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ものになるモノ、ならないモノ(35)

2012年、2000万ユーザーのアクセスが2カ所の接続ポイントに集中するのか?

山崎潤一郎
2009/9/10

2012年度までに強制移行するというNGN構想。そのとき、最大2000万のユーザーのアクセスが2カ所の接続ポイントに集中するのか?

  「戦艦大和(ヤマト)の壮絶な最期」「大鑑巨砲主義への固執」という言葉が何度も脳裏をよぎった。

 NTTが次世代の通信インフラとして位置付ける、NGN(Next Generation Network、サービス名は「フレッツ光ネクスト」)の話を聞くにつれ、このようなネガティブ系フレーズが脳内でループ再生されるのだ。

 戦艦大和といえば、「巨艦こそが戦略の要であり国威を示すもの」という、過去の成功体験(日本海海戦の勝利など)の呪縛から逃れることができなかった、日本海軍愚策の象徴として語られることが多い。NGNのことを知れば知るほど、そのような印象が残像のようにちらつく。

 大鑑巨砲主義を連想してしまうのは、「ネイティブ方式」という、NTTが積極的に推進するプロバイダ(ISP)との接続方式において、そのインターネットとの接続ポイント(POI、Point Of Interface)が、2カ所(東京と大阪)に集約されるという部分(ほかに名古屋等にバックアップ用POIがある)。光ファイバーで提供されている「フレッツ光ネクスト」の場合、将来、相当数のユーザーがこの2カ所のポイントを通過してインターネットに接続することになる。

 最大2000万のユーザーが2カ所の接続ポイントに集中する恐怖

 NTTは、2010年度までの光ファイバー加入者目標を2000万件としており、後述するように、現状のBフレッツユーザーを、2012年までに「フレッツ光ネクスト」に「強制収容」する計画を立てている。NGNとプロバイダの接続方式にはネイティブ方式のほかにも、別ルートとなる「トンネル方式」があるので、実際に2000万加入全員が、2カ所のポイントに集中することはない。ただ、NTTは、当然ながら自社に有利なネイティブ方式を積極的に営業するであろうから、膨大な数のユーザーが東京と大阪の2カ所のPOIから、代表プロバイダ(後述)を介してインターネットに接続することに変わりはない。

 この膨大なユーザーのトラフィックを2カ所のPOIからインターネットとやりとりするのだから、ネットワーク技術者などは、トラブルが発生したときのことなど、想像するだけでも身震いするのではなかろうか。NTTは、このために「かつてない巨大なルータをシスコに特注した」(関係者)そうだが、シスコ本社は、NTT以外に売れ先がない、そのような巨大ルータの開発を簡単にOKするはずもなく、「NTTが開発費を負担する」(関係者)ことで折り合いがついたらしい。なんだか発想的には、一昔前の電話交換機そのものという感じ。まさに、NTTの中には、戦艦大和的発想が脈々と息づいているのか。

 ちなみに、現在の地域IP網(フレッツ網)の場合、NGNとは異なり、直接接続するプロバイダは約160社ある。各プロバイダの会員ユーザーが、それぞれのPOIを通じてインターネットに接続するわけだから、まあ、分散されているというか、少なくともNGNのネイティブ方式よりは「インターネットのあるべき姿」に近いと思う。

 NTTのネイティブ方式とプロバイダのトンネル方式の対決

 ここで、ネイティブ方式とトンネル方式の違いについて簡単に説明しておく。将来、各プロバイダは、どちらの方式でNGNと接続するのかを選択しなければならない。トンネル方式は、基本的に現状のBフレッツと同じ方法での接続と思えば良い。一方、ネイティブ方式というのは、各プロバイダは、3社に限定される代表プロバイダを介して、自社ユーザーにインターネット接続サービスを提供することになる。図を見れば分かるように、ネイティブ方式を選択したプロバイダは、自社でネットワーク機器などを持たなくても、プロバイダ業務を行うことができる。つまり、ユーザーのトラフィックを扱う業務は、すべて代表プロバイダに丸投げし、主にユーザーサポート、課金業務、ユーザー管理、コンテンツ提供といった業務を行うにとどまる。

