キーマンに訊くIPv6の過去、現在、未来
連載:IPv6 Trend Review(3)

non-PCから広げるIPv6
〜まずは都市生活インフラがターゲット

インターネット総合研究所
エグゼクティブスタッフ
技術戦略担当
荻野 司

2002/4/20

 アプリケーションが先か? インフラが先か?――IPv6普及の話で必ずといっていいほど登場するのが、この「ニワトリとタマゴ」の論争だ。本連載の第1回第2回でも紹介したように、現在はISPやルータといったインフラ・レベルでの準備は整いつつある。後はアプリケーション(あるいはその応用)の登場を待ち、いかに広く一般にIPv6を普及させていくかという課題が残っている。今回は、産官学の共同組織である「IPv6高度化・普及推進協議会」の常任理事として活躍し、この難題に立ち向かっている荻野司氏に、そのためのアイデアの数々を聞いてみた。

(聞き手:@IT 鈴木淳也)



 non-PCの世界から広げるIPv6

――荻野さんは「IPv6高度化・普及推進協議会」の常任理事として活躍されていますが、この組織の登場経緯や役割について教えてください

 私自身は、2000年5月からJPNICでIPアドレス割り当てに関する理事を担当しているのですが、その直後にあたる2000年9月、WIDEの村井さんの働きかけもあり、e-Japan構想の中で国としてIPv6に注力していくことが表明されました。そこで、JPNICとしてIPv6に取り組んでいこうという意向もあり、協議会の前身となるものが設立されました。そして、より広く産業界全体にIPv6を広めていこうということで、2001年10月に18の企業と大学を会員に「IPv6高度化・普及推進協議会」の設立となりました。もともと母体となる、総務省管轄の企業体連合があったという経緯もあります。協議会の最高顧問には日立造船の藤井義弘さん、会長に慶應義塾大学の村井純さん、専務/常任理事として東京大学の江崎浩さん、慶應義塾大学の中村修さん、そして私が就任しました。自分が担当しているのは、主に基本戦略に関する部分で、IPv6をどう普及させ、基盤システムを構築していくか、国際連携を踏まえ考えていくことです*1

*1協議会が主催した最近の大きなIPv6イベントとして、2001年12月に開催された「Net Liferium 2001」がある。各種展示のほか、大阪〜東京を結んだIPv6によるライブ映像のストリーミング配信などを行った

――IPv6普及のためのアイデアとして、具体的にどのようなことを考えていますか?

 PCが「IPv6 Ready」だといっても、それだけではIPv6が普及するのはPCの世界に限られてしまいます。そこで、(PC以外の民生機器メーカーを含んだ)産業界全体の盛り上がりのためにも、non-PCの世界に、いかにIPv6を広めていくかということを考えています。私自身が、以前にキヤノンでITRONを使った組み込み型のファームウェアの開発を行っていたという経緯もあるのですが*2、組み込み型のチップにいかにIPv6スタックを導入して、情報家電や車などに応用していくのか、そのための普及活動や情報提供、必要な開発ツールの提供などを行っていきます。

*2荻野氏は、キヤノン在籍時代に同社系列のISPである「ファストネット」の立ち上げに参加していた。その経緯から、JPNICとのかかわりを持つようになり、現在に至っている


IPv6の普及のためには
non-PCの世界に
いかに広められるかが重要です


 都市生活インフラから始まるIPv6

――まずは、どのような機器にIPv6を組み込んでいこうとしていますか?

 協議会の中に「アプリケーションWG」というワーキング・グループ(WG)があります。ここでは、いままでにIPv6環境におけるVoIPの開発や実証実験、プレイステーション2のIPv6化、そして情報家電のIPv6化などを行ってきました。そして、この前の理事会で承認されたのが、「テレコンWG」というアプリケーションWGの中のサブWGです。家庭やオフィスにガスや水道のメーターがありますが、それをリモートからコントロールできないか、というのを考えていくのがこのWGの目的です。

 従来より、メーターのリモート・コントロールの研究は行われてきましたが、それをIPv6を使ってよりセキュアにやっていこうというのです。いまのPCやゲーム機では、32bitsや64bitsのCPUが普通ですが、一般に民生機器に使われているCPUは8bitsや16bitsの世界です。この環境に、いかにIPv6のスタックを載せていくかを考えていかなければいけません。

 「IPv6のバックボーンを構築」「ISPがIPv6のサービスを始める」「IPv6対応のルータを用意する」……これらは、インフラ整備という意味でもちろん重要です。ところが、IPv6にどんなアプリケーションが必要で、どんなメリットがあるのかを考えた場合、具体的な応用事例がない限り、根付いていかないでしょう。そこで私がキーワードとして考えているのが、「民生品」と「組み込み型のファームウェア」への応用です。

――このテレコン技術を、いかに広めていくのですか?

