Webの、OSSの明日はどっちだ
 〜 OSC 2008 Tokyo/Springレポート 〜


2月29日、3月1日の2日間にわたって「オープンソースカンファレンス2008 Tokyo/Spring」(OSC 2008 Tokyo/Spring)が東京都内にて開催された。その中から、Mozillaのクリストファー・ビアード氏の講演の模様などをお伝えする。

高橋 睦美
@IT編集部
2008/3/13

 2月29日、3月1日の2日間にわたって、さまざまなオープンソースコミュニティが一堂に会し、最新情報や成果を交換し合う「オープンソースカンファレンス2008 Tokyo/Spring」(OSC 2008 Tokyo/Spring)が東京都内にて開催された。LinuxやBSDといったOSに始まり、その上で動作するApacheやSamba、PostgreSQLといったサーバやデータベース、アプリケーションサーバやPHP、Rubyに代表される軽量言語、さらにはXenをはじめとする仮想化技術に至るまで、幅広いオープンソースソフトウェアをテーマにセッションが行われ、会場はにぎわった。

 この記事ではその中から、初日のセッション、そしてオープンソースの使われ方について模索したセッションについてレポートする。

Webとブラウザとデスクトップの境界が消える?

 OSC 2008 Tokyo/Spring最初のセッションのテーマは「The Future of the Web」。米Mozilla Corporationのバイスプレジデントを務めるクリストファー・ビアード氏が登壇し、これからのWebの姿を展望するとともに、Mozilla Labsで進行中のいくつかのプロジェクトについて紹介した。

 Mozillaは今年、創立10周年を迎える。この節目の年にMozillaでは、Webブラウザの新バージョン「Firefox 3」やモバイル版のリリースを予定している。またメッセージングの領域では、2月19日付で子会社「Mozilla Messaging」を設立し、カレンダー機能などを統合したメールクライアントソフト「Thunderbird」の新バージョンをリリースする計画だ。それ以外にも、ユーザーのインターネット体験を改善するための新しいテクノロジを開発しているという。

 「Web 2.0が到来し、非常にエキサイティングな時代を迎えている。インターネットによって、技術に詳しい人々だけでなく、一般の人々までもオンラインの生活が拡大している」(ビアード氏)

 現在のインターネットと対照的なものとして同氏は、AOLに代表されるインターネット初期に登場したサービスを挙げた。こうしたサービスは、ある特定の企業がコントロールする「高い壁に囲まれた花園」のようなものだった。だが、インターネットの進化に伴いこうした企業はコントロールすることを断念し、閉じていたシステムをオープン化。これによりカオスが生まれ、インターネットは急速に成長を遂げることになったという。

 「いまのインターネットには、中枢となるコントロールポイントが存在しない。それ故に分散し、カオスが互いに統制し合いながら急速に成長を遂げている」(同氏)

 ビアード氏はさらに、「カオスと秩序、コントロールとオープンさのバランスを取ることが、今後のインターネットの発展には不可欠だ。そしてその実現において、オープンソースとオープンスタンダードが鍵を握っている」と述べた。

オンラインの作業をもっと人間的に

ゴールデン氏
Mozilla Corporationのバイスプレジデント、クリストファー・ビアード氏

 Webブラウザはこうしたインターネットの進化、成長を大きく後押ししてきた。だが、Mozilla、あるいはその前身となるNetscapeやMosaicといったブラウザを振り返ると、「15年たっても、見た目はあまり変わっていないのではないか」とビアード氏は指摘する。

 一方で、「Web」は大きく変化した。スタート当初のYahoo!に代表される通り、10年前のWebは、スタティックなコンテンツを一方向で提供するにすぎなかった。しかし、今日のWebは様変わりしている。この変化を踏まえて「インターネットが非中央集権型のまま拡大していくために、Webブラウザはどのように進化すべきだろうか」というのが、同氏が、そしてMozillaが抱える問題意識だ。

 これを踏まえて、Mozillaの研究部門であるMozilla Labsでは、「ユーザーエクスペリエンス」「Webプラットフォームの拡大」という2つの観点から、複数のプロジェクトに取り組んでいる。これらの取り組みを通じてデスクトップとWebブラウザ、Webの境界をなくし「オンラインでの作業をもっと自然で、人間的なものにしたい。Webブラウザの既成概念に挑戦していきたい」(ビアード氏)という。

 ユーザーエクスペリエンスの向上を目指すプロジェクトの1つが、「Personas」だ。同氏いわく「WebブラウザとWebの境目をなくしていくためのプロジェクト」で、ブラウザの中核となる機能をWebサービスとして提供するという。Webブラウザは、ブラウザというよりも「ユーザーインターフェイスのコンパイラとして動作させる」(同氏)ことで、Firefoxブラウザの見た目を動的に変更できるようにする。

 2つ目のプロジェクトは「Prism」で、手元のOSとWebブラウザ、Webの境界をなくしていくことを狙っている。

 具体的には、さまざまなWebサイト/Webアプリケーションをデスクトップに統合させ、それと意識せず利用できるようにするものだ。Webアプリケーションはデスクトップ上にアイコンとして示され、デスクトップアプリケーションと同じように利用できるようになる。例えば「Web上のメールサービスをデスクトップにアイコンとして表示し、さらに未読メッセージのみを示すといった具合に、状況をグラフィカルに指し示すことができる」という。

