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連載:グループウェア徒然草(4)

“電子メール”はどこへ行く?

関 孝則
2001/8/7


 「“グループウェア”といえば“電子メール”」といっていいほど中心的な存在となっている電子メール。インターネットメールの興隆で、あっという間にインターネット・プロトコルであるSMTP/POP/IMAPなどがグループウェアでも採用され、昔ながらのグループウェアの独自プロトコルは、やや古めかしく聞こえる今日このごろです。

 ただ、独自プロトコルからインターネット・プロトコルへの収束が、メールの方向性といい切っていいのでしょうか? 今回は、メールの技術が今どこへ向かおうとしているか考えてみましょう。

メールクライアントの予測

 最近IDCのレポートでメールに関して考えさせられるデータを見つけました。北米企業の電子メールの今後の動向についてですが、メールクライアントの種類をプロトコル別にPOP/IMAP/Web/独自と分けて、2000年から2005年までの予測をしたものです。2000年時点では独自プロトコルのメールが7割を占めていてトップ、あとはWebメールが1割強、IMAPが1割、POPが1割以下というものです。グループウェアが全盛だった1990年代を考えると、感覚的に納得できる数字かもしれません。

 では2005年の予測ですが、北米企業の電子メールユーザーの絶対数は2000年より2割程度増加する中で、独自メールが全体の5割、Webメールが3割、IMAPが2割、そしてPOPはごくわずかというものです。これらの傾向の中で、Webメールなどはここ最近の注目度から考えると、うなずけるものがあるでしょう。ただ、これだけインターネット・メール化の流れが強い中で、独自メールは絶対数では増加こそしないものの、5年後も圧倒的な勢力であるという推定は意外かもしれません。このデータはあくまで予測ですが、これらの数字の裏付けになりそうなシナリオを少し考えてみましょう。


Illustration by Sue Sakamoto

企業にとっての独自メール

 独自メールは、1990年代に一斉にインターネット対応が進みました。確かにサーバ間の通信では社外はもちろんのこと、社内においてもSMTP化が進んだといえるでしょう。このようなオープンなプロトコルによるサーバ間通信の標準化は、企業間コミュニケーションを大いに促進し、コスト削減にも貢献したに違いありません。そんな中で、サーバとクライアント間のプロトコルはどれほどの意味を持つのでしょう。

 ユーザーはすでに、一般に高機能の独自メールのクライアントに慣れているとしたら、場合によってはわざわざ機能が減ったりするようなインターネット・メール専用のクライアントに置き換える意味は、そうは見当たらないでしょう。特に企業にとって重要な機能であるカレンダ/スケジュール、またワークフローなど、すでに独自メールと連携しているアプリケーションの存在は、独自メールクライアントの重要性を引き立てるでしょう。インターネットの世界でも、これらの機能に対応するプロトコルなどは、すでにある程度実現しているものもありますが、その標準化の状況やレベル、さらに開発のハードルなどを考えれば、まだまだ独自メールに軍配が上がる部分も多いでしょう。まして先ほどのデータのように、今後もIMAPやPOPを利用する必然性が少ないとしたら、高機能化をひた走る独自メールの残る意味は十分あるかもしれません。

Webメールの意味するもの

 さて今後、大幅な増加が見込まれるWebメールですが、どうも市場ではその機能について、ほかのメールクライアントと比較して、評判のよいものは少ないようです。よく知られているように、Webメールは汎用で単純なHTTPプロトコルの上にメール用のプロトコルを模して、Webブラウザをメールクライアントにしようという試みです。この意味では、WebメールはHTTPの上に実現した独自プロトコルといえるでしょう。現時点でのWebブラウザを取り巻く技術は、対話性のレベルの高いメールのようなアプリケーションにとってはかなり厳しいもので、それらの評判もやむを得ないのかもしれません。

 しかしそんなことをよそに、実際のお客さまからはいままでのメールユーザーとは違った、モバイル度の高いユーザー、オフィスでなくフィールドなどで働くユーザー、これらのユーザーのコミュニケーション度を高めるためにWebメールを使いたいという、高い関心が寄せられています。Webメールであれば、Webブラウザを導入したPCを1台どこかに置いてさえおけば、仕事の合間にいろいろな人がメールを利用できるでしょう。つまりどちらかといえば、メールをいままで使える環境になかったユーザーにメールを使ってもらうのに、Webメールは役立つといえるでしょう。先ほどの数字でも、メールの絶対ユーザー数の増加がWebメールの増加程度の予測になっているのは偶然かもしれませんが、興味深いものです。ともあれ、ユーザーのそういったニーズがWebメールを盛り立てているといえるでしょう。

シェア調査の数字からは見えないもの

 さて、これらの数字では見えないメールの世界の変化もありそうです。昨年あたりから、にわかにコンシューマ市場で盛んになっている携帯メールや、PDAなどのメールです。今日現在、あまりビジネスでは使われていないこれらのメールですが、Webメールのような使われ方や、モバイルユーザーのオフィスメールに対する“セカンドメール”のような要件を考え、かつ携帯やPDAの急速な進化を考慮に入れれば、ビジネスでの利用の促進を予感させるのに十分な材料でしょう。

 実際、企業ユーザーをターゲットにしたPDAや携帯向けのメールソフトウェアなどが発売され始めています。この世界ではインターネットの仕組みを模しているとはいえ、確立されたインターネット・プロトコルはないのが実情です。そんな意味もあってか、グループウェアの機能強化や専用サーバと専用クライアントとを組み合わる開発が、しばらくは続きそうな気配が感じられます。これらの製品はユーザーのニーズを先取りして、確立したインターネット技術がなくとも、それぞれ独自の技術で開発しているという例でしょう。

企業ユーザーに必要なもの

 1つの予測を出発点に、今後の電子メールの技術のシナリオを考えてきました。どうやらインターネット・プロトコルへの収束は、そう簡単には実現しそうにありません。WebメールというHTTP上の独自のメール、携帯やPDAのための独自のメールなど、むしろ、さらなる多様なプロトコルの出現を感じさせるものがあります。唯一、統一に成功したのはサーバ間のSMTPでしょうか。今後、カレンダ/スケジュール、携帯など、これらを取り巻くいろいろなインターネット・プロトコルの議論が、さらに盛んになっていくことでしょう。

 インターネット・プロトコルでの統一は、確かにIT技術の大きな流れといえるでしょう。しかしIT技術の本質的な目的であるユーザーニーズを経済的に実現するという観点が、技術的な大きな流れ以上にその時点で利用される技術を決めているといえるでしょう。インターネット・プロトコルへ収束したと見えたメールの世界。ビジネスのニーズの多様性はどうやらしばらくメールの世界を複雑に見せることになりそうです。


筆者プロフィール
関 孝則(せき たかのり)
新潟県出身。国産コンピュータメーカーでの経験を経て、1985年IBM藤沢研究所へ入社。大型計算機のオペレーティングシステムなどの開発、IBMの著作権訴訟、特許権訴訟の技術調査スタッフなどを担当。1994年から日本IBMシステムズ・エンジニアリングでロータスノーツの技術コンサルティングを統括。代表的な著書に、リックテレコム社『ロータスドミノR5構築ガイド』(共著)、ソフトバンク ノーツ/ドミノマガジンの連載『ノーツ/ドミノ・アーキテクチャー入門』、日本IBMホームページ上のWeb連載『SE関のノーツ/ドミノ徒然草』など。
メールアドレスはts@jp.ibm.com


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