 このNTT主導のネイティブ方式に対し「プロバイダの仕事を奪う死活問題」(あるプロバイダ幹部)として、各プロバイダの反発は強く、08年春あたりから、NTTとプロバイダとの間で、丁々発止の議論が行われてきた。NGNになったとしても、現状のBフレッツと同様にすべてトンネル方式だけにすれば話は簡単なのだが、「ラストワンマイルとプロバイダ業務が分業されているのは、先進国では日本だけ。ガラパゴスだ!」というNTT関係者もおり、NTT法で事業内容に制限を受けているNTTとしては、NGNを機に、風穴を開けたいというのが本音なのだろう。

 ただ、現状でもローミング事業者といった裏方企業にネットワーク部分を丸投げしているプロバイダもいるので、ネイティブ方式がすべてのプロバイダにとって、“迷惑な話”でもないようだ。煩雑でお金にならないネットワーク管理を代表プロバイダに任せてしまえば、ユーザー管理やアプリケーション系業務に専念することができ、クラウドの時代を迎え、新たなチャンスと考えるところもあるだろう。

 実際、BIGLOBEなどは、パーソナルクラウド戦略と称する(参照記事:BIGLOBE、1万台超のサーバを基盤に「パーソナルクラウド」)新しい事業を模索している。これなどは、プロバイダとして、脱ネットワーク屋を目指しているように映る。そういえば、BIGLOBEは、NGNに関するパブリックコメント(東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の第一種指定電気通信設備に関する接続約款の変更案に対する意見募集の結果及び再意見の募集)で、ネイティブ方式に対し実に好意的な意見を述べている。まあ、同社の場合、旧電電ファミリー企業のNECグループということなので、NTT寄りの方向性を打ち出すのは当然で、さもありなんか。

 ちなみに、ほかの大手プロバイダはというと、@niftyはこの件に関していまだ公には態度を表明していない。ただ、@nifty関係者によると「代表プロバイダが正式決定する12月以降に決めればいいこと」と様子見の構え。また、OCNの場合、NTTグループということもあり、当然、NTT寄りの考え方なのかと思ったのだが「NTTグループだけに正面切って味方すると批判の対象になる。かといって、反対路線を打ち出すこともグループ企業としては難しい。微妙な立ち位置」(あるプロバイダ関係者)にいる。

ネイティブ方式とトンネル方式 ネイティブ方式では、3社に限定される代表プロバイダにネットワーク関係の業務を丸投げする形になる。代表プロバイダーは09年12月ごろに決定する。トンネル方式は、従来のBフレッツと同様の方式

 宅内機器のアダプタのコストはユーザーが負担するのか!?

 気になるのは、NGNになったらNTT光ファイバーユーザーのインターネット接続はどうなるの? という部分であろう。結論からいうと、表面的には変化なし。契約しているプロバイダがネイティブ方式にくみしようが、トンネル方式を採用しようが、普通にインターネットを利用でき、料金請求はそのプロバイダから来る(はず)。

 ただ、宅内機器であるホームゲートウェイ(HGW)の入れ替え作業が発生する。NGNというのは現状のBフレッツとは異なるネットワークなので、専用のものが必要になるのだ。実は、HGWの仕様に関しても、NTT(ネイティブ方式)とプロバイダ側(トンネル方式)で熱い戦いが繰り広げられている。トンネル方式を利用する場合、プロバイダまでのネットワークを確立するための専用アダプタが必要になるからだ。

 NGN用のHGWにこのアダプタを内蔵するかどうか、あるいはアダプタのコスト負担をどうするのかで、NTTとプロバイダの意見が割れている。仮に、アダプタが外付けになり、コストもユーザーが負担することになると、トンネル方式のプロバイダが不利になるからだ。この部分は、ユーザーに直接関係する事柄であり前述のパブリックコメントでも、多くの意見が寄せられている。