Prism
Prismのイメージ(Mozillaの資料より作成)

 しかも「Webサイト側で特別に開発を行ったり、コードを追加することなく、Webサイトをデスクトップアプリケーションに変えてしまうことを可能にする」(同氏)

注:この講演から10日後の3月10日に、Prismの新バージョン「Prism 0.9」が公開された。スタンドアロン版に加え、Firefox 3向けのアドオンモジュールがリリースされている

 これらとは別に、「自然言語インターフェイス」というアイデアもある。コマンドインターフェイスの代わりに、人間が普段使っている言葉でブラウザに命令できるようにするものだ。「例えば『私の犬の写真をアップロードしてほしい』と伝えると、flickerをはじめとするさまざまなWebサイトから自分の犬のタグが付いた写真を探し出し、自動的にコンテンツに挿入するといったことが可能になる」(同氏)

いまのテクノロジは不親切

 一方、Webプラットフォームの拡張を目指すプロジェクトが「Weave」だ。「これまでのWeb体験を取り込んで、1つのクラウドに統合する」イメージだという。

 このプロジェクトの背景には、いまやほとんどのユーザーが複数のPCや機器を使い分けてインターネットにアクセスしているにもかかわらず、カスタマイズ機能やプロファイルがデバイスごとにばらばらで、管理が困難だという問題があった。そこでWeaveでは、履歴とプロファイルといったさまざまな情報を、Firefoxというクライアントの中ではなくクラウド側というプラットフォームに持たせて可搬性を実現し、ユーザーがどこにいても利用できるようにするという。

 ブックマークやプロファイルを同期させるサービスは、ほかにも存在する。これに対しWeaveは、データを暗号化して保護しながら、本人の意思に応じて友人や家族、あるいはサードパーティへのアクセスを許可できる点を特徴とする。例えば自分のブックマークフォルダを友人と共有してみたり、必要に応じてアクセス権限をサードパーティに委譲し、プロファイルに応じた処理を委ねたりと、さまざまな使い道が生まれるだろうとビアード氏は述べた。

weave
Weaveのコンセプト(Mozillaの資料より作成)

 現在公開されているのは、最初のバージョン「Weave 0.1」だ。このバージョンでは基本的な暗号化機能とデータ同期の仕組みなどが提供される。今後もバージョンアップを続け、セキュリティの強化などを図っていく計画だ。

 ビアード氏によると、Weaveはユーザー志向のデザインおよびインターフェイスを採用しており、「ユーザーに、ユーザー自身のデータのコントロール権を与えながら、Web上で利用できるようにする」ものだという。つまり、Weave上のデータへのアクセスを許すのも拒否するのも、ユーザー自身というわけだ。

 逆にいうと、現在のテクノロジはまだまだユーザーにとって不親切だという。

 例えば、デジタルカメラで画像を撮った画像をWebにアップロードするという単純な作業にしても、カメラの情報とPC上の情報とWebサイト上の情報はばらばらで、ユーザーが使い分けなければならない。「これはスマートなやり方ではない。こんなふうに作業が難しくなっているのは、ユーザーのせいではない」(ビアード氏)

 何かWebを活用してやりたいことがあるときに、PCやWeb側の都合による操作を強制することなく、PCとWebブラウザ、Webサイトやサイト同士がシームレスに連携するようデザインしていきたいと同氏は述べた。

関連記事:
参考 第29回 Twitterやクラウドへも分岐するAjax/Web APIの道(リッチクライアント & 帳票)
http://www.atmarkit.co.jp/fwcr/rensai/ajaxwatch29/ajaxwatch29_1.html
参考 Firefoxもクラウドコンピューティング対応に
http://www.atmarkit.co.jp/news/200712/25/weave.html

Messaging 2.0の可能性

 ビアード氏はThunderbirdについても言及した。

 「これまで主にフォーカスが当たってきたFirefoxに比べると、Thunderbirdは控えめな存在だった」と同氏。しかしMozilla Messagingを設立し、これまで2人体制だった開発者を10人体制に増強する方針という。2008年の夏には、カレンダー機能の統合や検索機能の改善、拡張モジュールなどをサポートしたThunderbird 3をリリースする予定だ。

 「Webと同じで、メッセージングの世界も15年前とあまり変わっていない。しかし、コミュニケーションの方法は変化している。特に若い人は、従来型の電子メールはあまり使わず、携帯電話のSMSやFacebookをはじめとするSNSのメッセージを利用するようになった」(ビアード氏)

 この傾向を踏まえMozilla Labsでは、「Messaging 2.0」的なアプリケーションとして、電子メールだけでなく、SMSやインスタントメッセンジャー(IM)など、複数のメッセージ機能を1つに統合したインターフェイスの開発に取り組んでいるという。また、こうして統合されたメッセージング機能が、Weaveというクラウドを介してFirefoxとデータを共有する可能性もあるとした。

 同時に、「Web 2.0は、広告モデルをベースに大きく発展した。同じように、Messeging 2.0についても、何らかのビジネスモデルが必要だ。それが何かはまだ分からないが」(ビアード氏)という。

関連記事:
参考 「Firefox 3.0」に向けて、Mozillaコミュニティが動き出した
http://www.atmarkit.co.jp/news/200702/02/mozilla.html

 
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 オープンソースを勧めて「感謝されない」ケースとは?
 コラム ソフトウェア保護を巡る「誤解」

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