーズがあることが分かりました。

 しかし、世の中には論文の「書き方」に関する書籍やWeb上の情報は数多くありますが、「読み方」に関しては、各人がおのおのに見つけ出した手法で読み解いているのではないでしょうか? また読み方も、皆同じではなく、企業の研究者の立場、研究テーマを考えなければいけない学生の立場など、状況に応じて「読み方」のコツも変わってくるでしょう。

 今回は、興味深い論文の、読み解き方などを紹介します。

知見を得るための心得

 世の中にはさまざまな分野の学会や学会誌(論文集)があります。そして、数多くの論文から、自分にとって役立ち、参考になる情報が書かれている論文を見つけるまでが、最初の難関です。

 最初は、広く浅く多くの資料を調べましょう。キーワード検索などで、関係分野の論文をどんどん見ていくのです。その後、興味のある事象や、役立つ事柄を見つけたら、今度は狭く深く探していくのが得策です。

多くの文を素早く読む

 まずは、多くの文を素早く読むのがお勧めです。時間をかけて熟読するのは、「これぞ」という論文に出会ってからでも構いません。速読術を学ぶほどではありませんが、ある“コツ”をつかむと短時間で多くの文章を把握できます。

 論文の場合、文頭に数十〜数百文字(英文であれば、数十語)で論文全体のアブストラクト(Abstract、要約)がまとめられています。アブストラクトには、論文全体の趣旨が簡潔にまとめてあり、タイトルの一文からは判明しなかった中身を短時間で的確に把握できます。

図1 論文「Bigtable: A Distributed Storage System for Structured Data」の1ページ目(赤線で囲んだ部分がアブストラクト) 図1 論文「Bigtable: A Distributed Storage System for Structured Data」の1ページ目(赤線で囲んだ部分がアブストラクト)

段落ごとに内容を把握

 また、アブストラクトを読んで興味を持った場合、1文1文、全文を頭から読むのではなく、段落ごとに段落全体をとらえて、内容を把握するのが速く読むコツです。的確に書かれた論文であれば、段落の最初の1文を読むだけで、段落全体の概要を把握できることが多いからです。

論文全体を読み取る5つのポイント

 さらに、論文全体を読み取るポイントとしては、以下のものがあります。

  1. 問題は何?
  2. 既存の研究や、解決方法は何?
  3. この研究ではどう解決したのか?
  4. その根拠や、テストの方針・結果はどうだったのか?
  5. 今後の課題は?

メモを取ろう

 そして、読みながら気付いたポイントや、良いアイデアはメモを取るようにしましょう。後日、論文を探すときにタイトルを忘れていても、メモから探し出すことができるからです。

 全体の概要がつかめたら、さらに最後のまとめの部分を注意深く読むと、読み手側の思考もまとまるでしょう。

“みんな”で論文を読む。「輪講」のススメ

 また、同志を集めて、論文を読み解く「輪講」を開催するのもお勧めです。「輪講」の場合、1人1本〜複数本の論文を読み解き、概略をほかの皆に説明します。

 自分1人で読み解ける論文の量には限りがありますが、ほかの人が読み解いた論文も説明してもらえると、トータルで大量の論文を把握できるのが輪講の良いところです。

Webの論文は「積読」でよい

 インターネットで見つけた論文のWebページや、PDFファイルなどは、個人的にどんどん保存しておきましょう。研究者は大学間や企業間で異動や移籍する場合も多いので、Webページのブックマークだけではなく、論文が書かれたページそのものや、PDFファイルを保存しておくのが得策です。

 興味のある分野、今後役立ちそうな論文を見つけたら、保存だけしておくのもよいでしょう。書籍でいうところの「積読(つんどく)」です。書籍の積読はなにか後ろめたいですが、論文の場合、アブストラクトだけさらっと読んでおいて、保存しておけば、後々役立ちます。何かのきっかけで「そういえば、あの論文が参考になるかも!」と思い出せるからです。

 そのときになってから詳しく読み始めても、遅くはありません。論文の積読は、情報の幅を広げておくのが目的だからです。

便利なツールで個人“図書館”を作ろう

 また、便利なツールの活用も有用です。Evernoteでは、さまざまな資料を蓄積し、さまざまな場面で探し出すことができます(ただし、1ファイル当たり最大25Mbytesまで)。Evernote無料版では、1カ月間でアップロードできる容量に、制限があります。

 整理のコツとしては、デジタルカメラの写真と同じように時系列で管理すると、保存した日や、カンファレンスに参加した日の論文などで探しやすくなります。また、保存(登録)した資料にタグを付けることによって自分なりの分類ができます。PDF文章中のみならず、図表の中までキーワード検索が可能です(日本語検索が不得意な部分もあり)。

図2 EvernoteでPDF論文を整理している画面例 図2 EvernoteでPDF論文を整理している画面例

 例えば、論文の執筆者に注目して、研究論文を集めるのも有用でしょう。また、連名で執筆されている論文の場合、最後に名前が書かれている研究者は、その研究分野でのキーパーソンであることが多く、周辺情報を多く検索できます。

 ここではEvernoteの便利さを紹介しましたが、Evernoteを使わずとも、自分なりの保存方法でよいのです。有益な論文を保存して、自分なりの“図書館”を作ると、情報の引き出しが多くなることでしょう。

「研究者」をキーに引用もたどる

 論文は過去のさまざまな研究をベースに書かれることがほとんどで、論文の最後にリファレンス(Reference、参考文献)として過去の論文が引用されています。

図3 論文「MapReduce: Simplified Data Processing on Large Clusters」の12ページ目(赤線で囲んだ部分がリファレンス) 図3 論文「MapReduce: Simplified Data Processing on Large Clusters」の12ページ目(赤線で囲んだ部分がリファレンス)

 前回紹介したような論文検索サービスを活用すれば、引用論文を見つけて読むことができます。平易にGoogleやGoogle Scholarで検索しただけでも多くの情報が得られるでしょう。論文をキーに探すのも有益ですが、「研究者」をキーに探すと確実に情報が得られるでしょう。論文そのものだけではなく「研究者」を知ることによって、何かの学会やカンファレンスなどで、本人に出会ったときにも、話が弾むことでしょう。

論文を活用して、肩の上に立たれる「巨人」を目指せ

 論文はある研究の成果を記したものであり、本当の価値は論文ではなく、研究そのものにあるはずです。

 例えば、IT系の論文であれば、研究成果を実装したソフトウェアが存在する場合も多く、内容が詳しい論文であれば、内容を発展させて、プログラム実装も可能でしょう。

 現代の学問は多くの研究の蓄積の上に成り立っているという意味での「巨人の肩の上に立つ」ことをもっと実践していき、いつかは皆さんの研究や、作り上げたものが「巨人」になることを応援しています。

 次回は2009年11月初めごろに公開の予定です。内容は未定ですが、読者の皆さんの興味を引き、役立つ記事にする予定です。何か取り上げてほしい内容などリクエストがありましたら、編集部@ITの掲示板までお知らせください。次回もどうぞよろしく。

プロフィール

安藤幸央(あんどう ゆきお)

安藤幸央

1970年北海道生まれ。現在、株式会社エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。

ホームページ
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所属団体
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)

主な著書
「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
The Java3D API仕様」(監修、アスキー)


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