 ここまで、「テレコン(Tele-Control:通信回線による遠隔監視)」という視点で見ていましたが、さらに視野を広げると、「都市施設管理」という大きな枠組みとなります。例えば、地方公共団体の公共施設のメンテナンスをリモートで行う仕組みです。また、マンションの巡回監視やエレベーターの24時間監視なども考えられるでしょう。特に地方の場合は、施設までの距離が遠いですから、そのメリットは大きいと思います。

 また、こういった都市インフラの構築には、地場産業や特殊分野で実績を持つ企業が関わっていますから、ITを普及させることでいかに産業を作っていくか、という視点から見ても、大きな影響力があると思います。

8〜16bitsのCPUが当たり前の世界に
いかにIPv6を実装していくか
これはまさに日本の得意分野でしょう

――なぜ、インフラにIPv6を使う必要があるのですか?

 IPv4では、すでに照明のコントロールを行うような事例がありました。そして、これまで「携帯や電話回線を使ってコントロールします」というものだったのが、インターネットという共通インフラを使ってやっていこうという流れになってきています。このように、リモート・コントロールの試みはいろいろ行われてきましたが、インターネットのような共用インフラを使うとなると、セキュリティがネックになってきます。そこで、IPv6のIPSecを使って、よりセキュアに行っていこうというニーズが出てきたのです。

――先ほど、8〜16bitsクラスのCPUの話がありましたが、それらの機器へのIPv6のセキュリティ機能の実装は、なかなか難しいのでは?

 組み込み機器の限られた環境の中でセキュリティを実現するために、IPv6のミニマムセットを定義する必要もあり、TAHIプロジェクト*3がIETFに対して呼びかけを行いました。その必要性が認められ、現在検討が行われている段階です。この活動は、IPv6協議会が連携をとりながら進めていこうと考えています。組み込み向けチップ、リアルタイムOS、ファームウェア、ミドルウェア……これらの実装技術は日本の得意分野ですから、今後の盛り上がりにもつながると思います。

*3IPv6対応機器の適合/相互接続検証などを行う組織。詳細については、次回登場の江崎氏のインタビューで解説する予定


 IPv6の応用例の1つとして、よく「情報家電」というキーワードが登場する。おそらくは、IPv6時代になり大量のグローバルIPアドレスが割り当て可能になることを考えると、PC以外の汎用機器、つまり情報家電のようなコンピュータを内蔵する機器がIPアドレスを必要とするようになれば、必然とIPv6移行への気運が高まるというのだろう。だが、情報家電が普及した姿というのは、意外と想像しにくいものだ。今回、荻野氏の話に登場した「テレコン」という応用例は、具体的な用途が見えている点で、情報家電よりも普及した姿が想像しやすい。このテレコンへの応用の発想は、2001年末に開催された「Global IPv6 Summit in Japan」で荻野氏が担当したパネル・ディスカッション「コンシューマへのIPv6導入の課題を探る」での、いかにユーザーにIPv6を利用してもらうかという部分の議論がベースになっているという。

 もし、このテレコンをキーワードにIPv6の基礎インフラが発達すれば、自然と一般ユーザーが利用する環境が整うことになるだろう。その意味で、2002年後半から2003年にかけての動きが非常に楽しみである。

 次回は、IPv6高度化・普及推進協議会の理事の1人でもあり、主に技術面でIPv6の開発/普及に貢献してきた、東京大学の江崎浩氏に登場いただき、IPv6の技術面での最新トピックについて語っていただく予定だ。


キーマンのプロフィール
荻野 司(おぎの つかさ)
1986年長岡技術科学大学大学院工学研究科修了。工学修士。同年キヤノン入社。中央研究所を経て、1996年ファストネットにてISP事業を開始のため同社へ出向。1999年同社取締役に就任。同年インターネットシーアンドオー取締役を兼務。現在はインターネット総合研究所 技術戦略担当エグゼクティブスタッフ、インターネットシーアンドオー代表取締役社長、ファストネット取締役、を兼任。インターネットアドレスポリシーの規則策定や、IPv6推進活動に参画、最近は、 non-PCにおけるインターネットの高度利用研究に注力。JPNIC IPアドレス担当理事、IPv6普及・高度化推進協議会常務理事、IAJ IPv6デプロイメントコミッティでもある。


■更新履歴
本文中で、IPv6ミニマムセットに関して一部修正、TAHIプロジェクトに関する記述を加えました。ご迷惑をおかけした方々にお詫びし、訂正させていただきます


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