Linux Square
第10回 読者調査結果発表

〜 Linux基幹システムの構築状況と、その課題とは? 〜

小柴豊
アットマーク・アイティ
マーケティングサービス担当
2003/9/5

 Webサーバをはじめとしたインターネット環境構築では、企業におけるLinux利用もすっかり定着した感がある。その次の段階としてLinuxベンダ各社が提唱しているのが、基幹系業務への浸透を目的とした“エンタープライズLinux”分野だ。果たして、Linuxシステム構築の前線はエンタープライズ分野に向かって拡大していくのだろうか? Linux Squareフォーラムが実施した第10回読者調査から、その状況をレポートしよう。

Linuxシステムの構築状況

 初めに、読者が現在どのようなLinuxシステムを構築しているのかを確認したところ、全体の68%が「イントラネット/社内情報系システム」、同45%が「情報配信やECなどの(社外用)Webシステム」を挙げており、LinuxとWeb技術の結び付きが深い様子が分かる(図1青色)。一方「財務会計や生産/販売管理などの基幹系システム」については、現在の構築者こそ全体の8%にとどまったものの、今後の構築予定・検討率は倍増の16%となっており、エンタープライズLinuxの実現に向けた動きが着実に広まっている様子が感じられる(図1黄色)。

図1 Linuxシステムの構築状況(複数回答 n=240)

Linuxサーバ用ハードウェアの利用状況は?

 Linuxシステムの用途を高度化するに当たっては、そのインフラとなるサーバ強化も必要となってくる。そこでLinuxサーバ用ハードウェアの利用状況/利用予定を尋ねたところ、現在は「Celeron/Pentiumクラス」の利用率が75%に達した(図2青色)。Linuxの現在の主用途であるWebシステムでは、信頼性が重視される状況においても同クラスの比較的低コストなサーバを冗長化する“スケールアウト”構成が取られているものと思われる。

 一方、今後のハードウェア利用予定を見ると、デュアルプロセッサに対応した「Xeonクラス」や、Intel Itanium/AMD Opteronといった64bit CPU搭載サーバの検討が進んでいることが分かる(図2黄色)。データベースや基幹業務アプリケーションなどのバックエンド・システムでは、サーバ単体の性能を向上させる“スケールアップ”構成が有効といわれている。これら高性能IAサーバの登場も、Linuxのエンタープライズ業務利用を後押しする要因になっているようだ。

図2 Linuxサーバ用ハードウェア利用状況(複数回答 n=240)

Linuxで基幹システムは構築できるか?

 ここまで、システム用途やハードウェアの観点からエンタープライズLinuxの可能性を見てきたが、エンジニア自身はLinux基幹システムの構築についてどう感じているのだろうか? 読者の実感を聞いたところ、「Linuxによる基幹システム構築は、すでに一般的である」との強気の見解は2割弱にとどまったが、約5割が「まだ一般的でないが、技術的には十分可能だ」と答えており、全体的にはエンタープライズLinuxに前向きなマインドを示している(図3)。

 ただしその一方で、「Linuxで基幹システムを構築するには、まだ多くの問題点がある」との意見が3割弱に上っている点が、気に掛かるところだ。Linux基幹システムの構築に、現在どのような問題があるというのだろうか?

図3 Linuxによる基幹システム構築への意見(n=240)

Linux基幹システム構築の課題とは?

 続いて、Linuxで基幹システムを構築する際、読者の周りで問題となっている点を聞いた結果が、図4だ。複数回答で最も上位に挙げられたのは、「基幹システム構築・管理のスキル/ノウハウ」という人的側面だった。この点について読者のコメントを見ると、

  • 運用管理に不安があるため、Linuxで提案してほしいとは発言しにくいのが現状(建設業:社内情報システム)
  • 個人の趣味の延長程度の知識の人が大半。基幹システムに耐える人材の確保が急務なのではないか(受託開発ソフト業:SE)

といった具合に、ユーザー側/ベンダ側問わず課題意識が高いようだ。Linuxエンジニアの育成は目新しい課題とはいえないが、今後は特に基幹システムに対応できるような学習機会/情報共有の場が必要となりそうだ。

図4 Linuxによる基幹システム構築の課題(複数回答 n=240)

Red Hat Linuxサポートポリシーへの対応は?