 監督官庁である総務省も、調整の必要性を感じたのか、09年8月6日にNGNに関する約款を認可(東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の 第一種指定電気通信設備に関する接続約款の変更の認可〜NGNのIPv6インターネット接続に係る接続約款の措置)した際、異例ともいえる「答申書」を付け加え、12項目にも及ぶ条件をNTTに突き付けている。このアダプタの件についても、「NTT東西に対し、トンネル方式に係る利用者負担の軽減などに資する取組を積極的に行うように務めることを要請すること」と直接ではないが指摘している。

 あるプロバイダ関係者は、条件付き認可が出たことで「対NTTの第1ラウンドは終わった。これから秋に向け、アダプタの利用者負担の問題やプロバイダの接続費用負担の問題など、総務省、業界(ISP、メーカーなど)、NTTなどの間で、第2ラウンドの中で駆け引きが行われる」と明かす。

 2012年度までにNGNに強制移行させられる事実

 前述のように、NGNになったからといって、ユーザーのインターネット利用方法が変わるわけではない。だから、ことインターネット接続という部分においては、「別にNGNにする必要ないよね」というのがユーザーの本音だと思う。だが、NTTにとっては、今後、NGNへの移行を進めたい大きな理由があるのだ。

 現状のBフレッツとNGNはまったく異なるネットワークで構成されている。それは、ラストワンマイルの部分も同様で、NGNの提供エリアでは、最寄りの電柱までBフレッツとNGNの2つのネットワークが敷かれている。ユーザーをBフレッツからNGNに移行させる場合、宅内への引込み線はそのまま利用して、電柱部分でNGNの装置につなぎ替えるのだ。

 NTTからすると、地域内にBフレッツとNGNユーザーが混在していると、2つの光ファイバーネットワークを維持管理しなければならず、コスト的にも歓迎すべきことではない。そこで、NTTは、現状のBフレッツユーザーの強制移行を実施する予定だ。NTT持株会社が、08年5月13日の決算発表の中で公開した資料(サービス創造グループを目指して〜ブロードバンド・ユビキタスサービスの本格展開〜)によると、2010年から2012年にかけて、「計画的マイグレーション」という言葉で「強制移行」を明言している。

NTTのラストワンマイル

 ちなみに、この資料には、メタル電話の光ファイバーへの移行についても触れられており、それによると、交換機(D70・新ノード)の活用可能期間、メタル線から光ファイバーへの収容コスト、固定電話における制度(マイラインなど)、政府施策などの課題を検討して、2010年にその態度を明らかにする、とある。つまり、その先を見据えた場合、世の中からメタル線が消えて、光ファイバー一色に染まるということだろうか。「ネット接続は安価なADSLで十分」という人も多いだけに、大いに気になる。

 現在のNTT光ファイバー契約者の事業者別シェアは、7割を軽く超えている。FTTHにおいて、NTT独占を阻止しようとした電力系、USEN、KDDIといったライバル事業者もガリバーNTTの前に今一つ元気がない。光ファイバーインフラでは、まさにNTTの独占、つまりは、日本国中がNGN一色に染まる日がやがてやって来るかもしれない。

 そんなとき、古代史発掘世界遺産的ともいえる電話屋の思想で構築された、大鑑巨砲主義のNGNに自らのインターネット生活を託すことに、筆者は大いに抵抗がある。考えてもみよう。インターネットへの出口が1カ所に限定されているということは、情報統制だってその気になればできる。そもそも、インターネットというのは、自律・分散・協調思想の上に成り立つネットワークのはず。そこにカビの生えた自分たちの考え方を持ち込んで、強制移行という形でユーザーを巻き取ってしまうのか。不安だ。

  山崎潤一郎

音楽制作業に従事する傍ら、IT系のライターもこなす蟹座のO型。最近、iPhone楽器系アプリ演奏ユニット「The Manetrons」を結成し、iPhone楽器アプリの可能性を追求中。近著に、『iPhoneアプリで週末起業』(中経出版)
「Master of IP Network総合インデックス」
→「ものになるモノ、ならないモノ」連載各回の解説

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