新連載:グループウェア徒然草(1)

グループウェアはどこへ行く?

関 孝則
2001/5/10


 どうも最近あまり聞かなくなった言葉「グループウェア」。そんな印象を、皆さんはお持ちではないでしょうか? 数年前までは、ほとんどのコンピュータ関係の雑誌に毎月のように登場した人気ソフトウェア。そんなグループウェアが、どうしてあまり話題に上らなくなったのでしょう。グループウェアの始まりから、ブームの時代、そしていまにいたるまでを振り返って考えてみましょう。

コンピュータをコミュニケーションのために

 グループウェアは、『グループでの共同した仕事を助けるためのソフトウェア』などとよく定義されています。共同という言葉には、人と人とのやりとりを中心とした連絡、討議、調整など、さまざまなグループの仕事が含まれますが、その中でもグループでやりとりをして何かを作っていくという意味を込めて、「コラボレーション」という言葉もよく使われています。

 それらグループの仕事の最も基本要素と考えられるのが、人と人とのコミュニケーションであり、それを実現する代表格が「電子メール」といえるでしょう。まさに、グループウェアの原点ともいえる電子メールの誕生は、1970年代初めのインターネットの前身であるARPANETにさかのぼります。


Illustration by Sue Sakamoto

 その後、より多人数で密度の濃いコミュニケーションをするために、「電子会議」が1980年代に生まれています。その1980年代には、学術的にもコンピュータ支援共同作業(CSCW)という研究分野が確立され、たくさんの研究がなされるようになりました。現在グループウェアの基本的な機能と考えられるワークフローなどのいろいろなアイデアは、この1980年代に生まれています。

グループウェア・ブーム

 1990年代に入り、企業でホワイトカラーの生産性向上や組織のフラット化などが叫ばれ、それと並行してLAN環境がそろいはじめました。それを待っていたかのように、1980年代までのグループを支援するソフトウェアのアイデアが、それらを成熟、統合した形で、しかもそこにアプリケーション開発機能などさまざまな機能が付加されて、グループウェアとして一気に花開くことになります。市場では、その後、ロータスのノーツ/ドミノとマイクロソフトのExchangeが2大勢力となっていくのは皆さんがご存じのとおりです。

 1990年代後半は、グループウェア・ブームといわれるように、多くの企業が全社規模でグループウェアを導入していきました。ホワイトカラーの仕事の中心であるグループでのコラボレーションを、いかにグループウェアで効率的に、かつレベルの高いものにできるかが、その中心的なニーズだったように思えます。

 また、アプリケーションとしては、電子メール、電子会議、ワークフローなどの基本機能を中心としながらも、統合されたグループウェアの特長から、そのアプリケーション開発環境で、いろいろなグループウェア的業務がその上に開発されていきました。企業のホワイトカラーにとっては、1日のかなりの仕事をその上で行う、「ワークプレイス」としての要素が強まっていったわけです。

Webがもたらしたインパクトとより広いニーズ

 さて、このブームにやや後れをとってやってきたのが、インターネット・ブームです。「アプリケーションはすべてWebサーバになる」といわんばかりの勢いが、グループウェアにも押し寄せました。当然のことのように、統合グループウェアでもWebブラウザからのアクセスができるように、各社はインターネット・プロトコルへの対応を急いだわけです。

 しかし、Web化というインパクトは、統合グループウェアのインターネット・プロトコル化という現象だけでは終わらず、インターネット・プロトコルのみで作られる「インターネット・グループウェア」の新たな出現をもたらしました。またその中からは、統合グループウェアの高機能化、厳しいシステム、セキュリティ管理などの反省からか、比較的単機能で、ユーザーが主導権をもって利用でき、また社外とのやりとりもできるような、手軽なグループウェアも出現しています。サイボウズのサイボウズOfficeやロータスの
QuickPlaceなどがこれらの範ちゅうにあたるでしょう。

 インターネット・グループウェアは、その拡大こそ見込まれているものの、Webブラウザの機能的な限界からか、統合グループウェアの専用クライアントの機能を捨ててまで、インターネット系のグループウェアに置き換えるという選択は、いまのところそう多く見られません。むしろ、これらはコラボレーションのニーズはあるものの、統合グループウェアではなかなか満たしにくい、ユーザーの簡易的なコラボレーション、どのPCからでも利用、社外とのやりとりなどのニーズを満たすために、新たな選択肢を増やしたというのが実情といえるかもしれません。

