一志達也のSE、魂の叫び [6]
高機能とオーバースペックの境界線

一志 達也(ichishi@pochi.tis.co.jp)
TIS株式会社
2001/7/11

携帯電話の普及についていまさら何かを述べる必要はないだろう。いまや持っていないという人の方が少ないくらいで、街中を歩いていても電車に乗っていても、携帯電話を手にする人を目にする。おそらく、皆さんの手元にも携帯電話があるのだろうと思う。

筆者が思うに、インターネットに接続するまでに進化した携帯電話は、持ち歩けるコンピュータシステムといっても過言ではない。今回は、携帯電話を題材にシステムのスペック(仕様)について考察してみよう。

マナーモードとドライブモード

 多くの携帯電話には、着信音を鳴らさない「マナーモード」と呼ばれる機能が備わっている。このモードは、電車(補足)や静かにすることを求められる場所で活躍する。マナーモードに設定された携帯電話は、着信音の代わりにバイブレータの振動で着信を伝えるからだ。

 また、電話に出ない場合は「ただいま電話に出ることができません」などといった音声を相手に流し、メッセージの録音を促す(NTTドコモの場合)。

 マナーモードと並んで、携帯電話には「ドライブモード」を装備しているものも多い。これは、運転中に電話に出てはいけない、というところから装備されているものと思われる。このモードの動作は、基本的にマナーモードと同等なのだが音声を流すまでの時間と内容に違いがある。

 筆者の知る限り、ドライブモードは3コール程度で音声メッセージに切り替わり、「ただいま運転中のため……」と運転中であることを伝えてくれる。実際に使っている方は少ないようだが、相手には確実に自分の状況を知らせることができるはずである。よほど急用でなければ、そこであきらめてメッセージを残し、運転を終えたら電話をするように伝えるだろう。

補足
 混雑していない車内ではマナーモード、混雑した車内では電源OFFが常識化している。いうまでもなく、ペースメーカーなどを使っている方への配慮のためだ。車内でメールなどを使いたい気持ちは分かるが、メールを送受信する電波でもペースメーカーには悪影響を与える。殺人犯にならないうちに、注意すべきところには注意したい。

電車モードはなぜないのか

 都心に住むものにとって、電車は自動車よりも身近で日常的に利用する交通手段に間違いない。そして、先にも補足したとおり、電車の中は自動車同様に電話に出てはならない空間と化している。それにもかかわらず、携帯電話に「電車モード」が装備されている、とは聞いたことがない。

 筆者は常にマナーモードにしているが、電車に乗っている最中に電話がかかってくることも多い。そうした場合、相手に電車に乗っていることを伝えたいが、かといって電話に出るわけにもいかず、もどかしい思いをする。相手の方も、何かの都合で出られないのか、単に着信に気付いていないのか判断できない。

 そのため、場合によっては数回かけなおすこともあるし、あきらめてメッセージさえ残さないこともある。もし、電車に乗っていること、降りたら折り返し電話することが伝えられれば、と思うのだ。そうすれば、相手は安心するだろうしメッセージを残してくれるかもしれない。

提案していますか?

 このような話はシステムと直接関係ないと思えるかもしれないが、提案をするという意味において関係がある。システム構築の現場においても、同じような例は多々見受けられるはずだ。

 例えば、顧客から提示された画面イメージは、必ずしも使い勝手がいいものではないかもしれない。または、顧客の考えている業務フローが必ずしも効率のいいものではないかもしれないのだ。

 もちろん、顧客が提示せずに、SI業者が画面イメージや業務フローを提案することもあるだろう。そのとき、ただ提案を受け入れてくれる顧客もあれば、顧客なりの考えが示されることもある。SEにとって大切なことは、そこで顧客の意見だからと、すべてを聞き入れることではない。最善の策を取れるように、顧客の立場に立って真剣に意見を交換し提案できるかである。

 画面イメージに改善の余地があると思うなら、同僚とそれを語り合うだけに済まさず、それを思い切って顧客に提案するべきなのだ。たとえ一蹴されてしまおうとも、自分の経験や知りうる技術を基に考え、提案することは決して悪いことではない。

 顧客にも、技術力を持った方もいれば、そうでない方もいる。しかしいずれにしても、顧客がSEに期待することに変わりはない。自分のイメージどおりのものをただ作るのではなく、自分のイメージ以上のものを提案し、それを滞りなく作ってくれることを期待しているのだ。

 プログラマとSEの差は、そうしたところにもあるのだと思う。

オーバースペックとの境界

 ただし、何でもかんでも提案すればいいというものではないから難しい。提案の内容によってはコストが余計にかかるかもしれないし、納期に影響を及ぼすかもしれない。場合によっては、インフラの見直しが必要であったり、運用上のコストが必要になったりするかもしれないからだ。

 そうしたことまで含めて顧客に提案できなければ、その提案は素晴らしいものとはいえないだろう。例えば、先の携帯電話の例であっても同じことが言える。

 ただ「電車モードがあればいいのに」というだけでは、世間話とレベルは変わらない。電車モードを付け加えることで、ほかの機能に影響を与えることがないか、具体的にどのような作業が必要になるかまで考えなくてはならないのだ。もちろん、どれだけのコストが必要になるのか、それによってどれほどの効果があるのかもあわせて考える必要があるだろう。

 こうしたことまで視野に入れることで、自分のアイディアがどのくらい現実的かが見えてくる。いくらいいアイディアでも、コストがかさんだり納期に大幅な影響を与えたりするようでは意味がないのである。

 システム構築において、「オーバースペック」という言葉をときどき耳にする。必要以上に凝りすぎていたり、使いもしないような機能が付け加えられていたりといった、要求以上の仕様を備えていることを意味する言葉だ。

 最近では少なくなってきてはいるが、何でもできてしまうクライアント/サーバのアプリケーションでは、オーバースペックの例を良く見かけたものだ。必要以上にメッセージが表示されるようになっていたり、入力を支援しようと、必要もないチェック機能や自動入力が備わっていたりする。一見便利なように思えるのだが、そのおかげで処理速度が遅くなっていたり、入力に慣れてくると邪魔なだけだったりするから、オーバースペックといわれてしまう。

 良かれと思ってしたことが仇になってしまうかもしれないのだ。その境界を見つけることは、SEの力量を試される場面だろうと思う。システム仕様を決める際には、提案も必要だが、後先を良く吟味することがもっと重要なのである。

筆者紹介
一志達也

1974年に三重県で生まれ、三重県で育つ。1度は地元で就職を果たしクライアント/サーバシステムの構築に携わるも、Oracleを極めたくて転職。名古屋のOracle代理店にてOracle公認インストラクターやサポートを経験。その後、大規模システムの開発を夢見て再び転職。都会嫌いのはずが、いつの間にやら都会の喧騒にもまれる毎日。TIS株式会社に在職中。Linux Squareでの連載をはじめ、月刊Database Magazineでもライターとして執筆するほか、Oracle-Master.orgアドバイザリー・ボードメンバー隊長など、さまざまな顔を持っている。無類の犬好きで、趣味は車に乗ること。

連載 一志達也のSE、魂の叫び

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