Novell SUSE LINUX Enterprise Server 9

カーネル2.6がもたらすスケーラビリティと堅牢性

 Turbolinux DesktopやPro 9.1のように、デスクトップ用途ではカーネル2.6を採用するディストリビューションが登場しつつある。カーネル2.6によってもたらされるスケーラビリティや堅牢性については、全貌を現したLinuxカーネル2.6で紹介されているように、カーネル2.4に比べて大きなアドバンテージがある。だが、ミッションクリティカルな用途では、安定性が最重要課題となる。この用途については、多くのディストリビュータが慎重策を講じてきた。

 こうした状況の中で、SLES 9がカーネル2.6採用の先陣を切ってきた。カーネル2.6を採用したことでCFQ(Complete Fair Queuing)、NOOP、Deadline、AnticipatoryといったI/Oスケージューラが選択可能となっていたり、データベースサーバに必須のRAW I/Oや非同期I/OといったファイルI/Oの効率化、マルチプロセッサシステム対応の強化を実現している。

コラム SLESのファイルシステム
SLESは、デフォルトのファイルシステムがReiserFS(Linuxファイルシステム第5回)となっており、XFS(同第7回)やJFS(同第6回)、旧来のext2/ext3(同第4回)を使用する場合は、インストール時にファイルシステムを切り替える。

 また、SLES 9には、カーネル2.6での本格採用が見送られた「CKRM(Class-based Kernel Resource Management)」が独自に盛り込まれている。CKRMは、SUSE LINUXとIBMが共同開発したカーネルリソース管理システムである。カーネルリソースを動的に割り当てることが可能で、1つのプロセスがCPUなどのリソースを占有してしまうような事態を防止できる。こうした点に、同じくカーネル2.6を採用したPro 9.1とは明らかに異なるアプローチが取られていることがうかがえる。

総合管理ツール「YaST」の魅力

 SUSE LINUXシリーズには、一貫して総合管理ツール「YaST」が搭載されている。YaSTは、Pro 9.1のプロダクトレビューでも述べられているように、あらゆる設定・管理ツールが1つの画面を通して提供されている。

 Red Hat LinuxやTurbolinux、MIRACLE LINUXでもGUI/CUIによる管理ツールが提供されているが、設定対象によってツールを使い分ける必要があるため、どのツールを使うべきかについて多少のトレーニングが必要となる。そして、結局は管理ツールを使わず、筆者のように/etc内の設定ファイルをviで直接編集するといったことが多くの場面で行われている。YaSTは1つの画面で完結しており、かつその完成度が高いため、confファイルの直接編集に慣れている筆者も、いまではYaSTを使って設定することが多くなっている。

画面2 GUI版のYaST(画像をクリックすると拡大表示します)

 YaSTはCUI版も提供されており、sshなどによる遠隔操作時でも使用できる。

画面3 CUI版のYaST(画像をクリックすると拡大表示します)

 YaSTコマンドは、/sbin/yastと/sbin/yast2の2つが用意されている。だが、

# /sbin/yast2

でYaSTを起動すると、X Window SystemなどGUI版が起動可能な環境であれば画面2のようなGUI版、sshなどを使用している場合は画面3のようなCUI版が自動的に選択される。実は、/sbin/yastは/sbin/yast2へのシンボリックリンクとなっているのである()。

注:/sbin/zast、/sbin/zast2も/sbin/yast2へのシンボリックリンクとなっている。これは、SUSE LINUXの本国ドイツでは、ASCIIやJIS配列キーボードの「y」の位置に「z」があるため。

 VNC(ゼロ円でできるXサーバ WindowsでLinuxをリモート操作)を利用した遠隔操作も可能だ。Webブラウザを使ったJava Applet版VNCクライアント(画面4)あるいはkrdcなどの専用VNCクライアント(画面5)による接続の2通りが提供されている。

画面4 Internet Explorer上のJava Appletで表示したVNCクライアントによるリモートログイン(画像をクリックすると拡大表示します)

画面5 KDEのVNCクライアントkrdcによるリモートログインでYaSTを実行している様子(画像をクリックすると拡大表示します)

YOU(YaST Online Update)

 セキュリティパッチやアップデートパッケージは、YaSTの「オンラインアップデート」(YOU:YaST Online Update)で行う。

 Pro 9.1は認証なしでパッケージ取得が可能だったが、SLES 9では別途アカウントが必要となる。SLES 9はアニュアル(annual)アップグレード方式を採用しており、パッケージ購入後1年間はYOUによるアップデートが可能だが、次年度からはライセンスの購入が必要である。

 ちなみに、3年分のアニュアルアップグレードを含んだパッケージも用意されるという。セキュリティパッチやパッケージアップデートについては製品発表後5年間が保証されており、比較的長い製品サイクルとなっている。

 ミッションクリティカルな用途においては、必ずしもサーバがインターネットに接続できるとは限らない。運用ポリシーによっては、外部からはもちろん、内部から外部への通信も限定されるため、SUSE LINUXのアップデートサイトが利用できないことがある。このような環境では、SLES 9のYOUサーバ機能を使用してローカルサイト内にYOUサーバを設置することで、アップデートをローカルサイト内で完結させることができる。

画面6 YaSTのYOUサーバ設定画面(画像をクリックすると拡大表示します)

 YOUサーバ機能を利用する場合、ローカルYOUサーバだけでも外部の公式YOUサーバとミラーが張れるようになっているか、CD-Rなどの物理メディアを使ってローカルYOUサーバにパッチを転送しておく必要がある。

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Index
Novell SUSE LINUX Enterprise Server 9
  Page 1
SLES 9の位置付けと開発体制
 SLES 9とPro 9.1の位置付け
 マルチプラットフォーム対応と品質維持管理システム
  Page 2
カーネル2.6がもたらすスケーラビリティと堅牢性
総合管理ツール「YaST」の魅力
 YOU(YaST Online Update)
  Page 3
SLES 9のそのほかの特徴
 サーバ用途に合わせたパッケージング
 SUSE LINUXのディレクトリ構造
前評判どおりの完成度

Linux Squareプロダクトレビュー


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