 なお、インターネット・プロトコルの対応は、携帯電話やハンドヘルドでのグループウェア利用という道筋をつけて、現在広がりつつあります。その意味では、Webはグループウェアに多様なデバイスからアクセスできる自由度を与え、いろいろな場所でのコラボレーションのニーズを満たしてきたといえるでしょう。

eコマースでのグループウェア的なもの

 一方、Webのインパクトは、意外なところでグループウェア機能の利用を促しました。eコマースなどに代表される、Webのビジネスへの利用の中で、顧客とコラボレーションするような要素が、さらなる魅力あるeビジネス、顧客志向のために必要とされています。商品への顧客からの声を電子会議的に掲載、顧客の声を担当者が処理に結びつけるワークフロー機能、注文の結果を顧客に報告する電子メール機能と、eコマースでのコラボレーションニーズを満たすために、まさにグループウェアの機能と密接に結びつきはじめたのです。amazon.comなどにもその例が見られます。

 このようなグループウェア機能は、もちろんeコマース・アプリケーション開発の一部として実現されるものもあります。しかし実際には、統合グループウェアのインターネット対応や、インターネット・グループウェアにより実現されたり、コラボレーション用のサーバ・サイドJavaの汎用部品で実現されたりと、多様な形で作られているのです。このように、eコマースなどがグループウェア的な機能を必要として、グループウェア的な機能を提供するさまざまなコンポーネントが利用されはじめているといえるでしょう。

さらなる新しいコラボレーション

 グループウェア的なアプリケーション機能という観点では、eコマースのみならず、社内の基幹システムやワープロなどのオフィススイートにも、機能として付加されたりしています。そんな環境の中で、グループウェアのシンボル的存在の統合グループウェアなるものは、いったいどうなっているのでしょう?

 現在の統合グループウェアは、基本的にはリアルタイム性の低い、電子メール、電子会議、ワークフローなどのコラボレーションをサポートしています、近年、リアルタイム性の高い、インスタント・メッセージングや電子会議、またナレッジ・マネジメントといった観点からポータル、高度な全文検索エンジンなども、統合グループウェアに取り込まれるか、連携するような形をとりはじめています。

 ホワイトカラーの仕事は、特定の業務アプリケーションを利用するという形態もあるものの、多くの場合、いろいろな人との非定型なコラボレーションが主体です。それらを集中的に効率的に行える場所、ワークプレイスともいえる統合グループウェアのニーズは、共同作業やコラボレーションを密度高く、オフラインも含めて常に期待しているホワイトカラーにとって、その役割が減ることはないように思えます。

グループウェアからグループウェア的へ

 グループウェアという言葉を代表する製品であった統合グループウェア。いままで見てきたように、それを超えたグループウェア的なものの大きな広がりは、相対的に統合グループウェアの地位を下げ、グループウェアという言葉を不明瞭にしてきたといえるでしょう。

 しかし、10年前に比べてより多くのグループウェア的な機能を持ったアプリケーションや、さまざまなデバイスでグループウェア的なものが出現し、さらに新しいコラボレーションのやり方、グループウェア的な機能が開発されています。ちょうど電話というコミュニケーションの道具が、初期の単純なものから、ビジネス用、高機能なビジネス用、ホーム用、FAX兼用のもの、携帯などと多様に広がり、それぞれが発展している様子に似ているような気がします。

 このように、グループウェアの周りで起きている現象は、コラボレーションが多様に、しかもいたるところで必要とされているということを反映し、それによってグループウェア的なものが広がっているといえるのではないでしょうか。このことは、グループウェアという言葉の後退と反して、グループウェア的なものの一層の発展を感じられないではいられません。

徒然なるままに

 コラムの第1回として、大ざっぱにグループウェアの過去から現在を見てきました。次回からは、1990年代、たくさんのお客さまのグループウェア構築に携わってきた者の1人として、このグループウェアが通ってきた道で見えたもの、そしてこれからの道で見えてくるものを、エッセイ風に連載していきたいと思います。

筆者プロフィール
関 孝則(せき たかのり)
新潟県出身。国産コンピュータメーカーでの経験を経て、1985年IBM藤沢研究所へ入社。大型計算機のオペレーティングシステムなどの開発、IBMの著作権訴訟、特許権訴訟の技術調査スタッフなどを担当。1994年から日本IBMシステムズ・エンジニアリングでロータスノーツの技術コンサルティングを統括。代表的な著書に、リックテレコム社『ロータスドミノR5構築ガイド』(共著)、ソフトバンク ノーツ/ドミノマガジンの連載『ノーツ/ドミノ・アーキテクチャー入門』、日本IBMホームページ上のWeb連載『SE関のノーツ/ドミノ徒然草』など。
メールアドレスはts@jp.ibm.com


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