 さて今回の調査では、Linux法人利用にかかわるさまざまなトピックスについて、読者の意見を聞いている。後半では、その結果を紹介していこう。

 まず、Linux基幹システム構築課題の3番目にも挙げられた“オープンソース製品のサポート体制”に関連して、Red Hat Linuxのサポートポリシーを取り上げた。レッドハット社では“Red Hat Enterprise Linux”を企業向け、“Red Hat Linux”を個人/SOHO向け製品と位置付け、Red Hat Linuxの製品サポート/Errata提供期間を米国出荷後1年間に限定している(2002年12月発表)。

 Linuxディストリビューション中で最大のシェアを持つRed Hat Linuxのユーザーに、このポリシーへの対処予定を聞いたところ、レッドハット社の意向に沿って「Red Hat Enterprise Linuxを導入する」と答えたのは、該当者の12%にとどまった(図5)。最も多かったのは、「いまのバージョンを使い続ける」という回答だが、Errata提供が終了したバージョンを使い続けるのは、セキュリティ管理上のリスクが高まることを意味している。「ほかのLinuxディストリビューションに乗り換える」との意見も上位に挙がっているだけに、サポート問題が今後のディストリビューション選択に影響を及ぼす可能性もありそうだ。

図5 Red Hat Linuxサポートポリシーへの対応予定
    (複数回答 Red Hat Linuxユーザー n=179)

オープンソースライセンスへの意識は?

 次のトピックは、オープンソースのライセンス意識である。最近の電子政府関連のLinux導入動向に対して、マイクロソフトなどのベンダ側は「オープンソースは知的財産権を否定し、健全なソフト産業の発展を阻害する」と指摘し、政府側は「ベンダはビジネスモデルをソフトウェア販売型からサービス指向型へ転換すべき」としているが、システム構築にかかわるエンジニアはこれをどう考えているのだろうか?

 図6を見ると、「ソースコードの公開は重要なので、GNU GPLライセンスを採用したい」という“フリーソフトウェア”派が13%であったのに対し、「オープンソースは活用したいが、それを基に作成/修正したソースはビジネス上公開しにくいので、BSD/Apacheなどの緩やかなライセンスを採用したい」との意見が全体の半数を占めた。

 政府側の言い分は正論であるが、ビジネスモデルの転換はそう簡単に実現できるものでもない。論争の焦点であるGPLからは距離を置き、オープンソースを活用しながら販売収入を得る道を模索するというのが、現在のLinux開発者の現実的な意識のようだ。

図6 オープンソースライセンスへの考え方(n=240)

SCO問題による影響は?

 最後に、2003年最大(?)のLinuxトピックとなりつつあるSCO問題を取り上げた。

 2003年5月、米SCOが発した“Linuxは未許可のUNIX派生物であり、法的責任が商用ユーザーに及ぶ可能性がある”との警告に対して、読者のかかわるLinuxシステムが何らかの影響を受けたかどうか尋ねた結果が、図7だ。「Linuxシステムの新規構築や提案を控えている」など具体的な影響を受けた読者は数少ないものの、全体の半数近くが「現在のところ影響はないが、今後の成り行きによって考える必要がある」と懸念を示しており、この問題が手放しで楽観できるものではないことが分かる。せっかく盛り上がってきたエンタープライズLinuxムーブメントに水を差さないためにも、SCO問題の速やかな収束が望まれるだろう。

図7 SCO問題の業務への影響(n=240)

調査概要

調査概要
調査方法
Linux SquareフォーラムからリンクしたWebアンケート
調査期間
2003年6月30日〜7月25日
有効回答数
438件(うち、Linuxシステム構築者240件の回答を集計)

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